パーティを庇って死んだ少年、10年後に蘇生され溺愛される~男の子だと思ってた仲間は過保護なお姉さんになっていました~

おさない

第1話 少年と愉快な仲間たち


「お兄ちゃんへ――冒険者になると言って家を出てから随分と経ちましたが、そっちでは元気に過ごせていますか? わたしは、お兄ちゃんと会えなくて少し寂しいです。……でも、お兄ちゃんの仕送りのおかげで薬を買うことができて、わたしの病気はだいぶ良くなってきました。ありがとうお兄ちゃん。だから……もうお家に帰ってきてもいいんだよ? 早く会いたいです。師匠と二人でまってます。――お兄ちゃんのことが大好きな妹のメノより」


 早朝、宿屋の一室にて、一人の少年が妹から届いた手紙を読み上げていた。


 真っ黒なローブを着た、中性的な銀髪の美少年である。


「うぅっ……!」


 彼はまるで少女が発したかのようなか細い声で嗚咽を漏らすと、妹からの手紙をローブの内側へとしまい込む。


「本当に……良かった……!」


 そして、涙ぐんだ声で呟くのだった。


 ――彼の名前はフィル・マーリス。駆け出しの冒険者である。


 歳は十一歳で職種クラスは魔術師、将来の目標は一流の冒険者になることだ。


 しかし今はまだ新米であるため、迷宮都市ルスティリアを拠点に同い年くらいの仲間たちと一緒に比較的安全な迷宮に潜って実力を磨いているのである。


 迷宮には珍しい資源が豊富であり、フィルのような新人でもそれらを持ち帰るだけで結構な稼ぎになるのだ。


 だからこそ彼は、身体の弱い妹の病気を治すため、危険を承知で荒くれ者揃いとされる冒険者の世界へ飛び込んだのである。


「あともう少しだけ待ってて……!」


 フィルはそんな独り言を呟きながら、いそいそと背嚢はいのうに必要な道具を詰め込む。


「もうすぐ……会いに行けると思うから……っ!」


 家へ帰るのは、もっともっとお金を稼いでメノが裕福な暮らしをできるようになってからだと決めているのだ。


「おいしょっと」


 やや間の抜けた掛け声を発しながら、大きめの背嚢はいのうを背負うフィル。


「おっとっと」


 彼は少しだけよろめきながら壁に立てかけてあった愛用の魔法杖を持ち、魔術の師匠から譲り受けた黒いとんがり帽子を被って宿屋の一室を出た。


「遅いぞフィル、お前が一番最後だ」


 すると、ツンツンとした黒髪に褐色肌の少年――ベルーダが、腕を組んで部屋の前の廊下に立っている。


「ごめん、準備してたら遅れちゃった。えへへ……」


 フィルは謝りながら、ぎこちなく笑顔を作った。


 もちろん、先ほどまで妹の手紙を読んで泣いていたことは恥ずかしいから内緒である。


「まったく……」


 ベルーダは呆れた様子で頭をかきながら、フィルの方ヘ鋭い視線を向けた。


「そ、そんなに怖い目で見ないでよ」

「これは生まれつきだ。怖くて悪かったな!」


 剣士である彼は、先頭に立って魔物を威圧してくれる非常に頼もしい仲間だ。


 しかし睨まれると怖い。


「どうせ弱い魔物しか出ない迷宮に行くんだから、大した準備なんか必要ないだろ」


 武器以外は何も持っていない――ほとんど手ぶら状態のベルーダは、吐き捨てるように言った。


「それは違うよ! 冒険者たるもの、いついかなる時でも万全の準備を整えておくことが大切なんだ。例えば不測の事態でパーティが壊滅した時、帰還の巻き物を持っているかどうかで生存率は大きく変わるからね!」

「はいはい、わかったわかった」


 いきなり熱くなって反論するフィルのことを、面倒くさそうにあしらうベルーダ。


「いいや、何も分かってないよ! だってベルーダはいつも剣しか持って来ないじゃん! 例え前衛の剣士だったとしても、回復薬と帰還の巻き物くらいは持っておいた方が良いって何回も言ってるでしょ?」

「だって……どうせお前が人数分持ってくるし……」


「これはあくまで予備! 戦闘中はいちいちここから取り出してたら間に合わないでしょ! それに、魔物からバラバラに逃げて仲間とはぐれる可能性だってあるのに――」

「お前はうるさいなぁ。オレは最強だから大丈夫だって」


 ――ダメだこの剣士。危機感がなさすぎる……! と、フィルはその時思った。


「そういうこと言うなら、強い魔物と遭遇して逃げなきゃいけないときはベルーダだけ置いてくからねっ!」

「は? よゆーだし。逃げるとかないから」


 ……おそらく、ベルーダは一度痛い目を見ないとずっとこんな調子なのだろう。フィルは肩をすくめた。


「……お化け苦手なくせに」

「お、なんだ? やるか? おい!」

「ダンジョンにだって幽霊系の魔物は出るんだよ?」

「う、うるさい! 剣が効かない奴はお前が何とかしろっ! ……というか、今その話は関係ないだろっ!」


 確かに、いつ死ぬか分からない冒険者にはベルーダのような後先考えないタイプの人間が多い。


 だが、いつ死ぬか分からないからこそ一流は準備を怠らないのだ。


 もっとも、フィル自身も尊敬するSランクパーティについて書かれた本にそうあったので、深く感銘を受けて真似しているだけだが。


「……とにかく、普段は死なない為の努力を出来る限りした上で、ここぞという時に命を懸けられるのが一流なんだ。ベルーダも早く分かるといいね」

「お前がカッコつけてそれっぽいこと言っても似合わないぞ。やめとけ」


「ひどい! ベルーダのバカ!」

「ったく、ガキかよ……」

「ベルーダがね!」

「あ?」


 売り言葉に買い言葉で不毛な言い争いが始まろうとしたその時――

 

