第8話 魔術の炎と狐火の炎 後編1
一通り検証を終えたティアとロッカはティアの自宅に戻る途中で魔塔ダンジョンに向かう準備の買い出しに出た。
主に消費アイテムとして食料、ポーションに休憩用の結界石なども必要だ。それに損耗している野営用のものの補修や補充。
2人は魔術師なのであまり重いものを持つのには向かないので、なるべくコンパクトにする。もちろん鞄は拡張されているマジックバッグだがその容量も無限では無いので厳選する必要がある。
大体の物が揃ったので帰宅して、魔塔の各層に出現するモンスターを確認しつつ、今回の調査の基準を過去のギルド報告からチェック内容もまとめる。
クランからは出発は3日後の早朝との事なので今日から体調を整えるために早めに休むのも忘れない。
魔塔ダンジョンは中難易度のダンジョンとは言え、50層に別れており、10層目まではDランク、11〜24層はCランク、それ以降はBランクのモンスターが出現する。
現状Aランクのモンスターが確認されていないので、Bランクダンジョンで中難易度とされているが、Bランク内では最上位になるため、Aランク冒険者であっても油断はできない。
ティアとロッカも本来であれは前衛職が居ると安心なのだが、反面彼女たちは広範囲攻撃も行うため連携の下手な前衛では逆に足でまといになってしまう。
今回はロッカが一緒なので相互にカバーはできる目算だ。
とはいえ、やはり心許なくもあるので、ミーヤとの共通の知り合いである戦士職でパーティを組んでいるラギに連絡を取っていた。
返信が来るまでの時間で訓練と魔術式の見直しを、と考えていた所でタイミング良く魔術通信の連絡が入った。
待っていたラギからの快諾に小さく笑みを浮かべつつ、翌日に顔合わせの約束を取り付けた。
◇ ◇ ◇
翌日は気持ちのいい晴天だったが、早速朝からギルドへと向かうティアとロッカだった。ロッカは珍しく髪を1つに結び、何時になく活動的な格好をして来た。
「それがロッカの戦闘スタイル?」
「うむ!戦闘時はどうしても動くのでな、動きやすい服が好きじゃな。
似合うておるか?」
「もちろん、今日の姿も素敵だわ。
いつもの格好も好きよ?」
「ふふ、照れるのじゃ〜」
と嬉しそうに顔を赤らめるロッカを微笑ましく、「癒される」とほっこりしている間にギルドに到着した。
目的地は訓練所だ。
訓練所には既にラギがパーティメンバーと共に到着していた。
「おはよう。
ごめんなさい、遅れたかしら?」
「よう!
いや、時間通りさ。俺達が新メンバーの訓練を先にやっていただけだ。」
確かにラギの他に4人いる。元々ラギのパーティーは4人のはずで、もう1人小柄な少年がいた。
「じゃあ先に紹介するわ。
この子はロッカ、神道系の魔術師で炎が得意だけど、全属性一通り扱える万能タイプよ。
能力に関しては折り紙付き、私に劣らないむしろものによっては強いくらいなので、気をつけてね。」
「ほう、すげーな!あのティアが褒めるとは大したもんだ。
よろしくな!俺はラギ、このパーティでリーダーをやっている。
見ての通りこのデカい
お前ら後衛には傷ひとつ付けさせんよ。」
ニヤリと割らすラギは長身で身体が大きいので怖がられる事も多いが、こう見えて子供好きで猫好きだ。
「次はオレかな?
オレはザルク、レンジャーだ。
弓と
んでー」
「こんにちは、ミリアムと言います。
神道系のヒーラーです。
怪我や毒等の治療、回復メインで、戦闘サポートとして能力向上系や軽いバリアは貼れますが余り得意ではありません。」
「どうもお久しぶりっす。
ティア先輩の弟子のルクスって言うっす。精霊を扱う召喚士っす。」
「ルクス、君を弟子に取った覚えはないわよ?
もう、毎回弟子宣言するんだから・・・。」
ザルクは動きやすい軽装備に各種武器を装備。
ミリアムはヒーラーらしくローブを着ていた。
ルクスも軽装で腰に複数の召喚の触媒となるであろう杖やクリスタルの入ったを細い硝子筒を持っている。
「最後はボクですね。
新人のクリスと言います!斥候のシーフです!
あ、あと、
きっと良く言われるのだろう、分かる分かると頷くロッカと2人揃うと可愛くしか見えない。
うん、実に可愛い、眼福だ。
と、ほっこりしているのはティアだけでなく、ラギもだった。
2人からの「可愛いがる」目線にロッカとクリスが怒り出すまでがお約束だった。
閑話休題
早速5人を2つのチームに分けて手合わせや連携の練習を行う。
メンバーを組み替えての訓練を何度か行い、流石Aランクの冒険者パーティーだけあってティアとロッカ込の高火力対応にもすぐに慣れて、適切な距離と交代のタイミングなどを掴んでいく。
「おっしゃ、休憩すんぞー!」
ラギの一声で一旦みんな集まって思い思いに座り、水分を取ったりしてゆっくりする。
「しっかし、うちのリーダーはゴツイ見かけの癖に、ほんと可愛いものに目がないよなぁ~。
ロッカのこと、よしよしと撫でまわしたいってオーラ出すぎだよなぁ。」
「ふふふ、そのギャップを含めてリーダーらしいので。
私は幸せそうに小動物や子供を眺めてるリーダー好きですよ?(端から見てるのが)」
やんややんやとちゃかすミリアムとザルクにギン!と睨むラギであったが効果は全くなく、ただ「ぐぬぬ」と唸るだけであった。
「ボクとしては嬉しいですけど、複雑ですね~。
でも、やっぱりラギさんに可愛いって言われるのは嬉しいですね!!」
「クリスはほんとリーダー好っすねぇ。オーガみたいなのに。」
「オーガはオーガでも、めっちゃカッコイイオーガですから!」
「おい!ちょっと待て!!
そもそも俺はオーガじゃねえっつってんだろ!!」
和気あいあいと仲の良いラギのパーティーメンバーはみんな人が良くすぐにロッカも馴染んで行った。
心地良い手応えにお互い満足し、その日は解散し2日後の集合時間と場所だけを決めた。
前日は休養に当てるのが冒険者の常識だからだ。
直前まで訓練が必要な攻略など愚の骨頂で、分不相応なので止められるだけだ。
まして今回は異常が起きてるかもしれない調査、念には念を入れる必要がある。
それぞれに緊張感を高めつつ当日を迎える。
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