第3話 猫獣人たちの狂詩曲 中編

 前日ティアと相談して、レオを脅かすことを決めた。

割とガチめに、「うわぁあああ!!」とか言わせてやりたいと言ったところ、ティアからレオの苦手なものをなんでも良いので上げていくように言われた。


レオの苦手なもの列挙してみる。

幽霊

粘着質の植物やスライム

虫・・・ ミーヤの方が無理なので却下

某顔のついた機関車


 目ぼしいものがない、と悩んでいるところで1つ思い出した。

エレンディルから1~2日ほど離れたところにある、密林のダンジョンに生息する手足が奇妙にながいゴリラ。その表情が虚ろで気持ち悪いと言っていたとティアに話したところ、それだ!と食いつかれた。


 ちょうどそのゴリラがダンジョンで増えているようで間引きして欲しいとの依頼を見かけたらしい。

メインはヒーラーであるミーヤだが、ミーヤは精霊魔法を使うタイプのヒーラーのためヒールを召喚した精霊に任せつつ本人も戦えるのだ。とは言え重い武器や防具は華奢な体では扱えないので攻撃魔法を中心に、近接としては細剣レイピア短剣ダガーを使う。


 冒険用の鞄にキャンプセットやポーション、魔力回復ポーション、簡易食糧と共に武器もいくつか仕込んだ。


 家を出る前にティアと、レオの使用人たちに協力依頼の魔術通信も送った。


 準備万端!と意気揚々と自宅を後にしたミーヤは早速冒険者ギルドへとまずは向かう。冒険者ギルドは毎日24時間開いているので、急ぎたい時は本当に助かるな~と考えつつ、目的の依頼を依頼ボードを探す。


 密林ダンジョンの討伐依頼と一緒にその近場の採集依頼関係を受け、そのままギルドに一泊、翌朝一番の乗り合い馬車でダンジョンへ向かうことにした。

一定ランクの冒険者はギルドに無料で泊まれるので、助かる。



 翌朝は早くにギルドを出て、市場で朝と昼の食料を買って久々に一人まったり、でも少し寂しく乗り合い馬車を待っていると、顔見知りの冒険者パーティと一緒になったのでラッキーだった。


「よう、ミーヤじゃないか!

・・・珍しいな、一人か?」


「あ、ラギじゃん!久しぶり〜!

うん、今日は近場に行くだけだからソロだよ!」


 ラギ達はミーヤと同じくAランク冒険者で、4人で雲海ダンジョンへ行くようだ。

雲海ダンジョンは地上に入口はあるものの、中に入ると雲海に浮かぶ島々が連なると言う不思議なダンジョンの1つだ。


 ダンジョンは異世界だとも、同じ世界の何処かに繋がっているとも言われているが真実は未だ分かっていない。

何はともあれ、一冒険者としては面白いの一言に尽きるタイプのダンジョンだが、出てくるモンスターが中々凶悪だったりするため、4人以上のパーティ推奨となっている。


 ラギ達の目的も凶悪と有名なモンスターの1種である、3属性魔法を扱う翼竜のレアドロップアイテム狙いだ。

基本的にダンジョンのモンスターは倒すと、モンスターの核となっている魔核を残して本体は消えてしまうが、稀にアイテムを残す事がある。

レアドロップアイテムと呼ばれ、大抵希少価値の高いものが多く、対象によっては希少効果のあるアクセサリーを落とすモンスターも中にはいる。

乱獲されそうではあるが、モンスターは一定時間ごとにダンジョンでまた復活するため絶滅する事はない。またそう言った希少アイテムドロップのあるモンスターは異常に強いため、高ランクの冒険者が複数パーティを組んで初めて討伐可能となるので、下手は冒険者では死にに行くだけになる。


 死亡は一部高ランクのヒーラーは蘇生が可能だが、ヒーラーの負担も大きく、復活した際には生命力が著しく減衰するため、前線復帰にはかなりの時間を要する。

また蘇生できるヒーラーがいないで一定時間が経過すると蘇生不可能。

そう言った諸々の状況から、一般的に心配されそうな資源モンスターの枯渇のような問題は回避できている。



閑話休題



 ラギ達は途中で馬車を降りると目的地の雲海ダンジョンへと向かったが、降りる際に「あまり虐めてやるなよ」とラギに言い残されたのがミーヤは解せなかった。


 虐められているのは私では?

18歳の誕生日は一生に一度しかない上、猫獣人にとっては成人となる大事な年齢だ。

簡単に言うと結婚できる年齢となり、一般的に猫獣人の女性は基本的に18歳で婚約して相手の家族と交流を重ねて20歳で結婚する。


 今は大分時代も変わり、婚約者のお披露目や相手家族との交流など仰々しくはやらないが、やはり18歳で婚約する猫獣人の女性は多い。

ミーヤもお年頃なので、もちろん相手はレオ以外考えていないし婚約したいと思っていて、レオも同じ気持ちだと思っていたのだが自信がすっかりなくなってしまった。


 気分が落ちると共にへにょっと落ちてくる耳を意識しつつ、馬車の外を眺めていると密林ダンジョンの近くの村が見えてきた。

今日はそこに泊まり、明日は密林ダンジョンへ潜る予定だ。


 密林ダンジョン近くの村はカルンと言い、ダンジョンで採れる多くの南国フルーツが売りになっていた。

フルーツは美味しいが、やはり傷みやすく中々他の街などでは手に入らないが、この村でなら贅沢にフルーツを使ったスイーツも食べられる。またそれを目的訪ねてくる冒険者や旅人もいるらしい。


