第4話 お姉ちゃん好き♡

 大学に着いた私と絵里奈は、一緒に1限・2限を受ける。同じ講義を受ければ聞き逃したところを確認できると思ったんだけど、あの子が私に訊いてばかりだ。


あまり甘やかさないほうが良いのかしら? 悩むところだわ…。



 「お腹減った~。お姉ちゃんも減ったよね?」


「そうね。なるべく急ぐわよ」


2限が終わり、私達は早歩きで学食に向かっている。お手頃価格で食べられるのはありがたいものの、2限の後は混むから席を探すのが大変だ。


なるべくすいてますように…。心の中で祈っておく。



 「ありゃ、人いっぱいだ~」


私の祈りはむなしく、学食は多くの人で埋まっている。運が悪いわ…。


「あたしはお姉ちゃんと一緒に食べられるならどこでも良いけどね~」


絵里奈と違って、私はどこでも良くない。髪を染めてて人の近くは嫌だからだ。それは最後の手段にしないと…。


「お姉ちゃん、あたしが先に席を取っておこうか?」


食べ始める時に2人で席を探すより効率的ね。 私がトレイに2人分のメニューを乗せて運べば問題なさそうだ。


「絵里奈、任せて良い?」


「良いよ~」


あの子から食券を受け取った後、私達は別行動をとる。



 …トレイには、私と絵里奈のメニューが乗っている。2人分乗せるとバランス悪くて運びにくいわ。合図がないから、あの子がどこにいるかわからない…。


一体何をやっているの? 仕方なく、空いたスペースに一旦トレイを置いて絵里奈を探す。


……何とか見つけたけど、あの子の周りに2人の男子がいる。嫌な予感がするから、トレイを持ったまま急いで向かう。



 「あっ、お姉ちゃん!」


絵里奈とあの子のそばにいる男子2人が私を見る。男子は黒髪と茶髪で、雰囲気は私が苦手とするタイプだ。


「あんた、この子のお姉さんなんだ? 後で一緒に遊ばない?」

茶髪のほうが声をかけてきた。


…絵里奈のほうを見たところ、不安そうな顔で小さく首を横に振る。乗り気じゃないないから追い払うまでね!


「結構よ。お昼を邪魔しないでちょうだい」


「ちっ! 愛嬌がない女だ」

黒髪の男が舌打ちをする。


絵里奈に何をするかわからない男に愛嬌なんていらないでしょ?


「もう行こうぜ」


「ああ…」


茶髪の後を追う黒髪。今日は本当にツイてない…。


「お姉ちゃんありがと~」


絵里奈の向かいに座ってから、あの子が嬉しそうな様子を見せる。メニューを持ってきた礼も兼ねてそうだ。


「ああいうタイプは、強気に出ないとダメよ?」


なんて言ったものの、絵里奈を守る目的がなければできなかったと思う。姉として、妹の前で情けないところは見せられない。


「あたし、お姉ちゃんがいないとダメダメだね…」


「いつまでもそばにいられる訳じゃないから、しっかりしなさい」


「…は~い」


「さて、暗い話はここまで。早速食べましょ」



 学食を完食した私と絵里奈。この後は家に帰って、バイトの時間まで時間を潰す予定だ。何をするかはまだ決めていない。


「お姉ちゃん、帰る前にトイレに寄って良い?」


「良いわよ」


「お姉ちゃんも一緒に来て欲しいんだけど…」

何故かモジモジする絵里奈。


まさか、ナンパされたショックで1人でトイレに行けなくなったとか? いくらなんでもそれはないわよね…。


「わかった」

理由はトイレで訊こう。


食器を返却口に戻してから、私達は学食を出る。



 学食を出た後、大学の女性トイレに入る私と絵里奈。…洗面台には誰もいない。


「絵里奈、私をここに連れてきた理由は何?」


「それは…」


またモジモジしてる。調子狂うわ。


「…よし」


覚悟を決めた感じね。どんな悪い話が出てくるのだろう…?


「あたしを守ってくれたお姉ちゃん好き♡」

そう言って、私の頬にキスをする絵里奈。


「な、ななな何やってるのよ!?」

突然の事で頭がボンヤリする…。


「ホントは助けてもらってすぐやりたかったけど、人の目があったから…」


「ここだって人の目あるでしょ!?」


「ここは女の人しか来ないから良いの」


どういう事? 今の言い方だと、男の人には見られたくないように聴こえる。


「…絵里奈、私がトイレに行きたくなってきたわ」

狭くて1人になれる空間で考え事をしたい。


「偶然だね、あたしも…」


私達はあえて間隔を開けて、個室に向かう。



 まさか絵里奈にキスされるなんて…。今日はいろんな事が起こり過ぎよ!


…あの子の唇の柔らかさが、未だに頬に残ってる。大学に向かう途中で絵里奈が私の腕に胸を押し付けてきたけど、それとは違う柔らかさだ。


でも優劣はない。共通するのは、私を心地良い気分にさせる事。女の人のキスや胸は、みんな同じ柔らかさなのかな? それとも絵里奈だけ…?


いつまでも考え事はできないので、用を足してから個室を出る。



 個室を出ると、洗面台付近に絵里奈がいる。待たせちゃったみたいね。私は念入りに手を洗う。


「帰ろうか、お姉ちゃん」


何故かあの子は手を差し出す。小さい頃はよく手を繋いだものの、大学生になってやるのはちょっと…。


でもたまには良いか。私は絵里奈と手を繋ぎながら女性トイレを出るのだった。

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