第2話 少年と謎のお姉さんたち
「ベルーダとライカのお姉さんですか?」
フィルの問いかけに、二人はびくりと反応する。
その反応を見て、フィルは自身の考えが正しいことを確信した。
「やっぱりそうだ……!」
ベルーダとライカに姉がいるなんて話は聞いた覚えがないが、顔立ちや雰囲気がとても似ているので、そうであるとしか考えられない。
「あの、僕はどうしてここに居るんですか? 実はよく覚えてなくて……」
フィルは自身が寝かされていた石の箱の外へ出ながら、二人に向かって問いかける。
「あのー、もしもーし……?」
しかし、何故かお姉さんたちは何も答えてくれない。ずっと泣きそうな顔をしながらこちらを見つめたままだ。
その様子を見て、フィルは少しずつ嫌な予感がしてくる。
「二人は……ベルーダとライカは……無事なんですか……?」
――自分達のパーティは、いつも通り迷宮に向かう準備をしていたはずだ。
その後の記憶が抜け落ちてしまっているということは、迷宮内で何か大変な事態に遭遇し、身体に大きなダメージを受けてしまった可能性が高い。
「無事に……決まってますよね……? あの二人が簡単に死ぬわけ……!」
フィルは冷や汗が止まらなくなり、自身の指先が冷たくなっていくのを感じた。
「ま、まさか――」
「いいか。落ち着いて聞いてくれ」
そんな彼の肩をしっかりと押さえ、ベルーダによく似た鋭い目つきでじっと見つめる褐色肌の女の人。
「お前の仲間の……ベルーダは……」
フィルは生唾を飲み込み、彼女が次の言葉を発するのを待った。
「アタシなんだ」
「――――はい?」
「ベルーダはアタシなんだよ、フィル」
「????????」
しかし、返ってきたのは最悪の想像の斜め上をいく答えである。
「えっ? ん? え?」
あまりにも意味不明な返事に、フィルは思わず間の抜けた声を出してしまう。
「それで、隣のボクがライカだよー」
「はい?」
「ずっとずっと会いたかったよっ、フィルぅ……!」
「!?!?!?」
フィルは軽い混乱状態に陥った。
「い、いやいや! ベルーダとライカっていうのは僕と同い年くらいの男の子達の名前で、一緒に冒険者をしている友達なんですっ!」
「ああ、分かってるよ。あの時のアタシは……男のフリをしてたんだ。冒険者をやる以上、その方が色々と都合がいいと思ってたからな……」
言いながら、ゆっくりとフィルの頭をなでる自称ベルーダ。
「ボクはー……初めて会った時からずっと、フィルとベルーダがボクのこと男の子だって勘違いしてるのが面白かったから黙ってただけなんだけどー……ベルーダも女の子だったから、スゴくややこしいことになっちゃった。……なんか、ゴメンねぇ」
自称ライカの方は、理解不能な話をしながらフィルの背後へ回り込んだ。
――この人たちおかしい人だ……! たぶん変態だ……!
その瞬間、フィルはそう思うのだった。
「い、いくら何でも……それは無理があります……っ!」
年齢も性別も体格も違うのに無理やりベルーダとライカに成り代わろうとするなんて、普通じゃ考えられない。
そんな分かりやすい嘘が通用すると本気で思っているのだろうか。
フィルは体を揺らし、ベルーダとライカを自称する怪しいお姉さんたちから距離をとろうとする。
しかし――
「あぁ……本当にフィルだ……っ。フィルなんだな……っ!」
「会いたかったよぉっ! フィルうぅっ!」
突然、お姉さんたちは前後の両サイドからフィルのことを力強く抱きしめた。
「むぐっ?!」
大きく柔らかい胸に両側から押しつぶされ、完全に身動きが取れなくなってしまうフィル。
二人からは甘い香水のような――大人の女の人の香りがした。
だが、それに混じって慣れ親しんだベルーダやライカの匂いが僅かにするので、余計に頭が混乱してしまう。
フィルは何か大切なものが破壊されてしまいそうなほどの衝撃を受けていた。
「う、ぐぅ……!」
「本当に……良かった……っ!」
「もう絶対に離さないよぉっ!」
……言われてみれば、あの二人は一緒にお風呂に入ったり水浴びしたりすることを何故か頑なに拒んでくる。
冒険者といえば裸の付き合いが当たり前なのに、多数決で負けていつも三人別々なのは少し変だと感じていた。
今までの違和感は、実はベルーダとライカが女の子だったということであれば一応の説明はついてしまうことに、フィルは少しずつ気づき始めている。
――柔らかい胸に押しつぶされながら。
「……ぷはっ! で、でもっ! やっぱり女の子だったとしても……ベルーダとライカは僕と同い年なんですっ! そんな姿にはなりませんっ! からかうのもいい加減にしてくださいっ!」
どうにか胸から顔を離し、熱い抱擁から逃れて目の前の痴女二人に抗議するフィル。
「……お前を生き返らせるのに十年もかかったんだ」
「本当にごめんねぇ……っ! ボクたち……フィルがいないと全然ダメで……っ!」
「え……生き返らせる……? えぇっ?!」
すると、さらに意味の分からない答えが返ってきた。
「十年前のあの日のことを……思い出さなかった日はない……。いきなり現れた……見たこともない巨大な魔物を前にして……唯一動けたのはお前だけだった……!」
自称ベルーダは目から大粒の涙を流し、声を震わせながら語る。
「ボクとベルーダは……怖くて何も出来なかったんだ……っ! 盾になるのが前衛の仕事なのに……っ! ひっぐ、ううぅぅっ!」
そう言って肩を震わせ、嗚咽を漏らす自称ライカ。
「えーっと……つまり?」
フィルは完全に置いてけぼりを食らっていた。自身の記憶にない壮絶な体験を話されても、まったく実感がわかないのである。
「フィル。お前は……アタシ達が逃げる時間をつくるために魔物と戦って……死んだんだよ……」
「……………………」
あまりにも衝撃的すぎる告白に理解が追いつかず、目をまん丸と見開いたまま固まってしまうフィル。
「僕が……死んだ……?」
――だが、一応は話の筋が通っている。自身の記憶が欠落している理由も説明がつくし……不可能に近い「死んだ人間を生き返らせる」といった奇跡も、謎多き迷宮から出土する遺物を使えば不可能ではないだろう。
今のフィルには、二人の話を否定するだけの根拠が足りていない。
「……ほ、本当に……ベルーダとライカなの……?」
やっとの思いで絞り出したのは、そんな問いかけだった。
「ああ……そうだ」
女の人――ベルーダは断言したあと、再びフィルのことを抱きしめる。
「むぐっ」
必然的に胸の中へ顔がうずまることとなり、フィルはなす
「メノも……待ってる。……お前に話したいことがたくさんあるんだ」
「メノまでっ?! ――うぐっ!」
ベルーダは苦しそうにもがくフィルを胸の中で押さえ込みながら、こう続けた。
「一緒に帰ろう、フィル」
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