第5話 魔術の炎と狐火の炎 前編

 今日もティアはミーヤとまったりカフェで話していたが、レオが迎えに来たのでミーヤは帰ってしまった。


 あのひと騒動の後から、目に見えてレオはミーヤを溺愛するようになり、照れつつもミーヤも満更では無さそうだった。


 そんな幸せそうな友人を微笑ましく眺めつつ、ティアは趣味の魔術研究のために触媒等を買い取るためにギルドに来ていた。

窓口で聞きつつ、売買希望の掲示板も確認するがめぼしいものは無さそうで、

仕方ないので自分で調達に行くか、代替品にするか悩んでいたティアの肩を叩く手があった。


「もし、少しいいかの?」


 振り向くと自分より頭2つほど背の低い獣人の、女の子がこちらを見ていた。


「私よね?どうかしたのかしら?」


「うむ、妾が見たところそなたが一番腕の立つ魔術士のように見受けた。

妾はこの辺りには不案内での、ちと聞きたい事があるのじゃが良いだろうか?」


「ええ、問題ないわ。じゃあ、ギルド内のカフェに行きましょうか」


「承知した」


 カフェへ向かう途中、彼女の名はロッカ・キサラギと名乗り、狐の獣人だそうだ。彼女の住んでいた辺りでは狐人族こじんぞくと呼ぶようで、皆年齢よりも若く見えるらしい。ロッカ自身も成人だと念を押されたが、贔屓目に見ても12歳前後にしか見えない。

また服装も独特で、確かにこの辺りでは見ない格好をしており、本人は「渡り人」だと言っていたが旅人とは違うらしい。


 本来見た事のない文字、聞いた事のない言語を理解できるのは、「渡り人」の特徴らしい。

何故別の言語だと気づいたのかと言うと、ロッカいわく微量の力が翻訳しているのがそうだ。


「つまり妾は気付いたらこの地にいたのだが、着のみ着のまま流されたのでの。

身を立てるために、妾も戦う術はあるがこの地のものとは違うゆえその差を知りたいと思ったのじゃ。

最初にたどり着いた場所には魔術に詳しいものが居らなんだので、人伝にこの街の話を聞いてたどり着けたのじゃ!」


 胸を張って威張るロッカが微笑ましく、ティアは話を喜んで聞いていた。ロッカが言うにはロッカの住んでいた場所では「渡り人」の話は意外と多くあるようで、ギルドなどについてもざっくりとした知識はあるようだった。


「そなた、ティア殿はどんな魔術を使うのじゃ?」


「ティアでいいわ。

そうね、私はオーソドックスに魔力を操って力の方向性などを整えて発動する所謂【魔術】を使っているわ。」


「ほうほう、魔力か・・・ 妾で言うところの心力になるのかのう?」


「心力を私が理解していないので、正確ではないかもしれないけれど近いものかしらね?」


「なるほどの、ちなみに魔術は他にもあるのかの?」


 好奇心旺盛なロッカと話しているのは、出来のいい弟子か生徒と話しているように楽しく、どんな反応するかと様々な話をした。


 大きく分けてミーヤのように精霊に力を借りて発動する精霊術、似ているようで異なるのが神の力を借りて発動する神聖術、そしてティアも扱う魔力で超常現象を起こす魔術がある。


 ロッカへの魔術レクチャーは気付けば魔術論議へと変わって行き、ティアはロッカの聡明さと博識さに感動していた。


 自分とここまで論議ができる相手は非常に珍しく、得がたい。

もっと話してみたいと自宅に誘えば、手持ちの金が少ないので助かる、と困ったように笑うロッカが可愛らしくもいじらしい。


 2人で夕食を露店など買って帰り、帰宅するなりティアの家の研究室にロッカは興味津々だった。


 魔術式、魔法陣の構成を読み解きつつ、無駄の指摘や効果を上げられそうな改変の提案はティアには無かった視点だった。


「つまり、この一語はこの一文にかかっていて、制御を加えることで威力は抑えつつ方向性と規模を一定にしている訳じゃな。

なるほど、合理的ではあるが、本職用では無いのう。

妾ならば、ここは方向の指定のみにして威力はかけるコスト、つまり加えた魔力で術士自身が自由に出来る方が好みじゃな!

だが、この式は不慣れな者に教える際にはかなり有効じゃ、実に面白い発想だ。」


「ロッカは本当に聡明ねぇ、貴女の視点は私にとって凄く新鮮だわ」


「そうかそうか、妾はそなたに世話になっているからのう。

少しは役に立たねばな。」


「もう、そんな事気にしなくていいのに」


 律儀なロッカにティアは微笑みつつ、会話は続いていく。

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