第7話 魔術の炎と狐火の炎 中編2
ティアに連れられて冒険者ギルドに行ったロッカはあれよ、あれよという間にギルドマスターとサブマスターの待つ応接室に通され、詳細を根ほり葉ほり聞かれた。
サブマスターは美しい
アレは鬼神に違いないとボソボソと呟くロッカに苦笑しつつ、それでも過不足なく答えている様子に安心した。
ティアとギルマス、サブマスが警戒したのはダンジョンブレイクだ。
ダンジョンブレイク前には一時的に周囲のダンジョンからモンスターが減り、何処かのダンジョンで力が貯められる。そして、時が来ると一気にモンスターが放出され、ダンジョンからモンスターが溢れ周囲を壊滅させていく。
そのため、ダンジョンに異変がある場合は各国の冒険者ギルドへと通達、情報共有が行われるのだが、カゼルリウムからその知らせはない。
事実の隠蔽か、それとも状況を軽視しての報告、共有漏れなのか。
現状ではどちらかの判断はできないため、ギルドマスターより本部また各国ギルドへ情報共有を行うと共にエレンディル周辺のダンジョンの様子を調査する事となった。
エレンディルとカゼルリウムは山を越えてすぐの位置にあるため、カゼルリウム側を中心に全てのダンジョンの調査依頼が冒険者ギルドより発行される。
エレンディル周辺には8つのダンジョンがあり、最高難易度のものはないのが救いだ。
ティアとロッカが一通りの報告と今後の方針が決まり、解放された頃には日が既に傾いていた。
流石に疲れたね、とカフェに入ってぐったりしていた。
「・・・も、もう、むりじゃぁ・・・」
「ふふ、お疲れ様ロッカ。私も流石に疲れたわ・・・」
そう呟きつつ、手は複数個所に魔術通信を送っている。
クランへは今日の予定のキャンセルと連絡が遅くなった事の謝罪、ミーヤとその他協力を頼みたいパーティーのリーダーたちへはダンジョンの調査について共有、そして自宅には夕食の手配について。
「ティアは働き者じゃのう」
「気になっちゃうから、早く終わらせてゆっくりしたいもの。
お夕飯も美味しいものを食べたいから奮発するように伝えたわ」
「おお!楽しみじゃ~・・・って、妾はまたお邪魔していいのか?」
「もちろんよ。折角だもの、しばらく一緒にバディを組まない?」
「ありがたい!!妾も役に立ってみせるぞ!」
張り切るロッカがやはり愛らしくて、にこにことしてしまうティアは誤魔化すためにケーキを口に運ぶ。
「やっぱり疲れた時は甘いものね」と思いつつ、夕食もロッカが喜ぶといいな、などと考えていた。
◇ ◇ ◇
翌朝はさっさと準備を済ますと、ティアとロッカはティアの所属するクランハウスへと向かった。
メンバーはもう揃っており、ティアたちを待っていた。
「サブマスター、昨日はお疲れ様でした。」
そう声をかけてきたのはクランマスターの騎士職の人族の男性で、見るからに優男そうな外見をしていた。「うわぁ、金髪碧眼の王子様タイプじゃ~」と胡乱げな目を向けるロッカにもニッコリと愛想を振りまく。
「これで、かなり有能なのよ?」
こっそり言うティアに促され、ロッカの紹介と共に昨日の内容をクランに共有する。
マスター曰く、既に冒険者ギルドより通達も行われ中堅以上のクランにも協力依頼も出ているとの事だった。
「冒険者ギルドから依頼されている当クランの担当ダンジョンは魔塔です。」
その一言でクランの面々は騒めいた。
魔塔ダンジョンはその名の通り高い塔となっており、そこに出現するモンスターもまた階層を進むと共に凶悪になっていく。
動揺しているメンバーの一人が手を上げて発言する。
「マ、マスター流石に最上階まで行けとか言いませんよね?」
「まさか!流石にあそこを1クランで全て調査は無理がある。俺たちは4つのパーティーに分かれて低層~中層を調査する。
そこまで進めばダンジョンに異常があるかどうかは十分判断できるからな!」
あからさまにホッとするメンバーたちを眺めつつ、何かを思案していたティアはおもむろに口を開く。
「ねえマスター、私はこのロッカと組みたいわ」
「ふむ、2人で行くのか?」
「ええ、あそこは慣れているし、ちょっと試したいことが、ね?」
「ティアは言い出したら聞かないからな・・・。
まあ、お前なら何事もないだろうが、その娘は大丈夫なのか?」
また子供に見られている、とむっとするロッカを横目で見つつティアはニヤリとクランマスターに笑む。
「私と同等、またはそれ以上の実力のある魔術師よ。
魔術を使うだけではなく、編む方の魔術師・・・と言えば実力は分かるでしょう?」
驚愕に目を見開いたクランマスターだったが、笑顔で即許可を出したので試したい魔法があるからと2人はさっさとその場を抜け、実験場へと向かう。
楽しそうに案内するティアに連れられてついたのは、強固だけど無骨な場所だった。
「ここは?」
「新しい魔法の実験や、対戦訓練を行うための実験場よ。
昨日は折角魔術式を改善したのに試せなかったんだもの!」
「なるほど、しかしティアはサブマスターなんじゃのう。」
「名目だけね。
私の名前はいい広告になるそうよ?
なので、私も必要な時だけ色々活用させてもらっているの。」
「流石じゃの・・・」
ティアの腹黒さはなんとなく察していたものの、思わず目が遠くなるロッカだったが、早速展開している魔術式に目を奪われる。
『
ティアの一言で生み出されたのは、炎柱とも言うべき恐ろしい火力を持った炎だった。
「なるほどなるほど・・・ じゃあ、もう一度。」
『
今度はロウソクの火のような小さなもの。
思った通りに出来たのであろうティアの瞳はキラキラと輝き、全身で歓喜を表していた。
「見事なものじゃのう・・・」
「ロッカのおかげよ!
こんな風に1つの魔術式で発動する魔術を変化させられるなんて!」
「妾は思ったことを言っただけじゃ。
そなたは見事な操作で初見の魔術を使いこなしている。素晴らしい魔術じゃ。」
「ロッカに褒められると嬉しいわね」
満面の笑みで答えるティアにロッカもまた笑みを浮かべる。
「では妾の術も見せよう。」
『
右手の指を複雑に形作って唱えたロッカの周りに青い炎が複数浮かび上がる。
「ティア、何か的はないかの?」
「あら、ごめんなさい。今は用意してないわ。
壁に当ててしまって問題ないけれど、それでも大丈夫?」
「問題ない、少し壁から離れていてくれ。
やっ!」
掛け声と共にロッカが指さした壁へと青い炎が物凄い速度でぶつかった。
轟音と共に砂埃が立ち、落ち着いた後を見ると黒い焼け焦げができている。
「1つもずれていない、しかも周りが結晶化するほどの高温。
強いだろうとは思っていたけど、ロッカ、貴女本当に凄いわね!」
「そうであろう?
妾は
そう仁王立ちして喜ぶ様子はやはり可愛いだけだった。
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