#11
戸惑うルイに向かって、少年は静かに言葉を続けた。
皆、親に捨てられたり売られたりしてここへ来ている。
誰も自分たちのことなど気にしないし、どこへ行っても居場所なんてない。
生きていようが死んでいようがいないのと同じだと言い、諦めきった顔でルイのほうを見ている。
他の子供たちも少年と同じ気持ちなのか。
皆その場で縮こまって、誰一人動こうとはしなかった。
ルイは時間がないと焦りながらも、子供たちに訴えた。
後のことは今はいい。
ここでこのまま売られていいのかと。
必死の形相で声を張り上げたが、彼女が手を握っているガウリカとラチャナでさえ逃げようとはしていない。
彼ら彼女らはもう疲れたのだ。
ここから逃げても、もう自分たちに生きる価値や意味などない。
そんな自分たちが逃げてどうすると。
どこにも希望などない、自分たちを気にかけてくれる大人などいないのだと。
そんな自分たちが逃げてどうする?
子供たちは、ルイが想像している以上に、もう生きる気力を失っていた。
「わたしがいる! わたしがあなたたちのことを気にかけてる! それじゃ……ダメなの?」
ルイは、涙を流しながら子供たちに向かって訴えかけた。
この後のことなんてわからない。
だけど、こんな目に遭っている皆を放っておけないと、顔をぐしゃぐしゃにして口にした。
そんなルイを見て子供たちも戸惑うが、やはり誰も逃げようとはしなかった。
「こんな夜更けに何をしているのかな?」
部屋の外――イベント会場から灰寺の声を聞こえてきた。
不味い、時間をかけ過ぎて気が付かれたと、ルイはガウリカとラチャナの手を離して泣き顔を手で拭う。
「いや、あの……ちょっと、子供たちのことが気になっちゃって……。元気なかったから元気づけようと……」
「へぇー、優しいね、
声と共に灰寺の足音が近づいてくる。
それは一人だけではなく、数人はいそうだ。
自分が子供たちを逃がそうとしていたことは、もうバレている。
ここは一度逃げなければと、ルイは部屋を飛び出した。
「必ず、必ずみんなを助けに来るから!」
そう言い残し、舞台裏からイベント会場へと出たルイの目の前には。灰寺と彼が率いる男たちの姿があった。
男たちの中には、ガウリカとラチャナの村に行ったときに運転席と助手席にいたインド人や、ルイと同じアンナ·カレーニナの社員たちの姿ある。
「緩爪くん、君が博愛主義者だって、面接のときは言ってなかったよね? そういうことはちゃんと面接官に話さなきゃダメだよ」
ルイと対面した灰寺がそういうと、男たちが動き出した。
会場内はそれなりに広いが、出入り口は塞がれているため、とてもじゃないが通り抜けられそうにない。
「さっさと捕まえろ。会長に知られたら僕の責任になる」
灰寺がため息をつきながらそう言って、出入り口のほうまで下がった。
そんな彼とは逆に、男たちは舞台に立っているルイへと向かってくる。
もはや逃げ場はないと思われたが、ルイはイチかバチか窓ガラスへと体当たりをし、そのまま外へと飛び出した。
イベント会場がホテルの二階だったことと、彼女が落ちたところに偶然にも植込みがあったため、大怪我はせずに済み、ホテルから脱出。
割れた窓から聞こえる男たちの怒鳴り声を背中で受けながら、ルイは夜のニューデリーへと駆けていく。
――それからなんとか男たちの追跡から逃れた彼女は、朽ち果てた研究施設の地下へと来ていた。
他に行く当てのなかった彼女が、隠れようと入った街からかなり離れた場所だ。
地下の灯りを付けようと、ルイがブレーカーを入れた。
すると部屋が明るくなり、ボイスチェンジャーを使用したような女の声が聞こえてくる。
《ありがとう。あなたが起こしてくれたのね》
ルイはどこから声が聞こえてくるのかと、周囲を見回すが人の姿はどこにもない。
ただ部屋の天井にあったスピーカーから、女の声が聞こえてくるだけだ。
「あなた……誰なの……?」
恐る恐る訊ねると、ボイスチェンジャーを使用したような女の声が返事をする。
《ワタシはクロエ。今アナタの目の前にあるコンピューターの中で生きている者よ》
「者って……まるで自分が人間みたいな言い方してるけど、ようはAIとか人工知能とかってやつなの?」
《あなたがそう思って安心できるならそれでいいわ。とりあえず、ワタシも名乗ったんだから、あなたの名前を聞かせて》
女は大型の液晶画面に映る人の顔を見て、両目を見開いていた。
一体何が起こったんだと身を震わせながらも、ルイは訊ねられたことに答える。
「わたしは
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