#40
――インディラ·ガンディー国際空港へ到着し、現地のインド人に連絡を取った灰寺とルイは、以前にイベントをやったホテルへと向かうことに。
ニューデリーにある経済、商業、ビジネス、ショッピングの中心的なエリア――コンノート·プレイスへとタクシーを走らせる。
デリー市内は前に来たときと変わらず人と牛でごった返していたが、今の灰寺にはそんな光景は目に入っていなかった。
殺したはずの社員――
もし奴が生きているのなら、何かしらここに痕跡があるはずと、渋滞で動かないタクシー車内で灰寺はガタガタとその身を揺らしている。
「灰寺さん。大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ。それよりも現地の連中はどうなっている?」
灰寺は軽墓がまだ生きているのではないかという、自分の考えをルイには話さなかった。
それはたとえ彼女に話したとしても、妙な妄想をしていると言われる思ったからだった。
すっかりと自分に呆れているルイに、自分の考えを言えば、さらに呆れられてしまうだけだと彼は思ったのだ。
灰寺の質問にルイは答えた。
どうやら現地にいる社員やインド人たちは、直接コンノート·プレイスにあるホテルへと向かっているようだ。
彼らからしたらたまったものではないだろう。
昨日の今日でそう何度も呼び出されれば、自分の任されている仕事に支障が出てしまう。
実際にそれは電話での態度にも出ていたようで、ルイは現地の人間らが冷ややかだったことを、皮肉っぽく灰寺に伝えている。
「こっちは会社の一大事で来ているんだぞ!? 言いたい奴には言わせておけ!」
「そうですか。まあ、わたしは別に構いませんが。社内の評判が落ちるのは灰寺さんなんですからね」
灰寺はツンとした態度のルイを見て、この娘はもう自分に敬意も何もないと悟った。
自分がどれだけ会社のことを――会長である
先代のときからずっと尽くしてきた自分の気持ちなど、所詮は入社して一年も経っていないような奴にわかるはずもない。
これまでの貿易会社アンナ·カレーニナと国蝶·
そして、そんな灰寺とルイを乗せたタクシーは、コンノート·プレイスにあるホテルへと辿り着いた。
「灰寺さん。わたし、ちょっとお手洗いに行ってもいいですか?」
「あぁ、僕はパーティールームにいくから、後から来てくれ」
ホテルに到着するなり、トイレへと走っていくルイ。
灰寺は迎えに来たホテルマンたちに雑に説明をすると、我が物顔でホテル内にあるパーティールームへと向かった。
今日は特に使用されていないようで、以前にやった人身売買オークションのお披露目会のときあったステージもなく、会場には何も置いてはいなかった。
中にはルイから連絡を受けた、現地の社員やインド人たちがいただけだ。
彼らは一体何事だと声をかけてきたが、灰寺はそんなこと自分で考えろとばかりに会場内を漁り始める。
当然パーティールームには何もない。
灰寺は前に子供たちを待機させていた楽屋にも踏み込んで調べたが、結局軽墓がいた痕跡は見つからなかった。
「クソ! 軽墓の奴、一体どこにいやがるんだ!」
声を張り上げながら、楽屋にあった椅子やテーブルを蹴り飛ばす灰寺。
現地の社員やインド人たちは、そんな彼を見ては「大丈夫か、この人?」と冷や汗を掻きながら見ていた。
軽墓が処分されたことは、すでに社内でも知られている。
それなのに、なぜこの人は死んだ人間を捜しているのだろうと、彼らは狭い楽屋で暴れ回る灰寺に不可解な視線を送っていた。
「あの、灰寺さん……」
「なんだ!?」
見かねた社員の一人が灰寺に声をかけた。
声をかけられた灰寺は、暴れ回ることこそ止めたが、未だに焦燥感は収まっていない。
叫び返しながら声をかけてきた社員に向かって、喰ってかかりそうな勢いで振り返る。
その様子を見ていた他の社員たちから緊張感が走り、インド人らは関りたくなとばかり引いてる。
「軽墓はいませんけど、奴が連絡用に使ってたパソコンなら回収してますよ」
「それを早く言え! どこだ!? どこにあるんだそれは!?」
腫れものに触るように教えてきた社員に、灰寺はさらに声を張り上げた。
それからトイレに行ったルイを待たずに、社員たちを連れ、軽墓の使用していたというパソコンにある部屋へと向かう。
部屋までの道のりで、血走った両目を見開いて歩く灰寺は、廊下ですれ違う人間誰に対しても睨みつけていた。
そして部屋に辿り着き、彼はテーブルにあったものを乱暴に退かして、そこにノートパソコンを手に取る。
「こいつだな! これが軽墓の奴が使ってたっていうパソコンだな!」
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