第11話 秘密を話し合う

 今日は土曜日。お母さんの再婚相手が家に来る日だ。詳しくは朝食の時に教えてくれるらしいけど、一体どんな話になるんだろう…?



 リビングのテーブルには既にお母さんが作ってくれた朝食が置いてあり、私達家族3人はいつもの場所に座る。絵里奈は私の隣で、お母さんは私の前だ。


「お母さんの再婚相手について話すけど、驚かないで聴いてちょうだい」

緊張した面持ちのお母さん。


こういう前置きをするって事は…。


「お母さん、“女の人”と再婚する事にしたの」


やっぱりそうか。絵里奈の反応が気になったのでチラ見したところ、あの子は一瞬ウインクしてきた。本当に血は争えないのかしら…。


「あら? 全然驚かないのね?」


「男の人だろうが女の人だろうが、お母さんが好きになった人なんだから、私は祝福するわ」


娘として当然の事だ。


「あたしも~。今の時代、そういうのは珍しくないからね~」


「…ありがとう、満里奈・絵里奈。お母さん嬉しいわ」

安心したのか、ホッとした様子を見せる。


お母さんが本音を話した以上、私達の関係も話したほうが良いわね。話すタイミングは今がベストだと思う。


「お母さんの再婚相手の事、詳しく教えて!」


絵里奈が話を掘り下げる。確かに気になるけど、言う機会を失った…。


「名前は“上原うえはらえま”さんよ。お母さんと同じ40歳でバツイチになるわ。“え”は絵里奈の『絵』、“ま”は満里奈の『満』になるの」


「凄い偶然じゃん!」


「絵里奈もそう思う? お母さんも運命感じちゃってね~。境遇も似てるから、あっという間に距離が縮まったのよ」


「その人に子供はいるの?」


それは気になる点ね。もしいたら、その人と義理のきょうだいになるんだから…。


「いないわ。子供を考える時に、絵満さんの旦那さんの浮気で離婚したらしいから」


関係が複雑にならなくて良かったわ。


「再婚するって事は、名字はどうなるの?」


「絵満さんが“笹下姓”を名乗る事になるわ。この件を含めて色々話し合ったから、再婚が遅れたの」


「再婚がそんなに大変なら、 同棲で良くない?」


「絵里奈の言いたい事はわかるわ。だけど、再婚すると絵満さんは“家族”になるの。親族になったほうが手続きで楽になる事もあるのよ」


「ふ~ん…」


そのあたりの話は難しいわね。絵里奈の返事が曖昧なのもわかる。


……あの子は気付いているのかいないのか、一番肝心な事を訊いていない。それは私がしっかり確認しないと。


「お母さん。私達はこれから上原さんと4人で暮らすの?」


「それをどうするかは、本当に悩んだわ。絵満さんとどれだけ話し合ったか…」


お母さんの態度を見る限り、とても苦労したように見える。でも結論を出したから、再婚するのよね。


「満里奈と絵里奈はしっかりしてるし、家事だけじゃなくて家計の管理もできる。お母さんがそばにいなくても何とかなるわよね」


ここまで聴けば、返答の予想はできる。


「お母さんは絵満さんの家で暮らす事にするわ。彼女の家のほうが職場から近いのもあるし、“由紀奈ゆきなさんの娘さんに迷惑をかけたくない”って絵満さんが言ってたから…」


私達に気を遣ってくれたのね。上原さんは良い人みたい。


「今まで何度も帰りが遅くなってたけど、絵満さんの家に寄ってた事が多いのよ。だから暮らすのに問題はないわ」


私達がいないほうが、お母さんと上原さんはイチャイチャできるだろう。って、それは私と絵里奈も同じか…。


「もちろんこまめに様子を見に来るし、連絡もするわ。困った事があったらすぐ教えてちょうだい」


「わかったわ」


「は~い」


…よし、今度は私達の番ね。気になって絵里奈を見たところ、少し頷いてくれた。思いが通じてると信じたい。



 「お母さん。実は私達も言いたい事があるの」


「何かしら?」


「実は私と絵里奈は…」


「こーいう関係になったんだ~♡」

そう言って、あの子は私の頬にキスをする。


「えっ…?」

さすがのお母さんもポカンとしている。


「だから孫の顔は見せられないや。ごめんね、お母さん」


余計な事言わないでよ! 隣の絵里奈を少し睨んだ後、お母さんを見る。


「…今は結婚しない人が多いから、孫の事は気にならないわ。2人がそういう関係になったのは、逆にありがたいかも」


「ありがたい?」

想定外の返答ね…。


「そう。満里奈と絵里奈が良い子なのは、お母さんが一番わかってる。だから2人は、これからもお互いを支え合う良い姉妹でいられるはず。離婚のような辛い事は、お母さん1人で十分だから…」


「お母さん、受け入れてくれてありがとう」

さっきのホッとしたお母さんの気持ちがわかる。


「お姉ちゃん。お母さん公認になったから、これからもイチャイチャしようね♡」


「程々にするのよ、絵里奈」


「わかってるって、お母さん」


こうして、私達は互いに本音をぶつけ合った。これからが新たなスタートになるんだ!



 朝食を食べ終わった私達3人。お互い新情報が盛りだくさんだったので、食べながら頭の中で情報整理をする流れになった。


…私なりに気持ちの整理はついた。お母さんがそばにいないから、私がしっかりしないと!


マッサージ店の出店については落ち着いてから思い出したものの、今話さないといけない事じゃない。追々で問題ないわよね。


「絵満さんは昼過ぎに来るわ。お母さんはその間に4人で食べるケーキを買いに行ったり、荷物をまとめるから」


「という事は、今日から上原さんの家に行くのね?」


「ええ。そのほうがお互い良いでしょ?」


お母さんに気を遣わせちゃったわね…。


「悪いけど、洗い物は任せて良いかしら?」


「もちろん。私がやるから」

準備で忙しいんだから当然よね。


「あたしもやる~」


「それじゃ、頼んだわよ」

お母さんは食器を流しに持って行った後、自分の部屋に向かって行った。



 「お母さんが認めてくれて良かった♪」


隣で洗い物を手伝っている絵里奈が嬉しそうに言う。


「そうね。どうなるかと思ったわ…」


「お母さんと結婚する“上原さん”だっけ? 気になるな~」


「私もよ。絵里奈、なるべく行儀良くして、余計な事言わないでよ?」

どう考えても、孫うんぬんは余計だったと思う。


「お姉ちゃんは心配性だな~、大丈夫だよ」


なんておしゃべりをしてる内に、洗い物を終える私達だった。

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