第11話 失われた希望

村を捨て、都市への避難を決意した村人たちの行進は、静かで悲痛なものであった。荷物を背負い、子供たちを抱えながら、彼らは故郷を後にした。アキラとリュウは村人たちの後ろを守るように歩き、時折背後を振り返って警戒を怠らなかった。


日は昇り、道中の風景が徐々に明るくなる。周囲には広がる草原や、ところどころに立つ古びた木々があったが、その静けさはかえって不気味だった。風に揺れる草むらの音が、ゴブリンの足音に聞こえるたびに、村人たちは身を震わせた。


村の出発から数時間が経過した頃、背後から低く唸るような音が聞こえた。アキラが振り返ると、ゴブリンの群れが近づいてきていた。


「リュウ、来たぞ。あいつらだ。」


リュウは剣を抜き、険しい表情で頷いた。


「分かってる、アキラ。みんなを守らなければならない。」


アキラとリュウは、村人たちに注意を促し、戦闘態勢に入った。ゴブリンたちは数が多く、次々と襲いかかってきた。アキラは素早く剣を振るい、次々と敵を斬り倒していく。しかし、彼らの数は減ることなく、次から次へと現れる。


「リュウ、数が多すぎる。村人たちを先に進ませよう。」


リュウもまた必死に剣を振り、ゴブリンたちを斬り倒しながら答えた。


「そうだな。みんな、先に進んでくれ!俺たちが後ろを守る!」


村人たちは不安そうな表情を浮かべながらも、アキラとリュウの指示に従い、急いで前へ進んだ。子供たちの泣き声が響き渡る中、大人たちは必死に彼らを守りながら進んでいった。


アキラとリュウはゴブリンたちを倒し続けたが、その数は減ることなく増え続けていた。汗が額を流れ、体力が限界に近づく中、二人は互いに支え合いながら戦い続けた。


「アキラ、俺たちもそろそろ限界だ。早くみんなに追いつこう。」


アキラは息を切らしながら頷いた。


「分かった。ここで倒れるわけにはいかない。」


二人は最後の力を振り絞り、ゴブリンたちを押し返しながら村人たちの後を追った。やがて、ゴブリンたちは追撃を諦め、森の中へと消えていった。


道中、村人たちは不安と疲労で顔色を失っていた。しかし、アキラとリュウが戻ってきたことで、少しだけ安堵の表情を見せた。


「ありがとう、アキラ、リュウ。君たちがいなければ、私たちはもう…」


村長は感謝の言葉を口にしながらも、その声には深い疲労が感じられた。アキラとリュウは黙って頷き、再び警戒を続けながら進んだ。


さらに数日が経過し、ついに都市が見えてきた。遠くにそびえる城壁が、彼らの視界に入った。村人たちは疲れ果てた体を引きずりながらも、希望を抱いて歩みを進めた。


しかし、都市が近づくにつれ、アキラとリュウは何かがおかしいことに気づき始めた。城壁には、かつての小国の旗が掲げられているはずだったが、今は見慣れない旗が翻っていた。


「リュウ、あの旗…」


リュウも不安そうに旗を見つめた。


「ああ、あれは…帝国の旗だ。」


二人の間に不安が広がった。都市の門番もまた、帝国の鎧を身につけた兵士たちだった。彼らの厳しい表情が、何か異常が起きていることを示していた。


アキラは心の中で不安が膨れ上がるのを感じながらも、村長に向かって声をかけた。


「村長、都市の状況が変わっています。帝国の旗が掲げられている…」


村長は驚きと困惑の表情を浮かべた。


「なんだって?まさか…」


村人たちもまた、不安げな表情で都市を見つめた。彼らの心には、希望と不安が入り混じっていた。


アキラとリュウは、村人たちを守りながら門に近づいた。門番の兵士たちは、彼らに厳しい目を向けてきた。


「ここは帝国の領土だ。何の用だ?」


村長は緊張しながらも答えた。


「私たちは避難してきた村人です。助けを求めに来ました。」


兵士は冷たい目で村長を見つめた。


「助け?ここにはそんな義務はない。我々は帝国の命令に従っているだけだ。」


アキラは心の中で怒りを抑えながら、兵士に問いかけた。


「この都市は元々小国の領土だったはずです。なぜ帝国が支配しているんですか?」


兵士は無情に答えた。


「小国はもう存在しない。帝国が全てを支配しているのだ。」


その言葉に、アキラとリュウは愕然とした。助けを求めた国自体がもう存在しないことを理解し、絶望が心を覆った。


「なんてことだ…」


アキラは呟いた。


「リュウ、どうすればいいんだ…?」


リュウもまた、深い溜息をつきながら答えた。


「分からない、アキラ。でも、今は村人たちを守ることが最優先だ。」


村人たちは困惑と恐怖に包まれながらも、都市の門前で立ち尽くしていた。アキラとリュウは、その背後を守るように立ち続けた。


「助けが来ないのではなく、助けを求めた国自体がもうないなんて…」


アキラの心には、不信感と怒りが渦巻いていた。彼らは何のためにここまで来たのか。その答えは見つからないまま、都市の門前で立ち尽くすしかなかった。

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