第6嘆き 「ん?」ってなる表現

 第6嘆きまできて、とうとうこの記事の総文字数も1万をこえます。記念すべきという感じが個人的にします。誰も読んでないのだけが問題だ。やっぱり真面目に書かないと何か伝わるものがあるのだろうか。漂うのだろうか、不誠実が。


 手のひらにマヨネーズとか何か白い物を塗って写真に撮り、「最低だ、俺って……」とコメントをつけてポストする「最俺チャレンジ」というのを思いついたんですけど、ググってみたら似たようなことをしてる人はずーっと前からいっぱいいましたね。やっぱり目覚ましいアイデアなんてそうそう出てこないなぁ。


 ちゃんと定期的に下ネタを書かないと、タグに偽りアリってことになってしまうので書きました。本当はこんなこと書きたくないんです。

 創作論とかを書きたいのです。なので書きます。おこがましくも。



 皆さん異世界おじさんっていう漫画知ってますよね? アニメ化もされたし、偉大なる角川グループ運営のサイト(アプリ?)で連載されているので知らないとは言わせない。角川に栄光あれ。


 その異世界おじさんで、なんか引用とかもされて有名になったシーンがあって。

 異世界に転移してしまったおじさんの異世界生活を、地球に戻ったおじさんが甥と一緒に映像で振り返るという状況。映像の中でキャラクターが「四面楚歌」という言葉を発して、甥が「この世界って『楚』があるの?」って驚くシーンがあるんですね。


 中国大陸の歴史上の国の「楚」が関係する故事を元にした四字熟語だから、同じ歴史を持ってる世界じゃなきゃ「四面楚歌」なんて言葉が生まれるはずがないという。そういうギャグシーンなわけです。

 映像はおじさんの魔法で作り出しているもので、その異世界の言語音声を分かりやすく自動翻訳した結果そうなった、というのが真相なんですが、異世界ものを書くにあたって、この視点って興味深くもあり、なかなか怖いやっかいな考え方だと思うわけです。


 とあるカクヨム作者さんがどこかのコメント返信でおっしゃってた事なんですが、「自分は異世界の物語の資料を読み解いて、小説として翻訳しているというスタンスで書いてる。だからその物語の枝葉末節において現実的に辻褄が合わないところがあると言われても知らん」って書いてたんですね。うろ覚えなので正確じゃないですが。

 とても良いスタンスだなあと思って、私も異世ファを書くにあたって、そんなふうに気楽に書こうって思えました。


 「翻訳してるだけ」というスタンスであれば、どんな日本語が出てきてもいいわけです。逆に現地語でしか表せない特殊な言葉を造語しまくるのは、それがテーマの小説でない限り読んでて楽しくならないので。

 けっきょく読者に意味が伝わる文章で書くのが最適解だとおもいます。


 とはいえ。現代日本人が使っている言葉なら本当に何でも使っていいのかというと、私はそうじゃない気がしてるんですね。


 中世とか近世っぽい雰囲気の世界で、登場人物が「コンセンサス」とか言い出したら、「ん?」って思いません? あるいは「エビデンス」とか「リスクマネジメント」とか。そもそも日本語じゃない気もしますが、ともかく、ギャグ路線じゃない限りは違和感あると思います。


 端的にいえば新しい言葉だから問題があるってことなんですけど、けっこう昔からある言葉でも「ん?」ってなるものはあります。たとえば。剣と魔法で戦ってるキャラクターが「倒しても倒してもキモキモスライムが湧いてくる! 体力は大丈夫だが、ストレスで頭がおかしくなる!」って言ってたら、「ん?」ってなりませんか? なりません?


 ストレスって1950年代末から日本でも使われ始めた言葉らしいので、現代日本人にとっては当たり前の言葉だし概念のはずです。しかも適した邦訳が無い。直訳なら「刺激」。意訳なら「精神的な不快な刺激」でしょうか。いずれにしろ上のセリフの中には入れづらい。


 不快な刺激によって医学的な実際の問題が起きるっていう考え自体、第一次世界大戦以後とかに確立された比較的新しい概念なのかもしれず、結局は現代的だから異世界にそぐわないってことなのかもしれません。

 砲弾の破裂音でいわゆるシェルショック、からのPTSDとか。そういう精神医学的な研究がまだ存在しないはずの世界では、戦士たちはストレスなんて存在しないものとして戦い続けてくれないと困るって事なのですね。かわいそう。


 人によっては「大丈夫」に引っかかるかもしれません。「大丈夫」も調べてみれば、元は中国語で「立派な男性」という意味の単語なので。

 私は気にせずに「オーケー」の意味で使いますが。


 「大丈夫」だけじゃなく、カタカナ語じゃなくても実は異世界ファンタジーに使いづらい言葉ってあると私は思っています。


 『勇者ゴンザレスが奇襲によりゴブリンキングを打倒したことが、その戦いを終わらせる決定打となった。』という文があったとすると、私は「ん?」と思います。

 思わない人の方が多数派かもしれませんが、実は「決定打」って完全に野球用語なんですね。野球が普及するまで日本では使われてない言葉です。


 野球や野球にそっくりなスポーツが存在しない限り、その世界で決定打という言葉が出てくるのはやっぱり変というか、「ん?」となります。

 他にも「外野」「完封勝利」「続投」など、現代日本人なら野球関係なくても使うけど、野球が無い世界では生まれないであろう言葉を、やっぱり私は異世界ファンタジーの中で使えないんですね。


 野球だけじゃなく、「王手」とか「悪手」みたいな将棋用語を使うために、私はチェスに似たゲームを小説の中に登場させてます。キャラクターの誰もチェスなんてプレイしないのに無理やり出してます。

 四角く区画された街の構造を「碁盤の目のような」って表現するためには本当は碁が存在しないと駄目なわけです。さすがに碁は出さないけど、これもチェス板っぽいという表現で代用しています。


 こういうのって、転移転生タイプの一人称異世ファ小説でも逃れられないんじゃないかと思うんですよね。いわゆる地の文は現代人主人公のモノローグにしたとしても、やっぱり現地人のセリフはあるわけだから。そのなかの表現に「ん?」ってなることはあるんじゃないかと思います。


 まあ、揚げ足取りのいちゃもんと言えばそうだし、細かいことを言うと本当に何も書けなくなってしまうとも思います。私が気付いてないだけで、他の人が「ん?」って思う表現はきっと他にもたくさんあるはずです。


 そんな感じなんですが、一つだけ。私自身「ん?」と思いながら避けようのない表現があるんですね。それは、英語で言うところの「KID」を表す言葉です。


 「坊主」「小僧」「ガキ」。これってみんなもともと仏教用語なわけです。

 坊主は寺の管理者の僧侶だし、小僧は小さい僧侶。ガキは餓鬼道に落とされた亡者の事です。

 なので仏教が存在しない、あるいは普及してない世界でこの3つの言葉を使うのは、私自身書いていて「ん?」って思うんです。

 しかしながら、今の社会で日本人に通じる言葉として「坊主」「小僧」「ガキ」に替わる言葉って存在しなくないですか? 「少年」はニュアンスが違うし、悪童は口語としては違和感しかないし。


 もう諦めて気にするのはやめてるんですが、誰かいい代替案あったら教えて下さい。

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