第11話 滅殺鋼球
ツバキはその派手なワンピースを揺らめかせながら、宙に一メートルほど浮いた。
「わが魔力よ、敵を屠る槌となってすべてを破壊せよ」
ミシェルがレイピアを突き出して突っ込んでいく。
それをなんなくかわしてツバキが魔法を発動させた。
「
突如、空中に直径一メートルほどの巨大な球体が現れた。
ツヤのある金属製の球体だ。
そいつはほんの一秒間ほど宙に浮いていたかと思うと、次の瞬間、ドンッ! という衝撃音とともに光希に向かって一直線に吹っ飛んできた。
同時に、光希の剣の刀身が表れ出る。
それは、ライムグリーンに光るムチのように長くしなやかな刀身だった。
:コロッケ台風〈外れだ!〉
:闇の執行者〈ウィップソードか、これは弱い奴〉
:エージ〈あ、ここでそれ引くのか〉
:リャンペコちゃん〈たいしたことない敵ならこれでいいけど推定討伐難易度LV30以上の相手が敵となると……〉
:ペケポンポン〈たのむ
:カレンダー〈負けるなァァァっ〉
単純だがかなり強力な物理的な魔法攻撃であった。
なみのドラゴン程度ならこの球体で木っ端微塵にできるだろう。
この刀身ではこの物理的な魔法攻撃を防げないと思った光希は避けることを選択し、横っ飛びに飛んだ。
球体は光希の足元をかすめ、ダンジョンの通路の奥、はるか向こうまで飛んでいった。
だが。
「ふんっ」
ツバキが気合を入れると、球体はその場でピタリと止まり、再び光希に向かって飛んでくる。
「おるぁっ!」
光希はムチを振るい、その球体を打ち付けるが、まったくびくともせず、再び避けることを余儀なくされた。
「くそ、物理的な砲撃ってやつが一番効くな」
光希が言うと、ツバキは笑っていう。
「その通り。結局物理でぶっぱなすのが一番楽に相手を殺せるのさ」
「魔女の言葉とは思えねえな!」
光希はさらに気合を入れると、刀身となっているムチがさらにその全長を伸ばす。
いまや5メートルにも達しようかという長さだ。
「あはは、すごいすごい、それが君のスキルか、所詮魔力でできたムチだ、物理的な重量の衝撃力とどう戦うか見せてもらうよ!」
球体が
光希の【鼓動の剣】は一度発動させるとおおよそ五分はその刀身で戦わなくてはならない。
正確にいうと、カプレラ数である297秒にあたる、4分57秒間。
今回のようにあまり強くない刀身を引けばその時間耐えなければならないし、運良く強力な刀身を引けたらその時間内に敵を倒すのを目指すことになる。
ひとことで五分、といっても個別戦闘の時間としてはかなり長い。
例えば柔道の国際試合は一試合4分間であり、格闘技の試合も一ラウンド3分間が多い。
徒手格闘ですらそうなのだから、お互いに命を刈りあう真剣勝負であれば、たいてい数十秒から数分もあれば決着がつくものであった。
それなのに、元〝魔女〟という強敵を前にして、このムチの刀身では勝てそうになかった。
少なくとも5分間、なんとか敵の猛攻を食い止める必要がある。
仲間たちが揃っていた頃はどんな強敵相手でもそれが可能であったが、今は光希とミシェルの二人の前衛職しかいないのだ。
そのミシェルは2本のレイピアと自らの刃と化したウサギ耳でツバキに襲いかかっているが、ツバキは余裕の表情でそれをかわしている。
「ははは、濡れ濡れウサギちゃん、これはどうかな? すべて醜き肉を、すべて美しき彫刻に。『
バシュッ! とツバキの指先から何かが発射される。
「くっ!」
ミシェルはそれを避けるが、完全にはよけきれず、その長いウサギ耳に攻撃が命中した。
その瞬間、キシキシキシッ! という不快な音とともに、ミシェルの耳は霜に覆われて凍結した。その上、耳はそのまま石化している。
「……なんだこれは?」
「あはは、どうだい、私オリジナルの魔法だ。凍結させ、石化させる2つの魔法を複雑な計算式を使って一つの魔法として作り直した。これを食らうと、凍って脆い、冷たい石になるってわけさ」
そして持っている禍々しい杖を振り回す。
ミシェルはよけようとするがツバキの体術は相当のもので、杖の先がミシェルの耳にあたる。
凍って石化したミシェルの左のウサギ耳はあっさりと細かく砕け散って宙に舞った。
「こーんなにも脆くさせることができる。そして、この魔法のいいところは、凍結解除の魔法と石化解除の魔法は別々にしか存在しないから、状態異常解除の方法がないところさ。2つの術式が複雑に絡み合ってるから、解除の魔法を2つ同時にかければいいってことにはなってないしね」
「くっ、よく喋るな」
「本気出していないしね。ちなみに気をつけなよ、この魔法は凍結や石化の単体魔法とは違う。食らって固まっても意識はそのまま残る……破壊されるまでね。永遠に意識だけを保った氷像になれるけど、なりたいかい?」
「ふ、悪趣味だな」
と、そこに。
巨大な球体がツバキに向かって飛んできた。
光希が自分に飛んでくる球体をムチで巻き付け、コントロールしてハンマー投げの要領でそのままツバキに向かって投擲したのだ。
「おっと、
ツバキの魔法によって石化した球体は、そのままの勢いでツバキを襲うが、ツバキが杖で軽く振り払うように球体を叩くと、金属製であったはずの球体はあっさり細かい粒子となって砕け散った。
「さて、まだやるかい? 私はあの子が私のものになればそれでいいんだから、君たちを殺したいという動機は特にない。引き下がってくれればそれでいいよ」
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