第48話 もう終わりですねえ

 これも幸運だったのかもしれなかった。

 ヴェレンディは光希こうきの【鼓動の剣】、つまり刀身ガチャの仕組みについてまでは完全に理解していなかった。

 鼓動の剣はカプレカ数である297秒が経過するとた、一度刀身が消える。

 再び刀身ガチャを行うまでは攻撃力も防御力もゼロになるのだ。


 カタシロ・ブレードを出現させてから、280秒は立っていた。

 光希こうきとしては一度刀身ガチャを引き直すつもりだったからヴェレンディとの会話を続けていたのだが――。


 ヴェレンディが三連装砲での攻撃をあと数十秒、送らせていたら、カタシロ・ブレードは消滅し、そして光希こうきたちはあっさりと全滅していただろう。

 だが、そうはならなかった。

 こんなちょっとした偶然も、ミシェルの肉を喰ったおかげの幸運なのかもしれなかった。


 50センチ口径の巨砲が火を噴き、砲弾が発射される。

 丈夫なはずのダンジョンの壁や天井が衝撃波で破壊されてぼろぼろと崩れた。

 普通であればその衝撃波だけで光希たちは全身に致命的なダメージを受けたことだろう。

 だが、衝撃波と轟音は由羽愛ゆうあが何重にも重ね掛けしていた魔法障壁によって防がれていた。


 そして。


 飛んでくる三つの砲弾。重さは一つ1.5トン。

 並の魔法攻撃の威力を遥かに凌駕する、物理的な攻撃。

 カタシロ・ブレードが消滅するまで、あと十秒。


「おぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


 光希こうきが気合を入れると、カタシロ・ブレードがさらに強い光を放った。

 極限まで集中した光希の目には、飛んでくる砲弾がはっきりと見えた。


「うらぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 天叢雲剣――草薙剣と同等の霊力を持つカタシロ・ブレードが、光希の魂の力を吸い取り、そして眩しく光り輝く。


「おるぁっ!」


 光希が剣を振り抜くと、カタシロ・ブレードから放出された神聖なる力が三つの砲弾とぶつかりあった。


 グォォォーーーーーーーンッ!


 鈍い音とともに、砲弾の衝撃力とカタシロ・ブレードの衝撃力がぶつかりあい――。


 ドオオオオオーーーーーーーーーーーンッ!!!!!


 という、まるで世界の終わりのようなとんでもない轟音が鳴り響いた。

 鋼鉄でできた1.5トンの砲弾はぐしゃっとひしゃげて床に叩き落される。

 ダンジョンの床がひび割れて破壊された。

 ここが最終階層の地下十五階でなかったならば、たとえば地下十階であったならば下層階まで破壊しただろうと思われるほどの衝撃が空気を震わせる。

 壁と天井がさらに崩れた。


 光希自身も、その衝撃力に耐えきれなくなって後方にふっとばされる。


 崩れる壁を見て、光希は思った。


 ――ここで戦闘になってくれて、助かったぜ……。


 巨大な砲弾を三つとも床に叩き落すことに成功したが、その反動も凄まじいものだった。

 光希の身体はとんでもない威力で跳ね飛ばされる。

 なすすべもなく壁に叩きつけられる――その寸前で、


「マスター!!!!!」


 ミシェルが光希の身体を受け止めてくれた。

 だがミシェルの力だけではその衝撃力をすべて吸収できるわけもなく、ふたり重なるようにして壁に打ち付けられた。

 ゴキバキッ! という、光希自身とミシェルの骨が折れる音を身体越しに感じた。


「光希さん! ミシェルさん!」


 由羽愛ゆうあが駆けつけてくる。


 ミシェルは光希をかばって壁に衝突したショックで気絶しているようだった。

 光希自身もミシェルの身体がクッションになったとはいえ、全身にダメージを受けている。


「くひゅー……くひゅー……」


 ミシェルの呼吸が聞こえる。

 ほとんど死戦期呼吸のようにも聞こえた。

 死の直前の、あえぐような呼吸である。

 まさに、命をかけて光希を救ってくれたのだ。


由羽愛ゆうあ……すぐにミシェルに……治癒魔法をかけてくれ……」

「で、でも光希さんも!」

「俺はまだ大丈夫だ、とにかくミシェルが先だ……」


 そんな姿を見て、爆笑している女が一人。


「あっはっはっはっはっはっはっは!!!! どっちが先でも関係ないですねー! 次の装填まで四十秒! さらばだ、愚かな人間よ! ここから逆転の方法など、ないですよぉ!」


 再び、三連装砲の砲口が光希たちに向けられる。

 光希は柄を握ろうとして――。

 それが手の中にないことに気がついた。


 鼓動の剣の柄が、数メートル離れたところに転がっているのが見えた。

 カタシロ・ブレードはすでに消え失せている。


「さあ! そろそろ走馬灯を見るころですねえ!」

「まだ……死なないさ……俺たちはお前を殺す……」

「では聞こう! ツバキは消滅し、お前のスキルも使えない! ウサギは瀕死で五体満足なのはそこの子どもだけ! さあ、ここからどう逆転するつもりぃ? あっはっはっはっは! もう終わりですねえ、あと三十秒! 私を殺せると思ったのが間違いでしたねえ!!! あっはっはっはっはっは!」


:コロッケ台風〈やばい、死ぬ〉

:おならのらなお〈どうにかしてくれ〉

:きジムナー〈ツバキはまじで消滅したのか?〉

:光の戦士〈詰んだのか?〉

:エージ〈これで終わりか、まさか?〉

:みかか〈がんばれ! なんとかしてくれ!〉

:Kokoro〈由羽愛ちゃんだけでもどうにか逃げて!〉

:由香〈由羽愛ちゃんにげてぇぇぇぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!〉

:seven〈ナッシーなんとかしろおおおお!〉

:見習い回復術師〈誰かなんかいい案ないのか?〉

:青葉賞〈こっから逆転する方法ないんかよ!?〉

:リャンペコちゃん〈おいまじでなんとかしろ!〉

:250V〈あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!〉

:♰momotaro♰〈あqwせdrftgyふじこlp〉

:音速の閃光〈おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水産おけまる水〉

:五苓散〈jごkれあpkgらじぴおjがじがrhjがぁふぇpl@」あwふぇp@l」あうぇf@pl@pl」grっhねtぴっじhてj〉

:ビビー〈なんとかしろやくそなんとかなんねえのかくそkすおすjさjdさいおpjsdぎおsじお!〉

:カレンダー〈やだやだやだ! みんな死ぬなああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!〉

:Q10〈頼む! 奇跡おきてくれえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!〉

:冷凍焼きおにぎり〈神様頼むよこんな終わりはないよ!〉

:時計〈誰か助けて! たのむぅぅうーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!〉

:ペケポンポン〈由羽愛ちゃん、治癒魔法はいいからミシェルをかじってからにげろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〉

:ルクレくん〈それだ! ミシェルの肉喰って逃げろ! せめて由羽愛ちゃんだけでも! 頼む!〉

:小南江〈神様神様神様〉

:パックス〈ミシェル! ミシェル! ミシェル! ミシェル! がんばれがんばれがんばれ〉

:闇の執行者〈ツバキどうにかしろ!!!!! ツバキどうにかしてくれええ! いねえのかああああああああああああ?〉


 由羽愛の持っているタブレット上で悲痛なコメントが次から次へと読み上げられる。

 光希はまだぎりぎり意識を保っていた。

 しかし、頭を打ってしまっている、半分夢で半分現実のような気分だ。

 ここは……どこだ?

 ここはいったい……?

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