第10話 避難の決断

さらに1週間が過ぎ去った。しかし、未だにゴローは帰ってこない。村の周囲には魔物の数が増え続け、アキラとリュウも次第に疲弊していった。村の状況は日に日に悪化し、村人たちの不安は限界に達していた。


ある夜、村長の家に村の長老たちが集まった。村長の顔には深い疲れと葛藤の色が浮かんでいた。彼は重い口を開き、村の未来について話し始めた。


「皆、もう限界だ。我々はもう何度も襲撃を受けてきたが、このままでは全滅してしまう。」


長老の一人が眉をひそめて尋ねた。


「しかし、ゴローが助けを連れて戻ってくるかもしれないではないか。まだ希望を捨てるのは早いのでは?」


村長は深いため息をつき、苦渋の表情で答えた。


「分かっている。しかし、助けが来る保証はどこにもない。ゴローが無事かどうかさえ分からないんだ。私たちは村を守るために最善を尽くしてきたが、もはやそれも限界だ。」


部屋の中は重い沈黙に包まれた。村長の心には、村を捨てるという決断への深い葛藤が渦巻いていた。村は彼にとって家族同然の存在であり、長年共に過ごしてきた村人たちを見捨てるなど考えたくもなかった。しかし、現実は厳しかった。


「私たちはこの村で生まれ育ち、この村を守るために生きてきた。しかし、今は皆の命が最優先だ。都市に避難するしかない。」


村長の言葉に、長老たちは黙って頷いた。彼らもまた、心の中で同じ葛藤を抱えていたが、今は村全体の安全を考えるしかなかった。


翌朝、村の広場に村人たちが集められた。村長は皆の前に立ち、重い決断を告げた。


「皆さん、聞いてください。私たちはこの村を捨て、ゴローが書状を持って行った都市に避難することに決めました。」


村人たちは驚きと困惑の表情を浮かべた。彼らは一斉にざわめき始め、動揺が広がった。


「村を捨てるなんて、本当ですか?」


「都市に行っても、本当に助けが来るんですか?」


村長は手を挙げて皆を静めようとした。


「皆さん、気持ちは分かります。しかし、このままでは村が全滅してしまう可能性があります。都市に避難すれば、安全が保障されるとは言えませんが、ここに留まるよりは希望があります。」


村人たちは不安げな表情で互いに顔を見合わせた。彼らもまた、この決断に納得するしかなかった。アキラとリュウは、村長の決断に対して批判はしなかったが、心の中では都市への不信感が芽生えていた。


「リュウ、俺たちがこんなに頑張っているのに、都市は何もしてくれないのか…?」


リュウも同じ気持ちだった。


「そうだな、アキラ。助けが来ると思っていたのに、もう1週間も経った。都市は本当に私たちを助ける気があるのか疑問だ。」


村人たちは困惑と不安を抱えながら、避難の準備を始めた。家を離れることへの抵抗感と、未知の都市への不安が入り混じり、彼らの心は揺れ動いていた。


年老いた村人の一人が静かに話しかけてきた。


「アキラ、リュウ、君たちがここまで村を守ってくれたことに感謝している。でも、もうこれ以上戦うのは無理だ。私たちも限界なんだ。」


アキラはその言葉に静かに頷いた。彼もまた、限界を感じていた。


「分かっています。でも、都市に行けば安全が保障されるというわけではありません。」


年老いた村人は優しく微笑んだ。


「それでも、今は希望を持つしかない。私たちが生き延びるためには、どんな小さな希望でも大切なんだ。」


村人たちの避難が進む中、アキラとリュウは最後の防衛線に立ち続けた。彼らの心には、不信感と焦燥感が交錯していた。


「リュウ、俺たちは本当にこのままでいいのか?」


リュウは深く息を吐き、アキラを見つめた。


「分からない、アキラ。でも、今は村長の決断を信じるしかない。私たちがやるべきことは、最後まで村人を守り抜くことだ。」


村人たちが避難を終え、静かになった村の中で、アキラとリュウは再び剣を握り直した。彼らは最後まで村を守る決意を固めたが、心の中には都市への不信感と、未来への不安が広がっていた。

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