第27話 スク水

      魔法契約書


1. 梨本光希、羽原はねはら由羽愛ゆうあ、ミシェルのパーティメンバーは、死霊術師ヴェレンディを殺害、または恒久的な封印、もしくは不可逆的な戦闘不能状態に置くことを誓う。


2. ササノ・ツバキは1を達成するために戦闘、情報提供、魔法支援など、必要とされる全ての協力をする。


3.1.を達成したあと、ササノ・ツバキは梨本光希のパーティメンバーが地上に生命の危機に瀕するような負傷や精神的な崩壊がない状態で地上に帰還することに協力する。


4.水無月凛音の魂とその依代となる『入れ物コンテナオブソウル』の捜索についてはササノ・ツバキはこれに協力する。なお、1より前にこれが成し遂げられた場合、水無月凛音も1に協力する。


5.梨本光希、羽原はねはら由羽愛ゆうあ、ミシェル、ササノ・ツバキは、1と3が達成されるまで、それぞれがお互いの心身の健康で自由な状態を維持するように最大限の努力をする。


6.契約者が本契約に違反した場合、その者は即座に以下の罰則を受けるものとする。

 ・固有スキルの十年間の剥奪(梨本光希の『鼓動の剣』、羽原はねはら由羽愛ゆうあの魔法スキル、ミシェルの人化スキル、ササノ・ツバキの霊体維持以外の魔法能力)。違反が発生した場合、該当する固有スキルは自動的に魔法的に封印され、十年間解除されることはない。


7.契約者がこの契約を意図的に曖昧に解釈する行為は禁止される。これに違反した場合も6の罰則を受ける。


8.1を達成し、梨本光希、羽原はねはら由羽愛ゆうあ、ミシェルが地上に帰還して少なくとも一週間の健康状態が確認された場合、この契約は終了となる。この契約の終了は、自動的に行われ、契約者間での合意が不要である。



:パックス〈さあこんなもんでどうです? 俺は本職弁護士だから契約書作成とミシェルのお尻の形にはくわしいんだ〉


 コメント欄の専門家に意見を聞きながら、俺達は契約書を作成した。

 リュックの奥につっこんであった魔法用途の大きい羊皮紙に油性ペンで以上のことを書きなぐる。


「えー。それ、スク水の名札に名前を書くときのペンだろ……もっとこう、羽根ペンとかいいの、なかったのかい?」


 ツバキが不満そうに言う。


「なんでスク水限定なんだよ。あと、35年前に死んだツバキは知らないだろうが、もうスク水は絶滅した」

「な……! な……! ……人類はなぜ自分以外の存在をいとも簡単に絶滅させることができるのだろう……残酷だよ」


 それを聞いてミシェルがその美しい銀髪をかき上げて言った。


「マニア向け専門店でまだ売ってるぞ。私が着てやろうか?」

「結構だよ、でかい胸のスク水は解釈違いだ」

「それがいいんじゃないか……。ところで5の条項だが……。私はマスターに使役テイムされているモンスターだ。私はマスターにすべてを捧げている。以前にも言ったが私は幸運を運ぶウサギの一族だ。私の血肉を食したものは短時間だが相当の幸運を手に入れることができる。マスターになら私は食われてもかまわない。それはこれに抵触しないか?」


「そもそもそれは日本の法律違反なんだがな……」


 光希は渋い顔をして言う。

 合法的に使役テイムされたモンスターはモンスター使役法によって保護される。

 いたずらにモンスターを虐待すると懲役五年以下の刑罰がある。


:パックス〈自己又は他人の生命、身体、自由、名誉、又は財産に対する現在の危難を避けるためやむを得ずした行為は、これを罰しない、と刑法にあります。命の危機が迫っていて緊急避難的に行うなら問題ないでしょう〉


「そんなことができるならダークドラゴンに襲われたときにやればよかったじゃないか」


 ツバキが言うと、


「……そんな暇はなかった。あのときはまさに急襲されたからな」


 ミシェルが悔しそうにそう言い、光希もぼそっと言った。


「だいたいその話題になると凛音が激怒していたからな。『そんなつもりでミシェルを仲間にしてるんじゃない』ってな」


 魔法契約書を床に置き、みなで輪になってそれを囲む。

 ドローンカメラでそのようすを配信して、視聴者にも見届人になってもらう。


 全員で静かに詠唱の言葉を口にする。


「天、地、太陽、月、星たちに誓う。我らこの書の契約を遂行することを誓う。我らが約定の信念を見よ。破りしものはこの書の通りの罰をうけるだろう――」


 魔法契約書が発光し、その光が光希たちをつつんだ。


 これで魔法契約は完了だ。


 パーティは一つの目的にむけて突き進むことになった。



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