#39
――その後、飛行機はロサンゼルス国際空港へと到着。
現地の社員と連絡を取り、灰寺とルイは消息不明となった顧客のことを調べる始める。
カリフォルニア州――アザートン、コロラド州――ウッディー·クリーク、バージニア州――ラウドン、ニューヨーク州――サガポナック、フロリダ州――マイアミ·ビーチなど。
富裕層が住む地域――アメリカ中を飛び回ったが、大した情報は得られなかった。
いくつか直接家にも出向いたものの、出入り口でAIによって門前払いされてしまう。
一体どうなっているのだと、灰寺はさらに焦っていた。
食事も睡眠もろくに取らずに、彼は他の国にいる顧客のことも調べると言い出し、それからヨーロッパ、オセアニア、アジアと、ルイを連れて出発した。
当然アメリカのときと同じく大したことをわからなかった。
どこの富裕層の豪邸も、AIが対応しては冷たくあしらわれるだけだ。
すでに日本を出発してから数週間が経っていたが、灰寺は国を出る前とはまるで別人のように老け込んでいた。
彼の年齢は三十一歳だったが、誰がどう見ても五十歳くらいに見えるほど消耗している。
ルイの隣に居る男は、もう彼女の面接をしたときの気さくで笑みを絶やさない大人の男はいなくなっていた。
「灰寺さん。日本へ戻りましょう」
ルイは顧客の名簿に登録してあったすべての国を回った後、灰寺にそう声をかけた。
何も情報こそ得なかったが、状況が切迫していることは理解できたのだ。
ここは一度日本へと戻り、身体を休めてからじっくりと対策を考えるべきっだと、ルイは進言する。
幸いなことに、今は二人がいるのは日本に近い中国だ。
日本から中国までの飛行時間は、出発都市と到着都市によって大きく異なるが、北京は羽田から約四時間。
上海や大連からなら大阪空港なら約二時間半、成田空港なら約三時間が目安となる。
地域的に二人がいる広州白雲国際空港からならば、東京、羽田への飛行時間は約四時間。
しかも、日本発の行き飛行機よりも、帰りの広州発のほうが飛行時間は短くなるためちょうどいい。
だが、灰寺としては何も情報を掴めずに、手ぶらで会社に戻ることがどうしてもできない。
自分の社内での立場――いや、それ以上に、会長である
ともかく灰寺は、ルイの提案を断固拒否する。
「じゃあ、どうしようっていうんですか? 現地の社員にも地元のマフィアやギャング、フィクサー連中なんかからも、結局何も聞けなかったんですよ? ここは一度日本へ戻るべきですって」
だが、ルイは引き下がらなかった。
彼女としては、これ以上灰寺が無理できないと思ったのだろう。
消耗仕切っている彼を休ませようと、必死で説得を始めたのだった。
しかし、やはり灰寺は聞く耳を持たない。
彼はルイを無視して俯きながら考える。
激しく
「……インドだ。ニューデリーに行くぞ」
灰寺は何か思い出したのか。
突然インドの首都であるニューデリーへ行くと言い出した。
「はぁ!? なんでデリーなんかに行くんですか!?」
当然ルイからしたら意味がわからない。
インドならば先日行ったばかりで、結局何の情報も得られなかった。
たしかに二人が向かったのは、インドの富裕層が多い地域――西部マハラシュトラ州ではあったが。
今さらニューデリーへ行ってどうするつもりなのだと、ルイには灰寺の意図がわからない。
「以前にニューデリーでは、我が社の小規模なイベントをやった。もう一度そこからだ」
「でも、あれからあそこのホテルは使ってないじゃないですか? わたしは意味がないと思います」
「いいから行くぞ。それともなんだ? ニューデリーに行くと何か問題でもあるのか?」
「……これが最後ですよ。もしデリーで何もわからなかったら、灰寺さんにはしばらく休んでもらいますからね」
「あぁ、わかった。君の言う通りにしよう」
結局はルイが折れて、二人はインドへと向かうこととなった。
灰寺はうんざりした顔をしているルイを連れ、広州白雲国際空港からニューデリーのあるインディラ·ガンディー国際空港までの約六時間のフライトで移動する。
飛行機内で灰寺は思う。
考えてみれば、ニューデリーのホテルでやったイベント後に日本へ戻って来てからおかしくなっていった。
ルイが会社に
国蝶の推薦もあってルイが社内でも重要な仕事をこなすようになり、業績は上がったが、今は顧客らと連絡が取れないという状況。
まさか日本の海で殺したはずの軽墓が生きているのか?
奴が生きていて何かしているのか?
灰寺はその可能性を探るために、軽墓の痕跡がありそうなニューデリーに向かおうと口にしたのだった。
「とても信じられん話だが……。その可能性は否定できない……」
「何をブツブツ言ってるんですか? せめて移動中くらい休んでくださいよ」
隣の座席で独り言を続ける灰寺。
ルイはもういい加減にしてくれとばかりに、乱暴にシートを倒してふて寝した。
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