最終話 とある警官の話

 俺が交番で報告書をまとめていると。


 上の方から連絡が来た。


「B地区歩道橋で首吊り死体が出たぞ。応援頼む」


 ……ああもう、嫌だなぁ。


 警察官になった後、予想外だったのがこれなんよ。

 自殺者って結構普通にこの国には出てるのよな。


 報道されないから気づかないだけで。


 そしてそういう死体の処理って、警察官の仕事なんだわ。


 死体の処理は気分悪い。

 処理の仕事は慣れたけど、嫌悪感は変わらない。


 でもまあ、これでご飯食べてるし。

 嫁と子供も養ってるんだから行かなきゃな。




「どうも渡辺さん。応援に来ました」


「おお、大川。助かるよ」


 現場に駆け付けると

 早速だが、死体を引っ張り上げる作業の手伝いを。


 そう言われた。


 首吊り死体は歩道橋からぶら下がっていて。

 ロープを切って下に落すと衛生上の問題なんかね。


 こういう場合、引っ張り上げるのがデフォなのよ。


 なので、数人で「せーの」と一緒に引っ張り上げる。


 ……重い!


 死体を引き上げ切ったとき。

 息が上がってた。


 ああ、しんど。


 死体は酷いもので。

 首を吊ったときに首の骨が折れたのか、首が伸びていた。


 ……で、首に番号の入れ墨があった。


 そこで理解する。


 ああ、こいつ欠陥人間なんだな。


 これが欠陥人間の末路か……


 俺の中学でも、2人ほど出た記憶がある。


 あいつらの末路もこんな感じなのかね。


 自業自得だ。

 こいつらは邪悪だからこうなった。


 邪悪な人間の末路。


 ……できれば自宅で吊るか、樹海にでも突っ込んで欲しかったよ。

 こんなところで首吊りをされると俺たちに迷惑掛かるしな。


 そう思っていたら、歩道橋の欄干に便箋が挟んであるのを発見した。


 何気なく手に取ってみた。


 ……確認すると、それは遺書だった。


 先輩たち、これに気づかなかったのか。

 あとで提出しとこ。


 そんなことを思いながら、何気なく読み進めた。


 ……するとそこにはこう書かれていた。


 こいつは小学校のときに欠陥人間の判定を受け、収容所に送られたらしい。

 そしてそこから30才になるまで、必死で生きて来たようだ。


 収容所ではろくな教育を受けられず。

 出所後に親を頼ろうとしたが、親は親で無職で路上生活者になる寸前で。


 とても頼れず。


 止む無く自活を決断したけど。

 世の中が厳しすぎた。


 自分は社会にいじめられまくった。

 俺は世の中が憎い。


 だからここで首を吊って、その死体で世の中に抗議する。


 ……そんなことが書かれていた。


 ハッ、自分が悪いのに何を言ってんだ?

 俺は一笑に付す。


 そのまま手紙を閉じようとした。


 だけど……


 その先に続きがあり。

 そこにはこう書かれていた。


 俺は親に教わったことをそのままやっただけなんだ。

 そんな俺を邪悪な欠陥人間だというなら、何故そんな正しくない親に子育てをさせた!?


 俺は悪くない!

 周りが全部悪い!



 俺はそこの部分を読んで、硬直した。


 正しい親……

 ハタと思ったんだよ。


 正しい親の定義って、あんのかな?

 そう思って。


 そして思った。


 ……俺の家は大丈夫だろうか?

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