 ミーヤも宿を確保すると、早速評判のカフェでフルーツパフェを堪能する。

カフェを出たミーヤは市場へと向かった。

お土産とダンジョン内の食事を求めて歩いていたが、やはり色とりどりのフルーツが目を引く。冷凍すればある程度もつのだが、生憎氷属性の魔法は苦手だった。代わりとなるお土産を求めていたミーヤはシロップ漬けのフルーツ瓶を見つけ、重いし嵩張るので一瞬躊躇したが、結局10個ほど購入した。


 購入した瓶詰は冒険者御用達のマジックバッグに入れたので重さは大したことはないのだが、大分容量を取られてしまった。

素材の採集もあるのが、採集用のサブバッグは別で持ってきているから、まあなんとかなるだろうと気楽に考えていた。

最悪、宿に荷物を預ければいいだけなのだから。


 翌日の準備も終え、後は寝るだけとなったミーヤは急に寂しくなっていた。

最近はソロで動くとしても、街中でお手伝いやクランの仕事をするくらいだったので、周りが見知らぬ人ばかりの中で一人なのは本当に久しぶりだった。


「ちょっと、寂しいなぁ・・・」


 誰にともなく呟いた言葉は、そっと夜に消えていった。

振り切るように毛布にくるまって無理矢理眠ったミーヤは、その姿を見守るように飛ぶ光る蝶の存在には気付かなかった。



 翌朝起床したミーヤは気合を入れるために「おっしゃ、やるぞー!」とシャワーを浴びて準備万端で出発する。

宿はもちろん、確保&荷物を預けてキープもした。この宿の食事は思いの外美味しかったので、依頼を終えた後はここでゆっくりしてから帰路につきたいのだ。


 密林ダンジョンはカルン村から徒歩で小1時間ほど言ったところにある。

入り口にある魔法陣に乗ると、自動的にどこかへと転送される。最初はどこに行かされるのかとビクビクしたものだが、今となっては慣れたものだ。


 このダンジョンは何度か来たことがある。


 密林と言われるだけあって、暑い。高い湿度に足元も水気が多く、苔などで滑りやすいので注意が必要がある上にとにかく蒸す。だが、薄着をすると虫刺されの危険と、攻撃を受けた際の危険があるので最低限は着こむ必要がある。

氷属性の魔法が得意なら良かったのだが、残念ながら相性が悪いので風を薄くまとい熱気を軽くさせていた。


 ティアが居れば全属性扱う彼女が周りをひんやりと冷やしてくれるのだが、居ないのだから仕方ない。

今度一人で来るときは使い捨ての魔道具を買おうと心に誓いつつ、ティアに「あづういいいいいいいい」と愚痴の魔術通信を無駄に送ると、友人からは一言「がんば♡」と返って来た。


暑さも相まってイラッとしながらも、八つ当たり気味に討伐対象のゴリラを探索するが、こういう時に限って中々見つからないものだ・・・。

60分後、十数匹の群れとなっているアームレストゴリラと呼ばれる手足の長いゴリラを発見した。


 Bランク相当と言われているが、精霊魔法を扱うミーヤには雑魚でしかない。睡眠と麻痺の魔法で束縛した後に全力の範囲雷魔法で一掃した。

まさに一瞬で、アームレストゴリラも群れは黒焦げになり全滅だ。ソロなので一撃で倒さないと自分が危機に陥るという危険性もあるからこその対応ではあるが、あまりの容赦のなさに見ている人がいたなら「えぐい」とか「えげつない」と言われただろう。


 その後も数時間ゴリラを文字通り乱獲し、時折獲得した皮や水晶のようなものをニヤリとしつつ回収して、夕方には大体必要数が集まった。

ゴリラたちも復活リポップする度に即殺されるので、ミーヤを見ると逃げるようになってしまった・・・ 解せぬ。


 半分不貞腐れた気分でカルン村の宿に戻ると美味しそうな匂いがして、ミーヤの耳はピンと伸びていた。


「いっらしゃーい!

あら、冒険者さん、おかえり!」


にこやかに宿のおかみに声を掛けられて、殺伐とした空気が霧散するミーヤは笑顔で答える。


「ただいまです~」


「早かったわね、目的のものは取れたの?」


「はい、たっぷり!

あ、そうだ、途中でフルーツも取って来たのでお裾分けです~」


「あらぁ、悪いわね助かるわ。

折角だからデザートにも出すわね。」


「楽しみです!めっちゃお腹空いてるんですよ~」


「はいはい、すぐ持って来るから空いているとこに座ってね」


 さっと見渡して空いている席に座って荷物を置いて早々に夕食が運ばれた。

夕食は近くの川で採れた川魚を香草で香ばしく焼き上げたものと、小さく切ったフルーツの入ったサラダにスープとパン。

十分なボリュームと美味しさに舌鼓を打ちつつ、デザートのフルーツのゼリーに大喜びした。


 満腹になったミーヤは昨日とは打って変わってにこにこと就寝したのだった。

明日は帰路について、早ければ明後日から作業開始だ。


そう、ここまでは前準備に過ぎないのだ。

達成感で一瞬忘れそうになってはいたけど、目的は討伐でも採集でも乱獲でもない。


ミーヤの目的はただ一つ、レオをぎゃふんと言わせてやる!!それだけなのだが・・・

本人は既に夢の中で思い出すのは3日後エレンディルについてからである。

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