第34話
結論から言えば、持田修吾は何も知らなかった。
樹が消えた日、樹に会ってもいないし、特に最近、樹との交流があったわけではなかった。
連絡後、自宅にやって来た同級生五人に、持田はただ面食らっていた。
五人という大所帯になったのは、なぜか奈都乃まで付いてきたからだ。具合が悪いと、六時間目から保健室で寝ていたわりには、元気に付いてきた。
持田の家の玄関を去り際、恵奈が訊いた。
「来月、転校するんだって?」
すると、持田はさびしそうな表情になった。
「そうなんだ。親の転勤でさ」
「どこ?」
颯真も訊いた。樹が持田の転校先の学校についてまわりに訊いていたのなら、そう遠くないところだろうと思う。
颯真には、ちょっと転校に興味があった。樹たちにターゲットにされてから、何度も転校を考えたのだ。親に言う勇気はなかったから、口にしたことはないが。
「松木市の松木第一中学」
それは、隣の市の中学だった。だが、松木市は、颯真たちの暮らす町よりもずっと小さく、もっと田舎だ。
「第一中学っていうと大きい感じがするけど、クラスも二クラスしかないし、のんびりした学校らしい」
「書道部はあるの?」
恵奈が訊くと、持田は笑顔になった。
「あるみたい。二人しか部員はいないらしいけど」
持田と別れると、時刻はそろそろ八時になろうとしていた。もう帰らないとまずい時間だ。恵奈と奈都乃は、歩きながらスマホで家に連絡し始めた。
「だいじょうぶ。友達といっしょだから」
奈都乃の声は、ほんの少し弾んでいる。
コンビニの前を通りかかったところで、翔太郎が、
「なんか買って食おうぜ」
と言い出した。誰も反対せず、コンビニになだれ込み、それぞれパンや飲み物を買った。
みんなでコンビニの駐車場の端に集まり、惣菜パンを立ったまま食べた。隣の大雅が、
「これ、うまい」
などと言っている。
仲違いする前に戻ったみたいだった。だから自然に、
「半分取り替えようぜ」
と颯真も返せる。
「結局、なんもわかんねえな」
水のペットボトルを飲み干して、翔太郎が言った。
「警察はどうやって捜査をしてるんだろ」
颯真が言うと、
「交友関係は洗ってるみたいだけど、なんにも出てきてないって悠人から聞いた」
大雅が応える。
「やっぱり、樹が消えたのは人消しゴムのせいなのかな」
恵奈がおにぎりを頬張りながら、颯真に顔を向ける。
奈都乃が、
「え、何それ」
と、みんなを見回した。
「あ」
ばつが悪そうに、恵奈がおにぎりを包んだビニールの部分で口を隠したが、遅かった。
「今、人消しゴムって言わなかった?」
「えっと……それは」
恵奈がしどろもどろになった。
「言ったよね? 恵奈、今、人消しゴムって」
「ただの都市伝説の話だよ。もしかして、樹が消えたのが消しゴムのせいだったりしてって、話」
「そうそう」
颯真も恵奈を援護した。大雅の場合は仕方なかったが、人消しゴムの存在は、翔太郎と恵奈との秘密だ。
奈都乃は、疑わしげな目で恵奈を見返す。ニニッと恵奈が笑って、奈都乃は、
「そうなんだ」
と諦めかけたが、大雅が蒸し返した。
「おまえ、なんで、人消しゴムにこだわるわけ?」
「だって」
奈都乃はそう言ってから、口元を手の甲で拭った。
「人消しゴムって、都市伝説じゃないかもって思って。だって、あたし、聞いたの。保健室で寝てるとき、カーテンの向こうで二人が話してるのを。人消しゴムを使うか?って言ってた」
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