第47話 三連装砲
「
「は、はい!」
光希はカタシロ・ブレードを片手に、深く腰を落とした。
ギーブルのゾンビが火を吐きながらこちらへと一直線に飛んでくるのが見えた。
「ぬうううん!」
光希はギーブルゾンビにまっすぐ突っ込んでいく。
「グギャアアアアッ!」
ギーブルゾンビが咆哮をあげ、炎のブレスを吐くが、
「おるぁぁぁぁぁ!」
光希の剣から放出された力は炎を切り裂き、その先のギーブルまでもあっさりとまっぷたつにした。
さすが、本物ではないとはいえ、日本史上最大級の力を持つ霊刀の形代だった。
「あっはっはっは! やるねえ、いい剣だ! だがね、ここから君たちが私にどう勝とうっていうんですかねえ~?」
光希は答えない。黙ってカタシロブレードをヴェレンディに向ける。
間髪を入れず、ヴェレンディが
「惑星よ、生物を愛する惑星よ、この者こそが汝の愛すべきものである! この者を汝の中心へと引き付けよ!!!!
いつか冥界の悪魔を押しつぶした重力の魔法である。
地球上に存在するすべての物体は地球の引力の影響を受けている。
ありとあらゆる物体は地球によるおおよそ1Gの重力を受けており、それこそが重量の正体なのだ。
しかし、この魔法の直撃を受けた物体は、その重力が数千倍にも達するほどの圧力を受けるのであった。
どんな相手でもペシャンコになって死ぬはずだった。
だが。
「ぬうううううん!」
パンッ! パンッ! パンッ!
カタシロブレードは目に見えない何かを破裂音とともに切り裂いていく。
白と薄紅のオーラをまとうその刀は、さすが伝説の霊力を持っていた。
持ち主を襲うはずだった重力強化の魔法をその力で魔法粒子ごと破壊し、雲散霧消させたのだ。
力を失った魔法粒子がキラキラと光を反射しながら宙に舞い、やがて消滅した。
「ほほーう? やるじゃーん! ふふふ。でもさ、でもさ。自力が違うよ、このまま戦ったら絶対私が勝ちますよねえ~?」
「いや、俺達が勝つぞ」
「あははは! たかが人間がよく言うよ! ほら、君たちの切り札はもう、消えたよ? どうする? 自力じゃ私に勝てないでしょ~?」
「切り札? なんのことだ?」
「ツバキさ。あいつは死んで、霊体になっていた。そこがミソだ。自分の身体を持たない元魔女、そして、お前」
ヴェレンディは口角を吊り上げ、凶悪な、しかし楽し気な笑顔で言った。
「お前、最終破壊魔法で私を殺そうとしていただろう?」
「…………」
光希は答えない。
「ははは、当たり、でしょ? 最終破壊魔法は二人同時に詠唱し、対象の敵を破壊する。どんな強大な敵相手でも、かならず即死させられる。だが、その代償として、詠唱したもののうちの一人の心臓を破壊する……。大砲を撃てば反動が起きる。魔法も撃てば反動が起きるんですぅ、その反動は魔法的反応としてまっすぐに二人の術者どちらかの心臓を直撃するわけですねぇ。そんな魔法法則になっている」
「…………ずいぶん、詳しいじゃないか。そこまでは俺も知らなかったんだぜ、ツバキに聞くまではな」
「お前ら人間とは生きてきた年数が違いますよぉ? 最終破壊魔法の反動は反動にすぎないですよねぇ。命を捧げる代わりにそこからパワーを得るタイプの魔法じゃーない。つまり……」
「つまり、なんだよ?」
「今回は、そこのウサギの肉を食ってきたようですねぇ、つまり! その幸運により、最終破壊魔法を唱えても心臓を破壊する反動はお前ではなく、もう一人の方――ツバキに向かうって寸法だってでしょー? だけどだけど! ツバキはいまや幽霊だ、心臓がない――。反動を受けるはずの心臓がないとなると、周辺にある程度の被害はでるでしょーけど、まあ、霊体が消滅するってことはないでしょねぇ。なるほど、最終破壊魔法を使えるほどの実力者など、人類にそう何人もいない。そんなトリッキーな方法、今まで誰も試したことがなかったはずですぅ――。だが、その目論見ももう、崩れましたよねぇ?」
「…………」
正直、
最終破壊魔法でヴェレンディを殺そうとしていたこと、そしてその方法について、今ヴェレンディが言ったことは
――見抜かれていたか……。
「さて、私は強大な死霊術師ですよー? ツバキがいなくなってしまえばお前ら人間など、ちょちょいのちょいで殺せるわけですねー。それとも、そこの子供と一緒に最終破壊魔法を唱えてみるぅ? 死ぬのはそこの子供ですけどね、ふふふ、死にたいそうじゃないですかー、ちょうどいいですよねー?」
「俺たちは、
光希は
これではちょっと遠いな、と思い、じりじりと後ずさろうとしたその時――。
「小細工はさせませんよー? ここで死んでください。……せっかくだから戦闘のコツを教えてやりますよー? 結局、戦闘ってのはね、物理でぶっぱなすのが一番楽に相手を殺せるのさあ!」
ヴェレンディの背後の床から、なにかがズズッと生えてきた。
いや、生えてきたというのは良い表現ではないだろう、それは無機物だったからだ。
せり上がってきた、というのが正しい表現だろうか。
例えば、二次大戦時の戦艦の主砲を思い浮かべるとぴったりだろう。
直径50センチほどの巨大な砲が三つ並んだ三連装砲。
一本の長さは20メートルを超える。
その大きさは現実味を感じさせないほどで、広いはずのダンジョンの通路が小さく見えた。
通常なら射程は50キロメートルはあるはずの巨砲である。
もちろん、天井のあるダンジョン内でその射程は実現できないが、それだけの威力のある砲口が、まっすぐ
「ははっ、水平射撃と行きましょうか……まあ、砲弾をあてる必要もないけどね、これだけ近いと。ま発射したときの爆風と衝撃波だけでふっとばされて死ぬと思いますが――」
「
そしてカタシロブレードを構えた。
「さあ、いっきますよぉ? 撃てぇ!!!!!」
三連装砲が、同時に火を吹いた。
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