#25
――ホテルから出たルイは、
それはクロエから、リクルートスーツで出歩いているのが目立つと言われたからだ。
ハイウエストのデニムパンツに白いシャツ、それからカーキ色のミドル丈のコート。
ファッションには疎いルイに、クロエが進めた服だ。
《似合ってるじゃない。そういうカジュアルな格好も素敵よ、ルイ》
購入前に鏡を見ているルイに、クロエが嬉しそうに言う。
とは言っても、これからのホテル暮らしすることを考えればルイの貯金では心もとない。
しかも、クロエが選んだ服はどれもルイの金銭感覚ではあり得ないほどの値段だった。
白いシャツ一枚で自分のリクルートスーツが買えてしまうほどの料金だ。
こんな高い物をと、ルイとしては余計な出費は控えたいところだったが――。
《大丈夫よ。お金の心配ならいらないわ》
クロエがどうやったのかはわからないが、ルイのスマートフォンに入っていた電子マネーアプリの残高が凄まじい額になっていた。
もうこれだけ一生遊んで暮らせるくらいの額だ。
「どうやったのこれ!?」
《簡単よ。アナタが眠っているときにwi-fiでいろんな会社と繋がったの。ワタシはそこで少し数字を増やしただけ》
それはサイバー犯罪というやつでは?
ルイは冷や汗を掻きながらも、そんなことができるのかと言葉を続けた。
電子マネーアプリなど出している大企業ならば、サイバー攻撃に対してもセキュリティ対策が万全のはずだ。
よくある映画や小説に出てくるようなハッカーでも、一般人の個人情報なら手に入れらても大きな会社では無理な場面が多い。
だが、クロエはそんな難しいそうなハッキングを、まるで近所のスーパーで万引きするような言い草で語る。
《ノートンやウイルスバスターくらいじゃワタシを止められないわ。そもそもウイルスと認知させなければいいのよ》
ルイはクロエの話を聞き、そんなことが可能なのかと思いながらも、彼女ならできてしまうと肩を落としていた。
これで自分も犯罪者の仲間入りだと、ルイは買ったばかりの新しい服に着替えたというのに、その表情は晴れない様子だった。
しかし、こんなことで落ち込んでなどいられない。
自分はもう人殺しなのだ(あくまで正当防衛とはいえ)。
子供たちを救うためならなんだってやってやると、ルイは気持ちを切り替える。
そう彼女が意気込んでいると、スマートフォンが震えた。
画面を見ると、そこにはslaveと表記されていた。
《軽墓からね》
クロエはそう言いながら、これから指定する場所に来るように伝えろと言葉を続けた。
ルイはslaveとは奴隷ではないかと、自分が意識を失ってる間に何があったのだと呆れながらもメッセージを返信する。
すると、軽墓は今は仕事中で抜けられないと送ってきた。
そのメッセージを見たクロエは、来ないなら別にいいと返すようにルイに指示を出す。
ルイは言われた通りにメッセージを返すと、クロエが言う。
《さて、それじゃカフェで食事でもしましょうか》
「ねえ、あんなこと言っちゃって大丈夫なの? その軽墓って人、来ないかもじゃん」
《問題はないわ。あの男は必ず来る。一度弱みを握られた男は、女のワガママに付き合ってくれるものなのよ》
「ワガママって……」
それはワガママではなく脅迫の間違いでは?
ルイがまた冷や汗を掻いていると、一方のクロエは、まるで恋人が浮気をしたことを見つけたかのような態度だ。
彼女はこういう相手の扱いに慣れているのだろう。
クロエの人格のもとになった女性とは、一体どういう人物だったのか。
ルイは、余程の悪女だったのだろうなと思いながらも、クロエのいうカフェへと向かった。
――平日の午後というのもあって、店内に客はほとんどいなかった。
奥の席に座るスーツ姿を男を見て、ルイは声をかけてきた店員に連れがいると答えると、その場でコーラを注文して男のいる席へと歩いていく。
ルイが席に座ると、スーツ姿の男――
「髪切ったのか……。誰かと思ったよ」
吐き捨てるように言った軽墓は明らかに不機嫌そうだった。
それも当然だろう。
仕事中で抜けられないと言ったのに無理やり呼び出されたのだ。
しかし、こうやって――しかも先に指定場所へ来ているあたりは、クロエの言う通り軽墓はこちらの奴隷のようだ。
「初めまして……じゃないか」
「ふざけてるのか? いいから用事を言ってくれ。こっちは無理して出てきたんだ。あまり時間がない」
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