第12話 ご対面

 朝食の時にお母さんから聴いた話をまとめよう。再婚相手は“上原うえはら 絵満えまさん”というになる。彼女はお母さんと同じ40歳でバツイチみたい。


再婚にあたり、上原さんが“笹下姓”を名乗るようだ。しばらくは違和感を抱くと思うけど、慣れる事を祈るしかないわね。


再婚後の生活については、お母さんは上原さんの家に住むと聴いている。今の家は、私と絵里奈の2人暮らしになる形だ。


上原さんは昼過ぎに来るみたいなので、各自それまでに出来る事を行う…。



 お母さんが4人で食べるケーキを買いに行ってる間、私と絵里奈は家の掃除をやる。お母さんの再婚相手に、嫌な思いはさせたくないからね。


「お姉ちゃん。後で掃除を頑張ったご褒美が欲しい」

絵里奈が掃除の手を止め、私におねだりしてくる。


「はいはい。ご褒美あげるから頑張って」


「やった~!」


やる気の出し方が子供そのものよね…。


「そういえばさ~、お母さんと上原さんってHするのかな?」


「どうかしら? 上原さんに会わないと想像しようがないでしょ」

お母さんもそういう事すると考えるのが自然…よね?


「それもそっか」


「…絵里奈、さっきから手が止まってるけど? サボったらご褒美ナシね」


「今から真面目にやる!」


世話が焼けるわね。だから可愛いというか、放っておけないのよ…。



 ……私と絵里奈なりに掃除を済ませた。その途中で帰ってきたお母さんは、買ったケーキをリビングの机に置いた後、自分の部屋に向かって行く。


荷物をまとめるのも大変よね。次に私達がやるのは…。


「掃除して汗かいちゃった~」


絵里奈の言う通り、私達は汗だくだ。上原さんに会う前にシャワーを浴びないと。


「お姉ちゃん、一緒に入ろ♡」


「良いけど、遊ぶ時間はないからね?」


「わかってるって。お楽しみは後にするから」



 さすがの絵里奈も空気を読んだようで、シャワー中に余計な事は一切してこなかった。その代わり、熱い視線はたくさん感じたわ。


昼過ぎにケーキを食べるので、昼食は全員軽めに済ませた。昼食後から少しして、家の呼び鈴が鳴る…。


「絵満さんが来たわね。2人も玄関に来てちょうだい」


「わかった」


「は~い」


私達3人は玄関に向かう。いよいよ上原さんに会う時ね。



 玄関に着いた私達3人。お母さんが扉を開けると、そこには髪を低めに1本にまとめた女性が立っている。服装も大人しい色調でまとまっていて、まさに“大人の女性”だ。


……胸の大きさは、私達の中で一番大きく見える。これが大人の女性…。


「いらっしゃい絵満さん」


「こんにちは由紀奈ゆきなさん。後ろにいるのが…」


「娘の満里奈と絵里奈よ」


ここはしっかり挨拶しないと!


「初めまして、長女の満里奈です」


絵里奈、しっかり挨拶しなさいよ! お辞儀の後にあの子を見る。


「じ…次女の絵里奈です…」


表情は硬いしお辞儀もしてない。知らない人が相手とはいえ、もうちょっと頑張って欲しいわね。


「ご丁寧にありがとう。わたしは上原 絵満。由紀奈さんとお付き合いさせてもらってるわ」


あろう事か、上原さんもお辞儀をする。私達のような大学生相手でも敬意というか誠実さを感じる。お母さんは素晴らしい人と結婚するのね。


「絵満さん。さっき伝えた通りケーキを買ってきたから、食べながらみんなでおしゃべりしましょう」


私達が掃除してる時かお風呂に入ってる間に連絡したみたい。


「そうね。…お邪魔します」



 リビングに戻った私達4人は席に着く。お母さんと上原さんが隣同士で、私が上原さんの前になる。絵里奈は相変わらず緊張してるわ…。


「飲み物を用意しないとね。お母さんと絵満さんはブラックコーヒーにするけど、満里奈と絵里奈はどうする?」


ブラックを飲む自信はないわ。となると…。


「じゃあ、ミルクを入れたコーヒーでお願い」


「あたしも~」


「はいはい。すぐ持ってくるわ」

お母さんはそう言って、キッチンに向かって行く。


……3人になると、さすがの私も困るわ。何か話さないと。


「満里奈さんと絵里奈さんは、由紀奈さんに似て美人さんね」

私達を見て微笑む上原さん。


「そ…そうですか?」

絵里奈が少しニヤつきながら答える。


何でに受けるのよ! どう考えても“建前”じゃない!


「今のは本心よ、満里奈さん」


「はぁ…」

返答に困るわ。自覚してないから尚更だ。


「2人は将来の夢とかあるの?」


私と絵里奈は顔を見合わせた後…。


「はい、あります」

お母さんの再婚相手に嘘を付く必要はない。絵里奈も頷いて同調する。


「そう。わたしもできるだけ、2人の夢が叶うようにお手伝いするからね」


「悪いですよ…」


「気にしないで。由紀奈さんはもちろんだけど、満里奈さんも絵里奈さんも大切な人だから協力したいの」


気持ちは嬉しいものの、マッサージ店は上原さんに応援してもらう程なのか…。


「満里奈。その夢、詳しく聴かせてちょうだい」

全員分の飲み物をトレイに乗せたお母さんがテーブルに戻ってきた。


「まだボンヤリというか、ハッキリ決まってないの」


「それでも良いから」


念を押したし、話して良いか。


「笑わないで聴いてね。…絵里奈と一緒にマッサージ店を開こうと思うの」


「マッサージ店…。良いじゃない、ねぇ絵満さん?」


「そうね。この歳になると、肩とか腰がすぐ凝って…」


やっぱり、そういうイメージになるわよね。でも私達がやるのは…。


「お母さん、あたし達がやるマッサージ店は女の人専用なの! 敏感なところをマッサージして、気持ち良くなってもらう事を第一に考えてるんだ~」


「ちょっと絵里奈! 今はHなマッサージについて言う必要ないわよね!?」

わざわざ“気持ち良さ”を強調する必要がない。


「気持ち良さって、そういう意味だったの?」


上原さんに言われてハッとする。墓穴を掘ったのは私だった! この空気どうすれば良いんだろう?

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