第6話 魔術の炎と狐火の炎 中編1
ロッカを泊めた翌朝、ティアは夜更かし過ぎたな、と少しだけ反省しつつメイドにコーヒーと軽めの朝食をお願いする。
ロッカはまだ寝ているようなので、コーヒーを飲みつつ昨夜話した内容をまとめていたメモを見直す。
「・・・うん、この効率化の話は検証してみて実践導入するのが良さそうね。
まずは、クランハウスでやってみましょう。」
本当に新しい友人は得難い、と微笑みながらクランへの連絡内容をまとめているとロッカが起きてきた。
「おはよう、寝すぎたのじゃ・・・」
「あら、おはよう。もっと寝ていても良かったのよ?」
「ありがたいが、習慣で大体同じような時間に起きてしま・・・ふあ・・・すまんの」
くすくす笑いつつロッカに席を進め、メイドにロッカ用の朝食も頼む。
まだ目が覚め切らないロッカの様子を可愛いなぁ、と微笑ましく眺めつつティアは魔術通信をクランに送る。
検証内容を午前中にまとめてから、午後はクランハウスの魔術実験場で試す予定だが、今はロッカとの朝食を楽しもうと書類を片付ける。
出来立ての朝食に瞳を輝かせながら食べるロッカの姿は幼く、やはり成人には見えないなと思いつつティアはコーヒーを飲む。
「ティア、そなたはそれだけで足りるのか?」
「ええ」
ティアの朝食はヨーグルトをかけたサラダにコーヒーのみだが、ロッカはパンケーキに色とりどりのフルーツとサラダ、メインで厚切りのハムを焼いたものに目玉焼きなどがあった。
それをペロリと食べてしまうロッカの食欲は見ていて気持ちいい。
「ふむ、朝が弱いのであればコーヒーは逆効果じゃ。胃に刺激がいくでの、温めた牛乳や白湯などの方が良いぞ」
「あら、そうなのね。ついついカフェインが欲しくて。」
「そう、それじゃ。カフェインは体温も下げるでの、朝に弱いなら尚のこと勧めぬぞ?」
「ありがとう、いいことを聞いたわ。ロッカは博識ねぇ。」
ふふん、と少し自慢げに笑みを浮かべるとロッカはまた食事に戻る。
「ほんと、いとけなくて可愛いわぁ」とティアもまた微笑む。
「そうだわ、ロッカ。朝食の後に昨日話した魔術式の改善版を用意したので見てもらえるかしら?」
「早いの!喜んで見せてくれ、楽しみじゃ!」
ピーンと立つ狐耳に嬉し気に揺れるフサフサした尻尾がロッカの楽しさを表していて、ついつい頭をなでてしまう。
「・・・ティア、妾は幼子ではないと言うに・・・」
「あら、ごめんなさい。つい、可愛くて」
「むぅ・・・ 仕方あるまい、妾の可愛さは天元突破だとあやつらも言うてたしな」
「あら、故郷の方々?」
「いや、隣国の・・・なんじゃったか、カゼルリウム王国だったかの?
そこで知り合った冒険者たちじゃ。」
「まあ、カゼルリウムにいたの?」
隣国カゼルリウムはエレンディルとは違い、魔法ではなく技術が発展しており、魔術と技術の融合などが研究されている。
魔術師であるロッカとはあまり合わなそうな国だ。
「妾がこの世界に迷い込んだのがカゼルリウムだったのじゃ」
「なるほど、そういえば魔術に詳しい人が居なかったと言っていたものね」
「うむ。 知っての通り、あの国はあまり魔術士に仕事がないからの。
あと、これは伝わっているか分からぬが、カゼルリウムにあるダンジョンの魔物が最近減ってきている。それで冒険者自体に仕事もろくになくて・・・」
「待って!」
突然遮ったティアに驚いて顔を向けると、初めて見る剣呑な表情をしていた。
「ごめんなさい、ロッカの話は楽しく聞きたいんだけど、大事な事だけ確認させて。
ダンジョンからモンスターが減っているのは確実?」
「あ、ああ、間違いない。
少なくともカゼルリウムの王都周辺はレベルの低い魔物しか出なくなり、国境付近はまだましだが・・・」
「それはいつからか、分かるかしら?」
「妾が聞いた限りだと、半年から1年前から徐々に減っていると聞いた。」
「なんですって!不味いわ、手遅れかもしれないけど・・・
ロッカ、申し訳ないけど私と急いで冒険者ギルドにつきあってくれる?」
「承知した、詳細はそこで?」
「ええ、私も急いで準備してくるわ。」
戦いの前のような緊張感をもって、ティアは着替えるとロッカを伴ってギルドへと急いだ。
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