第46話 カタシロ・ブレード
みな同時に打ち合わせ通りの動きを始める。
まず、タブレットを斜めがけにしている
彼女は自分の口と副唇をつかい、二重魔法障壁の詠唱を始める。
ヴェレンディは強力な魔法をいくつも扱い、そして上級モンスターの死体を自由に使役して攻撃してくるのだ。
さらに、その
その
そして。
「
光希が叫ぶ。
彼がアタッカーとしてほとんどすべてのモンスターを相手にすることになる。
もちろん、ヴェレンディも含めてである。
さて、刀身ガチャで何が出る?
ミシェルの肉を食べたことで幸運値は上がっているはずだ、ハズレの刀身は引くまい。
だが、強力な刀身といえども……何種類かあるのでそのうちのどれを引くのかで戦い方、さらにはパーティ全体の立ち回り方まで変わってくるのだ、
出現した刀身は――。
白いモヤのようなオーラ、そこに一筋の薄紅のオーラも混じって刀身を覆っている。
モヤのようなオーラに包まれて、刀身そのものはほとんど見えない。
「よし、ベストだ」
光希は呟いた。
ヴェレンディを倒すための奥の手はあるが、その前にネームドのドラゴン――ギーブルのゾンビと、巨人のゾンビは倒しておきたかったのだ。
だが引いたこの剣はあまりにも強い。
はっきり言って光希の刀身ガチャの中でも一番強いと断言してもよいほどであった。
口の中にミシェルの肉の味がまだ残っている。
サンキュー、ミシェル。お前は本当に幸運のウサギだ。
これでヴェレンディまで殺せそうだ、と思った。
:光の戦士〈カタシロ・ブレードやんけ!〉
:エージ〈やったやったやった! すげええ!〉
:みかか〈さすが幸運を運ぶウサギを食っただけある〉
:見習い回復術師〈やべえ……こんなんこの世にあってはならないレベルの剣だぞ〉
:積乱雲〈うおおおおおおおおおおお!!!〉
:マカ〈北――――――――――!〉
:青葉賞〈勝ったーーーーーーーーーーー!〉
:小南江〈私、詳しくないから教えてほしいんすけどなんすかそれ?〉
:Q10〈カタシロは形代。とある神代の伝説の剣そっくりにつくりあげ、そこにもとの剣の霊性を移した――まあ偽物の模造刀みたいなもんだな〉
:小南江〈それじゃ弱いじゃないすか〉
:Q10〈普通ならな。だがその元となる剣がまじもんの伝説の剣だったらどうだ?〉
:小南江〈どういうことすか?〉
:五苓散〈よくみておけ、あれこそが三種の神器のひとつ、天之叢雲之剣、別名草薙剣からその力をある程度コピーした、形代の剣だ〉
「ガァァァァァッ!!」
胴の長い、翼の生えたドラゴンであるギーブルのゾンビが咆哮をあげた。
「ほい!」
それに合わせてヴェレンディが巨人の手から飛び降りる。
いや、飛び降りるというのは正確な表現ではない、ヴェレンディはそのまま宙に浮いていたからだ。
主人を手からおろした巨人は、半分腐り落ちた顔で光希を睨みつけながら、地響きをならしながら歩いてくる。
ギーブルと巨人の死体が光希たちに襲い掛かり、その後方ではヴェレンディがなにやら両手で印を結び、なんらかの魔法の詠唱を始めている。
光希は全体の光景を眺めてやるべき動きを瞬時のうちに判断する。
ヴェレンディの魔法がなにかはわからないが、
一撃でパーティが全滅するようなことはないだろう。
むしろ、物理攻撃をしてくるギーブルと巨人に対応したほうが良さそうだった。
まず取り巻きの雑魚から倒してヴェレンディとタイマンに持ち込みたい思惑もあった。
だからまず、光希は巨人に向かって切りかかっていく。
「グオオオオオオオオォォン!」
殴りかかってくる巨人、
「ウルァっ!」
光希は剣でその腕を薙ぐと、巨人の鍛え抜かれた前腕はあっさりと輪切りにされて床に落ちた。
さらに距離を詰め、跳躍する。
光希の目の前に巨人の顔がある、近くで見ると、半分どころかもはや全体が腐り落ちかけている髭面の顔だ、死してなお死霊術師に操られている哀れなモンスター。
「楽にしてやる!」
カタシロブレードを振り下ろす光希。
オーラをまとったその刀身はいともあっさりと巨人の顔をまっぷたつにした。
巨人は、
「あ、あ、あ、……」
とうめき声のようなものを上げたかと思うと、その場に膝から崩れ落ちた。
「魂よ、お前のいるべきところはここではない。冥界の風よ、地獄の貨車を呼べ。あわれな魂。我の寛大なる心が許す。愚かなる魂を貨車に載せ、ゆくべき所へ運べ。」
それと同時にヴェレンディが詠唱を終える。
それを見た光希はカタシロブレードを片手にダッシュする。
この剣ならばある程度の魔法攻撃もブロックできるだろう。
だが。
ヴェレンディの狙いは、
さらにいえば、彼女が発動させたのは、魔法ですらなかった。
そう。
ヴェレンディは、ヴェレンディの視点から見てもっとも脅威となる存在を最初に排除するために動いていたのである。
それは、魔法とは異なる力。
魔界と冥界の力を呼び出し、さまよえる魂を浄化させる、特殊能力。
★
ヴェレンディはその霊体をにらみつけた。
ツバキ。
まだ存在していたのか。
一度はギリギリの殺し合いを行った強敵。
死んで幽霊となったとはいえ、脅威にはかわりなかった。なにしろ元魔女である、どんな隠し玉があるかわからなかった。
だから、ヴェレンディはギーブルと巨人をおとりにしつつ、第一の攻撃に選んだのは、ツバキに対する解呪だったのである。
解呪の効果は魔法とは違うので、
完全に油断していたツバキは驚愕の表情で目を見開き、叫んだ。いや、叫ぼうとした。
「しまっ……!!」
バシュウッ!
大きな音と光がフラッシュのようにあたりを満たし――。
そしてツバキの霊体がいたはずのそこには、なにも存在しなくなっていた。
「あっはっはっは! 成仏お陀仏なんまんだ! やっと死ねたねえ、ツバキちゃん! 完全に消えた! 魂の残滓はまったく感じなくなった、ははは、完全に消滅させてやった! 死人の魂はとっとと地獄に行くのがこの世の理さ!」
「貴様、ツバキをっ!」
「お姉ちゃん!? お姉ちゃん!? どこ!?」
「はっはっはっは、頼りになるお姉ちゃんはもういないよ! さあて、あとはザコどもだ、ゆっくり料理したげるよ!」
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