#31
「いやいや~話には聞いていたけど、本当に自力で日本に戻って来てたんだね」
マイクロバスから引きずり出されたルイは、両手を頭の後ろにやるように言われ、
当然バス内には彼の部下が拳銃を持って入っており、子供たちも確保されている。
ルイの周囲にも貿易会社アンナ·カレーニナの社員たちが銃を持って立っており、逃げ出すことは不可能な状況だ。
「アジア、ヨーロッパ、中東。せっかくうちのもんが集めてきたっていうのに、独り占めはないんじゃないかな、
久しぶりに対面した灰寺は、相変わらずの笑みで軽口を叩いている。
もはや自分たちの勝利を
髪をバッサリと切ったルイを見ては、なかなか似合っているとまで言い出している始末だ。
ルイはどうして灰寺が自分が日本に戻って来たことを知っていたのかに違和感を覚えた。
だが彼女は、今はそんなことよりもこの状況をなんとかしなければ思う。
(クロエ……。身体の主導権を渡すからなんとかできない? あなたなら一瞬でこいつらを倒せるでしょ?)
ルイはまだ諦めてはいなかった。
自分にはクロエがいる。
彼女がいれば、こんな連中ごときに負けはしないという自信があったが――。
《残念だけど、それは無理よ》
ルイの最後の期待だったクロエは、この状況を変えることは不可能だと答えた。
たしかにクロエが身体の主導権を得れば、たとえ相手が一流の格闘家でも倒せる。
しかしこの状況――相手の数が多過ぎるうえに、拳銃まで持っているのだ。
たとえ数人は倒せたとしても、逃げる前に体力が尽きて撃ち殺されるのがオチだと、クロエは冷たく説明した。
「そ、そんな……」
思わず声が漏れてしまったルイに、灰寺が言う。
「よくやってくれたね、軽墓くん」
「えッ!?」
ルイは我が目と耳を疑った。
軽墓はゆっくりと灰寺の前へと歩き出して、彼に頭を下げている。
一体これはどういうことかと、ルイが口を開こうとしたとき――。
「まんまと彼に騙されちゃったね、緩爪くん。そう、見ての通り、軽墓くんは最初からこっち側だったんだよ」
灰寺がすべてを彼女に話した。
軽墓はクロエに脅迫されていながらも、日本に戻った後で貿易会社アンナ·カレーニナへと駆け込み、灰寺にこの作戦のことを伝えていたのだ。
ルイの表情が絶望から怒りへと変わる。
四方から銃口を向けられていることも気にせずに、彼女は軽墓へと殴り掛かる。
深夜の料金所前でルイの拳がうなりをあげたが、軽墓は飛び掛かってきたその身体を避け、いとも簡単に彼女を転ばせた。
「お前、本当にあのときの女か? 動きがトロ過ぎるぞ」
「軽墓ぁぁぁッ!」
転ばされて声を張り上げたルイを、軽墓が押さえつけた。
アスファルトを食わされる勢いで地面に屈した彼女に、軽墓は言葉を続ける。
「最初は言うことを聞かなきゃ殺される心底思ったよ。だが、何度かお前と話しているうちに、それが
「ぐぅ!?」
ルイは軽墓の手を払いのけて立ち上がろうとするが、当然彼女の腕力ではそんなことはできない。
地面を涙で濡らしながら、自分の無力を味わっているだけだ。
次第に暴れるのも止め、ルイは完全に観念する。
そんなルイと軽墓のやり取りを見ていた灰寺は、そのにやけ面からさらに口角を上げた。
そして、ゆっくりとアスファルトに屈したルイを見下ろして、その三日月のような口を開く。
「それじゃ行こうか、緩爪くん。会長が君を待ってるよ」
その後、手足を縛られたルイは車に乗せられ、後部座席へと押し込まれた。
隣には灰寺が座り、車は発進。
ルイは車内で振り返ってマイクロバスにいるガウリカとラチャナ子供たちのほうを見ようとすると――。
「ダメだよ、緩爪くん。人間、諦めが肝心だって。いくら君が若いからって、そろそろそれくらいの社会常識は学ばなきゃ」
頭からすっぽりと紙袋を被せられた。
手が縛られているので、当然自力では袋は取れず、ルイは子供たちのことを見ることさえ許されない。
大人しく座っていることしかできない状態にされた。
「会長には娘さんがいてね。この世界の現実を知って、子供たちを助けようとしたんだ。そう、君がやろうとしていたみたいね」
灰寺は、ルイが何も言葉を発しないというのに話し続ける。
「その結果、会長は娘さんを殺すことを選んだ。その後の落ち込みようといったら、はぁ……。君のそういうところ、あの子に似ているかもね。残念だったけど……」
ルイは何も答えずに灰寺の話を聞いていたが、あまりその内容は入ってきていなかった。
だがそれでも灰寺は、ルイと会長である
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