短編小説 春泥棒
梅干しニーサン
第1話
桜の花が舞っていた、もうそんな時期かと思っている自分がいた。俺は小林敬太郎
今は4月、ちょうど花見シーズンだった裏庭近くの公園では絶えず人が来ている。
花見…最後にやったのなんて何年だろう。
一番最後に覚えているのは5年前…
母と妹で行った花見が覚えている中では最後だった。でも今居るのは白い病室…ガンさえなければ今頃…あの公園で花見でもしているんだろう。母と妹と…ガラガラ…
病室の扉が開いた、この時間帯に来る人物といえば…
「大丈夫?」
「ハァ~…大丈夫じゃなかったら病室なんかいないよ、小冬さん」
「そうよね」
彼女の小冬だけだろうな、学校終わりの5時頃学校終わりの彼女はいつも来てくれる。そうして日常で送るはずだった他愛もない話をする。「ところで、敬太郎は行かないの?花見大会」「花見大会?」
「あら知らないの?この街って実は地区の花見
大会があるのよ」
「そんなのがあったのかよ…小冬さんは行くのか?」
「うん、私は行こうかな。ただ誘う人いないから。ちょっと寂しいかな……」
「ハハハ…俺以外にもいるでしょ.誘う人…」
「……バレた?」
「バレバレだよ......ハハハハハ」
「ちょっと!なんで笑ってんの!」
「ハハハ!ごめんごめん!バレバレな嘘なもん
で」
「も~…せっかく誘おうと思ったのに…」
「まぁ、無理だろうな。先生からも安静にしてろって言われてるしな」
「そっかー…残念。じゃ、またねー」
小冬が帰った後携帯で花見大会の情報を検索し
「明日、13時から19時まで、18時からライトアップ…か…」
ボソッと呟くとカーテンの開く音が聞こえた「今の人、敬太郎の女か?」隣から渋い声が聞こえた。
「龍さん……盗み聞きですか?」
「すまねぇすまねぇ、聞こえちまったもんでな」この人は龍さん。最近隣に来た………
まぁ、裏の人間、なんでだけどすごいいい人でよく話し相手になってくれている。
「まぁ、俺だって行きたいですけど…先生からは止められてますから…」
「先生から…か…でも最後になるかもしれないだろ?俺だったら抜け出してでも行くけどな」
「俺だって行きたいですよ…でも体が…」
その時ガラガラと病室の扉が開いた
「なるほど…だから抜け出したいと?」
「山田先生、どこから聞いてたんですか?」
「最初からだ」
空いてる椅子に座り話を始める。
「いいんじゃないか?最後になるかもしれなんだし」
「......いいん…ですか…?」
「私は、いいと思いますよ…」
そして後日
担当医の検査を受け、やっとこさで外出が許可された。
5時30分、もうすぐライトアップが始まる時間だった。
急いで走って会場まで向かったが、すぐに息が荒くなる。高架下に着いた頃、もう走れなくなってしまった。
膝に手をつき息を整える、その時上から水の入ったペットボトルが差し出された、その水を差し伸べた人物に視線を向けると、驚きを隠せないような表情をした小冬がいた。
「なんで…ここにいるの?」
「ハァハァハァ…悪いかよ…」
「……いや、ありがとう。来てくれて」「…おう」
「あぁ、てか大丈夫?体?」
「医者曰く、まだ大丈夫っぽいし、大丈夫だ
よ」
「そっか…あ、もうすぐライトアップ始まる
よ、行こっか」
そして、小冬は俺の手を引っ張り会場へと向かった。
桜は綺麗だった、夜の闇と桜の綺麗さがマッチし輝いていた。
でもそれよりも綺麗な物があった、詳しくは言えないが、すぐ近くにいた。ずっと大事にしたいような物で近くにあるだけで幸せになるような物だ。
「綺麗だったね、桜」
「そうだな、綺麗だった」
でも一つだけ不安があった、俺はこの桜を、この人と後何回見れるのだろうか、後
2回、いや1回で良い。桜の花が咲き、名もなき葉になるまでを、小冬と見たい。
「また行こうよ、あの景色を見に」
「おう」
夜空の下、高架下でこちらに向かって笑う君の姿は春の美しさを奪うほどに美しい。君はまさに…
「春泥棒…だな」
「ん?なんか言った?」
「フッ。いやなんでもないや」
もし神様がいるとしたら、後少し、生かしてくれないかな。後数えられるだけで良いから、彼女の笑顔を見たいんだ。
桜吹雪が宙を舞った。
春の終わりは近かった
短編小説 春泥棒 梅干しニーサン @zerosenmania
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