改稿版欠陥人間対処法
XX
第1話 法律の背景とその歴史
あるとき、教師が生徒を自殺に追い込んだとして問題になった。
彼は自分の受け持ち生徒の1人に「ゴミ人間」「お前は生まれてくるべきでは無かった」「生きてるだけで害悪、すぐに死ね」「こんなこともできないのか。蛆虫が」と毎日囁き続け。
その生徒がビルから投身自殺するまで追い込んだ。
その教師は民事で責任を追及され、多額の賠償金を払うこととなり、そして当然のことながら教師の職業を失った。
だが……
その教師はそれら自分への処罰が済んだ後、SNSで暴露した。
自分の所業の背景を。
彼は言った。
「俺が自殺に追い込んだ生徒は人間のクズだった。それを俺はあいつにワカラセてやったまでだ」
彼曰く
「あいつは平気で自分より弱い生徒を玩具にし、何度やめろと言ってもやめなかった」
「親もクズ。あいつの親を呼び出して止めさせるための話し合いの場を設けても、ウチの子に限ってそんなことをするはずがないです、の一点張りだ。意味が無かった」
「だがあいつを放置すれば、他の子に『世の中、強い人間は何をやっても許されるんだ。所詮この世には正義なんて無い。弱肉強食なんだな』という誤ったメッセージを刻み付けてしまう」
「そういうメッセージを受けた子が、その怒りで努力を重ねた末に、長じて国の重鎮になってしまったらどうする?」
「その子たちは、今度は自分たちが、何か弱者を切り捨てる無慈悲な提案をしつつ思うだろうよ。俺はこの社会の弱肉強食の理に従っただけだぜ? これが嫌ならお前らも強くなればいいだろ、と」
「この主張には俺は反論できないと思うんだが!? 何故って当人が邪悪な強者に苦しめられているとき、社会はそいつを放置して裁きを下さなかったんだからな!」
「そしてお前らはそんな事態が起きるこの国の状況を認めるんだな?」
こんなことを書き込んだんだ。
彼の叫びはすぐ削除対象になったのだけど、その前に多数の人間を共鳴させた。
確かにそれは問題だ。
この世に正義なんて無い。弱肉強食なんだなんて、そんなメッセージを真理であると教えるような状況。
放置すれば、世の中はどんどん悪くなってしまう!
その意思は大きなうねりとなり。
最終的に新しいルールを作ることになった。
「学校はいじめをした生徒を排除できる」
名付けて「欠陥人間対処法」
対象は恐喝、暴行、侮辱。
あと精神的苦痛も対象になった。
それがいじめであると認められれば、その主犯と認定された生徒は通常の学校教育を受ける権利を永久に失う。
別の「欠陥人間教育学校」という屈辱的な名前の教育施設に送られるのだ。
そこは全寮制で、毎日「自分は最低の人間である」「本来生きていてはいけない人間なのだ」
それを毎日自己暗示を掛けるように言わされ続け、読み書き算盤レベルの基礎的なスキル以外、学ぶことを許されない。
そして不平を言えば容赦なく鉄拳制裁が飛び、精神的に追い詰められて自殺に至っても無視される。
当然、ここに送られた時点でその生徒の将来は終わる。
そしてそんな子供を出してしまった家は社会に糾弾され、社会から抹殺されるようになった。
その後、この国は変わった。
まず、不良が真面目な大人しい生徒をいじめるという構図が完全に消えた。
それが明るみに出た時点で、その生徒が社会から排除されるからだ。
欠陥人間教育学校はほぼ刑務所であり、脱走は出来ない。
そしてそこを無事卒業できても、首に番号の入れ墨を入れられ、実刑レベルの犯罪で死刑、そこまで行かない微罪を犯しただけでも無期懲役になるというとても重いハンデを背負う。
そして次に起きた問題は。
逆にこのシステムを逆手にとっての「私はいじめを受けましたと主張をするぞという脅しを掛けて他人を屈服させる」
このパターン。
何例か起きたが、発覚したら当然その生徒こそが欠陥人間教育学校に送られた。
そしてそれを見せしめるように公知させたら、そのうち無くなった。
少なくとも発覚しなくなった。
そして、この法律の執行をスムーズに進めるための関連法も整備されていき。
最終的に……こうなった。
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