第25話 いつ死んだんだ?
マンモスのようなするどい牙を光希に向け、ベヒモスが突っ込んでくる。
光希は巨大な剣の切っ先を振り上げ、その巨体にむけて一直線に振り下ろした。
牙でそれを受けようとするベヒモス、だが光希の
この剣は切れ味で勝負する武器ではない。
その重量とそれが生み出すパワーで敵を粉砕する、まさに〝バスターブレイド〟であった。
ベヒモスの鋭い牙を、3メートルにも及ぶ光希の刃はベヒモスの牙を一瞬にして砕いた。
斬ったのではない、砕いたのだ。
振り下ろした剣を、今度は上方に向けて振り抜く、それは再び突進してきたベヒモスの顎にめり込んだ。
光希の腕に骨を破壊した感触が伝わってくる。
「グゴァァァァ!!!!」
ベヒモスが叫ぶ。
空気が震えた。
その咆哮は怒りだろうか、痛みだろうか、それとも恐怖か。
ベヒモスの下顎はへしゃげている。
大量の血が流れ出る。
骨まで露出しており、血の赤さによって骨の白さがよりいっそう際立って見える。
「ガハァァァァァァァァ!」
もう一度吠える伝説上の獣。
その全身を赤い炎のようなオーラが包む。
並の探索者であれば見ただけですくんでしまう負の力をまとったオーラだ。
実際、
だが数々の試練を乗り越えてきたSSS級パーティのメンバーである光希とミシェルはまったく引かない。
「ふん、私を忘れてもらっては困るな!」
ミシェルがベヒモスの背後からレイピアを振るう。
右手のレイピアをベヒモスの臀部に突き刺す。
すぐにそれを引き抜くと、軽くジャンプしながら今度は左のレイピアで体重をかけるようにしてベヒモスの背中へレイピアを柄までめりこませた。
「ガフゥゥゥゥン!!!!!」
ベヒモスが振り向き、ミシェルを攻撃しようとしたとき、
「悪いな、3対1だったが卑怯とは言ってくれるなよ、俺がこんな強い剣を引いてしまったのを恨んでくれ」
そう言って光希がベヒモスの足に斬りつける。
象のように太いその足は、一撃でボキン! という音とともにあらぬ方向へと曲がった。
四本の足のうち一本を失ったベヒモスはそれでも倒れることがない。
しかし、その身体の真上にウサギが一羽跳躍していた。
ウサギのモンスターらしい驚異的なジャンプ力であった。
数メートル上から、まるで爆撃機の急降下爆撃のような角度で頭からベヒモスに突撃していくミシェル。
落下スピードを稼ぐためにレイピアは構えていない、だが彼女はその耳も武器なのだ。
ズバッ! と刃物が固いものを切り開く音。
刃と化したミシェルの長い耳が一気にベヒモスの身体を引き裂いたのだ。
ミシェルはストン、と重力を感じさせないほど軽々と着地する。
切り傷から吹き出る血、神話の時代から語り継がれるほどの強大なモンスターであるはずのベヒモスは、ヨタヨタとふらつきながら光希たちから離れようとしていた。
通常、逃げるモンスターを追いかけてまで殺すことは光希たちはしていなかった。
だが、ベヒモスレベルのモンスターとなると話は別だ。
高レベルのモンスターは総じて高い知能を持ち、自分を殺しかけた探索者のことを忘れはしない。
恐怖して避けてくれればよいが、逆に憎悪にまみれてどこまで追いかけてくることもある。
リスクを考えると、殺せるときに殺しておくべきだった。
「申し訳ないが、逃がすわけにはいかないんだ。死んでくれ」
よろめくベヒモスに、光希は巨大な剣で斬りかかる。
ミシェルほどではないが光希も尋常ではない身体能力の持ち主である。
一気にジャンプすると、象よりも大きいベヒモスの頭部にまっすぐ剣を振り下ろす。
ゴギィィィィン!!!
聞いただけで吐き気を催すほどの不快な音とともに、ベヒモスの頭部に剣がめりこんだ。
光希はいったん着地し、もう一度ジャンプして剣を振り上げ渾身の力をこめて振り下ろす。
ゴギャ! という音、今度はベヒモスの頭部が完全に潰される。
脳の機能を失ったベヒモスはそのまま2歩、3歩とびっこを引きがら歩いたあと、腹ばいになるようにして崩れ落ちた。
パチパチパチ、と拍手の音が聞こえた。
ツバキだった。
「やるじゃないか。梨本光希とか言ったか、お前ほどの剣士、数百年間生きてきたこの私でも数えるほどしかみたことないぞ。これなら、ヴェレンディも倒せるだろう。
満足げな笑顔で、ツバキはそう言った。
「数百年生きてきた? 今は生きてないんだろう? 死んでるじゃないか。そういえばお前、いつ死んだんだ?」
ミシェルがツバキに尋ねた。
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