第2話 ある教師の話
俺のクラスの生徒が、他のクラスメイトに暴行を働いた。
トイレで大人しいクラスメイトを、拳で何度も殴りつけ、一方的に痛めつけたんだ。
絶対に正当防衛が成立しない状況。過剰防衛ですらない。
紛れもないいじめ。
前々から、問題行動を確認していた生徒だったので警戒はしていたんだが。
とうとう、やりやがった。
いつかやるんじゃないかと思ってはいたが。
やってしまった以上、後の対応は決まっている。
俺は速やかに収容所……欠陥人間教育学校に連絡を入れた。
「お忙しいところ申し訳ない。欠陥人間が出現しました」
「分かりました。数分で迎えのスタッフを派遣致します」
それだけ伝え、対応の依頼を終える。
ふぅ。
スマホの通話を切って、俺は暗澹たる気持ちになった。
……こっから先が大変なんだよな……。
収容所からの予告通り、数分で黒服の男たちがやってきて、泣き叫ぶ該当生徒……いや、元生徒か……を強制連行していった。
これでこの先、あのクズが社会を歪めることは永遠に無くなった。
あの害虫の人生は完全に潰され、社会に迷惑を掛けることは一切無くなる。
一安心。
この法律が出来る前は、ああいう手合いが野放しで。
そのせいで他者への慈悲の心や博愛の心を一切持ち合わせず、長じてブラック企業の社長になったり、部下や後輩をイビりまくる人間に成長しても
「俺は子供のころに教えられたことをそのまま実行しているだけだぜ?」
こう言われると、一切反論できない恐ろしい状況だったからな。
災いの芽は絶たないと。
さて、次は保護者への連絡だ。
まずは被害生徒へのケアを依頼しなきゃ。
ここから先は保護者の仕事だし
俺は緊急連絡先から、被害生徒の母親の連絡先を調べて電話した。
数コールで女性の声が出た。
「もしもし?」
「ああ、
面識はほとんどないので、当然名乗る。
向こうはどうも、って言ってくれて。
すぐに本題を切り出した。
「実は本日、息子さんがいじめの被害に遭いまして」
「ええ!?」
動揺の声。
そりゃま、そうでしょ。
我が子がいじめられたと言われて、動揺しない親はいない。
だけど俺はそこは無視して、続けた。
「加害生徒はすぐに収容所に送りました。二度と社会に出てくることはありません。ご安心を」
電話の向こうの親御さんの安心が伝わってくる。
ちょっとだけ、俺は気分が良かった。
親の愛を感じるこういう反応は、やっぱり良いものだ。
ただ、これだけは言っておかないと。
「……しかしですね、これだけはお伝えしておかないといけないのですが」
俺は言った。
この法律で収容所送りが起きた際、被害生徒に歪んだ成功体験……自分に嫌な事をした相手を破滅させてやった……これが起きる場合がある。
なので親御さんに俺は伝えた。
「……昔の武士は、切り捨て御免の権利があったと言いますが、実際は厳しい審査があり、無礼討ちの正当性が認められないと自身が死罪になったそうです。そして正当性が認められても、自宅で謹慎したとか」
この法律は現代の切り捨て御免であるので、当時の武士と同じように、送った側にも作法を守ってもらう必要がある。
なのでこう言ったんだ。
「クズとはいえ、ヒト1人の人生を潰したんです。太君にはこう言ってください。昔の武士と同じように、どうすればあのクズに目をつけられなかったのか。自分を顧みるように、と」
被害生徒が悪いわけじゃない。
悪いのはクズだ。
それは間違いない。
だけどクズにはクズの行動原理がある。
クズに目をつけられやすい要因があるんだ。
そこは改善しないと。
これを伝えると親御さんが怒ったり、悲しんだりする場合あるからな。
非常に面倒くさい。
……幸い
「……分かりました。息子と一緒に話をして、答えを探します」
その声は重さがあった。
震えてしまうね。
こういう、親の責任を自覚した声ってのは。
こういうのが見れるから、俺は教師になったんだ。
被害生徒の保護者への連絡を終え。
次は加害者のクズの親に連絡をした。
同じように電話。
数コールで親が出る。
「もしもし?」
「ああ、息子さんの担任の地獄谷です。本日、そちらの息子さんを収容所に送りました」
一方的に通知。
こっちは楽。
気を使わなくて良いからね。
「ええっ!?」
いっちょ前に動揺。
クズを育てたくせに、何をショックを受けてるの?
責任感じろよ。全く。
「息子さんはおそらく二度と社会に出てきませんし、出て来てもどうしようもないでくの坊になります。対応はそちらでどうぞ」
クズの親は何かギャンギャン言ってきた。
間違いじゃ無いのか、ウチの子に限って、とか。
アホか?
お前みたいなのがクズを産み、クズが社会に迷惑を掛ける。
そのせいで社会が歪んでいく。
そしてクズがまたクズを育てる。
悪循環。
お前に発言する権利は無いんだよ。
なので
「それ以上騒ぐと、処罰されますよ? 関連法8条の条文を聞かせましょうか?」
そうドスの利いた声で言うと、一瞬で黙った。
全く。
最初からそうしていろっての。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます