第26話 近々離婚するから

:レモンモンモンモン〈完全勝利やんけー!!〉

:マカ〈強すぎんか? ラスボス級のモンスターだぞ?〉

:冷凍焼きおにぎり〈屠龍の重刃ドラゴンバスターブレイドは梨本光希の刀身ガチャの中でも最強クラスだからな〉

:どこにもたどりつけない〈やべーーー! 梨本光希すげーーーーー!!〉

:ポッポッポー〈強い強い強い強い!!!!! やばい、光希さんかっこいい!〉

:支釣込足〈うっそだろおい、ガチャに成功するとこのクラスのモンスターにこんなに簡単に勝てるんか〉

:修羅〈国内最強のSSSクラスパーティってのは伊達じゃないな〉

:ミーシア・イ・アクティアラ・ターセル〈ダークドラゴン相手にあんだけ苦戦してたのに……〉


 そう、ダークドラゴン相手には光希たちはフルメンバー揃っていたのに全滅寸前まで追い詰められたのだ。


 ミシェルが顔を歪めて言う。


「あのときはカズヒトとハヤヒデが呪いを受けてたからな。アリサも初手で負傷してしまった。刀身ガチャも・・とにかく運が悪いタイミングだった」


 そこに、戦闘を眺めていたツバキが口を挟んだ。


「そうさ。強さなんて、1000回戦っても1000回勝てるなんてほどの実力差はこの階層ではないんだ。ほんの少しの工夫、ほんの少しの判断速度、ほんの少しの運。それで勝ち負けががらっと変わる。今だって、この子が」


 ツバキは霊体の手で由羽愛ゆうあの頭をポンポンと軽く叩いた。


「あのタイミングで防護魔法を使ってなきゃどうなっていたかわからない。私のアドバイスも役にたつだろう? この子の剣の実力じゃ、あの突進をとてもじゃないけど止められなかったさ」


「悔しいがツバキの言う通りだな」


 光希も首肯する。


「あのまま由羽愛ゆうあが剣で戦っていたらどうなっていたか」


 そもそも光希たちがこのダンジョンに潜ったのは由羽愛ゆうあを救うためだった。


 その由羽愛ゆうあを戦闘に参加させて死なせるなど、絶対にあってはならないことだった。


「で、さっきの話に戻るが」


 ミシェルが言った。


「ツバキ、お前はいつどうやって死んだんだ? ヴェレンディとかいう死霊術師に殺されたと言っていたな」


 聞かれたツバキはなんでもないような顔でフン、と鼻を鳴らし、


「もう、三十五年も前になる。お前もモンスターならわかるだろう、ミシェルとやら? ダンジョンという太陽の光が届かぬこの場所は、モンスターにとってはとても居心地の良い場所さ」


「うむ、そのとおりだな」


 ミシェルは頷く。ツバキはさらに続ける。


「私もこのダンジョンを自分のものにして悠々自適な青春を送ろうと思ったんだ。ところが地下十五階であいつと遭遇して――魔法で殺された。すぐに輪魂の法を使って魂だけ抜け出し、自分の死体は処分した。死霊術師であるあいつに、私の死体をいいように使われるのは我慢ならなかったからな」


「自分で復讐しようとは思わなかったのか?」


「ふん、こんな霊体では本来の実力の十分の一も出せないさ。これじゃあ、あいつには勝てない。だから、『入れ物コンテナオブソウル』を探しつつ、三十五年間このダンジョンをさまよい続けた。私はそんな哀れな幽霊ってわけさ。『入れ物コンテナオブソウル』になりそうな奴をやっと見つけたと思ったんだが――」


 ツバキは由羽愛ゆうあの頭を再びポンポンと叩いて、


「見事に返り討ち、私の存在はさらに薄くなってしまった。それこそ、ヴェレンディのあやつるゾンビ共の中にいい身体があったら、そいつに憑依するのもいいかもしれんなあ」


:音速の閃光〈うげえ。ゾンビになるくらいなら幽霊のままのほうがいいような〉

:Q10〈ゾンビと幽霊なら幽霊のほうがまだまし〉


 ツバキはそんなコメントが流れていく光希のタブレットを覗き込むと笑って言った。


「ふ、その辺は価値観の違いさ。私は気にしない。身体を得られれば魔力も霊体よりは強くなるだろうし、そこから順番にステップアップさ。……しかし、この機械はおもしろいな。外界とつながっていて、この文字を打ち込んでいるのは本当の人間なんだろう? ……お前ら、こんなの見てる暇あったら外にでて恋人でも作ったらどうだ?」


:コンタクトケース〈………………〉

:小南江〈じゃあツバキさん、私の恋人になってくださいっす。私男女どっちもOKなんで〉

:U.N.応援〈俺はミシェルを嫁と思って見ているから〉

:由香〈私が光希さんの将来のお嫁さんです〉

:フレーシェ〈すっこんでてください。私でお願いします。光希さんってどんな味するのかな〉

:音速の閃光〈いや光希の運命の人はボクですよ。おけまる水産?〉

:特殊寝台付属品〈もう俺はウサギ耳とウサギしっぽがなければ興奮しない身体になってしまった〉

:パックス〈僕の妻は右手なんですが、近々離婚するからミシェルの耳と再婚したい〉

:monica〈ところでツバキさんってなにカップ? 大きすぎるのはなあ〉



「……こいつら、しょうもなさすぎるだろ……」


 ツバキが嫌そうな顔をして言う。

 

「うむ、それは俺も思う」


 光希もそこは否定できない。

 ツバキはぷいっと横を向いてぼそっとつぶやいた。


「ま、CよりのBだ」

「言うのかよ……しかも精一杯の見栄はってるっぽい言い方じゃないか……」

「ふふふ、私はHはあるぞ」

「ミシェルも黙ってろ」


 と、そこに由羽愛ゆうあが口を開いた。


「あのあのあの! それなんですけど。さっきちょっと言いかけましたけど、このコメント欄のみなさんは現実にいる人間の方たちなわけですよね?」

「ああ、そうだな、そう考えると実にしょうもないやつらだが……それがどうかしたか、由羽愛ゆうあ?」


 光希が聞くと、由羽愛ゆうあは言った。


「魔法契約を締結するのに十分な条件がそろっていると思うんです。契約を結ぶ両方と、それを見届ける見届人……」


 ツバキが眉を少し上げて、感心したように言った。


「なるほど! 確かに条件が揃っているな。私の復讐、そしてお前らの帰還。お互いに協力関係を確固たるものにするために、魔法契約を結ぶのはいい考えじゃないか」



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