第2話

 翌日、俺はなんてことも無かったかのように練習に参加した。

 右腕の処置自体はしてあるが、すぐにまともに動かせるようになるわけもない。

 それでも校内予選出場を諦めたくなくて、左腕でラケットを振る。


「タカシ、右腕どうしたんだ?」


 俺の様子にチームメイトたちからは心配の声をかけられたが、公の場のため本当のことは言わずに、


「ちょっと転んじゃって」


 と伝えるようにしていた。

 俺が左腕で打つボールは、右腕で打つ時と異なり、ひょろひょろと力のない放物線を描いていた。


「見ろよあいつ」


「頑張ってるね~w」


「とっとと諦めればいいものを」


 練習中、これまでと違う俺の球筋を見て、加害者である先輩たちはゲラゲラと笑っていた。

 ダブルスが主体の軟式テニスにおいて、力のない高い弾道のボールはネット前に立っているプレーヤーにスマッシュを打たれる危険性が高い。

 いわゆるチャンスボールになる確率が高いのだ。


「おーい、いつまでボール上げしてるんだ? もっとしっかりとしたボールを打てよ」


 リキヤ先輩はこれまでに俺に言われてきたうっぷんを晴らすかのように言う。


「部活を休んで右腕の治療に専念したらどうかな? どうせ校内予選で勝つのは無理だろうし。ほら、試合はテスト期間と被るから、それを考えればいい機会かもしれないぞ?」


 先輩は白々しくもそんなことを言ってきた。対して俺は、


「いえ。チャンスがある限り努力するのが大事だと思っているので」


 そう言ってひたすらにラケットを振るった。

 そんな俺の姿を見て、先輩はさぞつまらなさそうに舌打ちをした。

 そんなリキヤ先輩とは対照的に、


「タカシ、お前、本当に大丈夫なのか?」


 俺のことを心配してくれるのは、校内予選にペアとして参戦することになった二年生のサトウ先輩。

 後ろでラリー主体のプレーをする俺に対して、彼はネット付近で攻撃的なプレーをする前衛ポジションだ。


「大丈夫です。サトウ先輩がのびのびとプレーできるように頑張ります」


「そうか。お前がそう言うなら、俺も諦めるわけにはいかないな」


 そう言って彼は俺に笑いかけた。


「だけどさ、お前が左腕で打っているボール、高い弾道ばかりだけどほとんどミスがないよな?」


 彼のその言葉に、俺は感心した。やはり見ている人は見ているのだと。


「それに、こんなことを言っては失礼かもしれないが……本当に全力で打っているのか?」


 通常であればここはむっとするべきところなのかもしれない。

 しかし俺はにやりと笑い、先輩の口に人差し指を立て、小声で語りかけた。


「先輩は鋭いですね。そんな先輩にひとつ伝えておきたいことがあります」


「な、なんだ?」


「俺は正々堂々という言葉が好きですが、それ以上に人を驚かせるのが好きなんですよ」


 俺は一瞬だけ不敵な笑みを見せると、それ以降は再び練習に意識を集中させた。



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