「あ、二人ともおはよー。また喧嘩かい?」


 短く切られた癖のある金髪に、綺麗な碧い瞳を持つ少年――武闘家にしてもう一人のパーティメンバーであるライカが、眠そうにあくびをしながら近づいてくる。


「……フィル、あいつを見てみろ。いつも武器すら持たないで迷宮に潜ってるんだぞ」

「武闘家は己の肉体と拳で戦うものだから……」


 二人がひそひそと話していると、ライカは首をかしげながらこう問いかけた。


「それとも、ボクに内緒で何か相談ごとー?」


 それに対し、ベルーダが返事をする。


「……またいつものヤツだよ。フィルが色々と道具を持って行けってうるさいんだ」

「んー、ボクは必要ないと思うなー。……だって、今日行くのも簡単な迷宮だしさー」

「だろ?」

「だねー。大荷物は動きにくくて大変だよー」


 こうなると二対一なので、どう頑張ってもフィルの方が間違っていることになってしまう。


「もういいよ。いざとなったら僕だけ生き延びるからっ!」


 フィルはそっぽを向きながら、投げやりに言った。


「もちろんだよー、後衛を守るのがボクら前衛の仕事だからねー」

「危険な魔物の相手はオレとライカに任せておけって。お前はここぞという時にデカいの一発かましてくれればオーケーだ」

「………………うん」

 

 フィルはその時――もしかして僕、冒険者に向いてないのかな。と思った。


「それに……もしお前が死んだら『お兄ちゃんのことが大好きな妹』とやらに恨まれちゃうからなぁ」

「ぼ、僕宛ての手紙を勝手に読まないで!」

「中は見てねーよ。今のところ」

「…………もう!」


 フィルは今まで、妹のことは二人に話していなかった。同情されるのが嫌だったし、訳ありが多い冒険者はあまり身の上話をしないのが暗黙の了解だからだ。


「……もし何かあったら、僕が泊まってる部屋を調べてくれればいいよ。妹のこととかも……それで分かるから」

「べ、別に知りたかねーよ。そんなもん」

「うん! 僕が元気なうちは聞かれても教えてあげないけどね!」

「面倒くさいヤツだな……」


 仲間といる時にするのは、冒険の話か下らない馬鹿話だと決まっている。それがフィルの思い描く理想の冒険者像でもあった。


「……というか、ライカは遅刻じゃないの? 僕より集合遅かったじゃん」


 フィルは少しだけ強引に話題をそらす。


「違うよー。フィルとベルーダが準備してる間に、一回目の朝ごはんを食べてたんだー」

「そうなんだ……」

「育ち盛りだからねー。もちろん、これから二人と一緒にもう一回朝ごはんを食べるよー」

「すごいね……」


 ライカは将来、きっと凄く大きくて頼もしい感じになるだろうなと心の中で思うフィル。


「ライカ。お前はいずれ大物になる……色んな意味で」


 どうやら、ベルーダも似たようなことを考えていたらしい。


「んー……そんなことより、早く朝ごはんを食べて出発しようよー。ボク、お腹すいたなー」

「オレは何も突っ込まないぞ……!」

「僕もライカくらい沢山食べた方がいいのかな……」


 そんなこんなで、三人はその日も依頼を受けて危険度の低い迷宮へと挑んだのだった。


 *


 ――これが、見知らぬ場所で目覚めたフィルが思い出せる一番新しい記憶だ。


「…………うーん?」


 どうやら彼は何らかの理由で記憶を失い、薄暗い石室のような場所に寝かされていたらしい。


 しかも棺のような箱の中に入れられていた。イタズラにしてはあまりにも趣味が悪い。


「えーっと、ここは……?」

  

 フィルは当然の疑問を呟きながら、痛む身体を無理やり起こす。


「フィル……!」


 すると、すぐ近くで彼の名前を呼ぶ声がした。


「え……?」


 とっさに顔を上げて声のした方を見ると、そこには二人の女の人が立っている。


「夢じゃ……ないよな……?」


 一人は褐色の肌をしていて、黒い髪を腰の辺りまで伸ばした筋肉質な女性で、鋭い目を何故か悲しそうに潤ませながらフィルのことを見つめていた。


「本当に……フィルなんだねっ……!」


 もう一人は癖のある金髪を後ろで一つに結んだ碧眼の女性で、目元の涙を拭いながら感動した様子でフィルのことを見ている。


 その風貌からしておそらく二人は冒険者であり、クラスは剣士と武闘家なのだろう。ちょうどベルーダやライカと同じだ。どちらも露出度が高い服を着ているので少しだけ目のやり場に困る。

 

「あの、ええと……どちらさま……ですか……?」


 まるで状況が飲み込めないフィルは、女の人たちに向かって恐る恐る問いかけてみた。


「それは……」

「え、えーっとぉ……」


 しかし、二人は口ごもったままで明確な返答がかえってくることはない。


 だが、フィルは初めからあることに気づいていた。


 ――二人の女の人の雰囲気が、ベルーダとライカによく似ているのだ。


「もしかして……」

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