第9話 迫る恐怖と焦燥

ゴローが都市に向かってから2週間が経過していた。村では未だに彼の帰還の知らせを待ちわびていたが、何の音沙汰もなかった。魔物の襲撃は日に日に激しくなり、村の周囲を守るアキラとリュウも疲労の色を隠せなかった。


夜明け前、アキラとリュウは再び村の境界を巡回していた。草むらの中から微かな音が聞こえ、二人は警戒を強めた。


アキラが低い声で話しかけた。


「リュウ、あの音、聞こえるか?また魔物かもしれない。」


リュウは頷き、剣を構えた。


「そうだな、アキラ。気を抜くなよ。」


二人は音の方に向かって静かに歩みを進めた。やがて、草むらの中から小さな影がいくつも見え始めた。ゴブリンだった。数は多く、20体以上がうごめいていた。


アキラは歯を食いしばり、剣を構えた。


「こんなに多くの魔物が一度に現れるなんて…」


リュウも苦い表情で呟いた。


「今は立ち止まっている暇はない、アキラ。やるぞ!」


二人は一斉に駆け出し、ゴブリンたちに向かって剣を振り下ろした。アキラの剣が一匹のゴブリンを切り裂くと、すぐに次の敵が襲いかかってくる。リュウも次々とゴブリンを斬り倒していくが、数の多さに圧倒されそうになる。


「数が多すぎる…」


アキラは焦りながらも必死に剣を振るった。しかし、ゴブリンたちの攻撃を避ける間もなく、新たな敵が次々と現れる。リュウもまた、息が上がり始めていた。


「アキラ、村に戻ろう。ここでは持ちこたえられない。」


アキラはリュウの言葉に頷き、村への撤退を決意した。二人は村の入口へ向かって必死に駆け戻り、ゴブリンたちの追撃を振り切った。


村に戻ると、既に村人たちはパニック状態に陥っていた。子供たちの泣き声が響き渡り、大人たちも不安そうに周囲を見回していた。村長がアキラとリュウに駆け寄り、焦りの表情で問いかけた。


「アキラ、リュウ、どうなっているんだ?ゴローはまだ戻ってこないのか?」


アキラは息を整えながら答えた。


「村長、まだゴローさんの帰りは確認できていません。魔物の数も増え続けています。今のままでは村を守るのは難しいかもしれません。」


村長は眉をひそめ、重い表情で頷いた。


「分かった。だが、私たちも何か手を打たなければならない。このままでは村全体が危険に晒される。」


リュウが村長に向かって話しかけた。


「村長、私たちができることは全てやります。でも、村人たちにも準備をしてもらわなければなりません。避難場所を確保し、防衛策を考える必要があります。」


村長はしばしの間考え込んだ後、決意を固めた表情で頷いた。


「分かった。村人たちに避難場所を指示し、武器を持てる者には防衛の準備をさせる。君たちも引き続き村の防衛に全力を尽くしてくれ。」


アキラとリュウは再び村の周囲を巡回し、次の襲撃に備えるために準備を進めた。しかし、彼らの心には不安と焦りが募っていった。ゴローが無事に戻り、助けが来るのを待つしかない現状に、彼らは苛立ちを隠せなかった。


夜が更け、再び魔物の気配が感じられた。今度はゴブリンだけでなく、オークやオーガも混じっていた。数はさらに増えており、村の周囲を取り囲んでいるようだった。


アキラがリュウに向かって叫んだ。


「リュウ、こっちだ!数が多いぞ!」


リュウも叫び返す。


「分かってる、アキラ!気を抜くな!」


二人は再び剣を構え、魔物たちに立ち向かった。次々と襲いかかる魔物を斬り倒すが、彼らの体力も限界に近づいていた。


村の中では、村人たちが震えながら避難場所に集まっていた。子供たちの泣き声と、大人たちの不安げな囁き声が響き渡る。村長は村人たちを励ましながら、冷静さを保つように努めていた。


「皆、落ち着いてくれ。我々は全力で村を守る。助けは必ず来るから、それまで耐えるんだ。」


しかし、村人たちの心には不安が募るばかりだった。ゴローが戻らない中で、助けが本当に来るのかという疑念が広がっていた。


アキラとリュウは全身汗まみれになりながら、最後の力を振り絞って戦い続けた。しかし、次第に体力も限界に達し、動きが鈍くなっていった。


「リュウ、もう持たない…」


アキラが息を切らしながら言った。


「俺もだ、アキラ。でも、まだ諦めるわけにはいかない。」


その時、遠くから足音が聞こえた。村人たちが一斉にその方向に目を向け、期待と不安が入り混じった表情を浮かべた。


「ゴローさんが戻ってきたのか…?」


しかし、足音の主はまだ見えなかった。村の中には焦燥感が広がり、アキラとリュウもその場に立ち尽くしていた。


「助けが来るまで、俺たちが持ちこたえるんだ…」


アキラは自分に言い聞かせるように呟いた。


「そうだ、アキラ。絶対に諦めないぞ。」


二人は再び剣を握り直し、次なる襲撃に備えた。助けが来るまで、彼らは全力で村を守り抜く決意を固めていた。しかし、心の中には不安と焦りが渦巻いていた。果たして、ゴローは無事に助けを連れて戻ってくるのか

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る