第4話 ほんの十歳
ダンジョン。
いまだ未解明な部分が多いこの不思議な存在は、数十年前に突如として世界中に現れた。
現在確認されているだけでも地球上には五百余りのダンジョンが存在し、日本にはそのうち二十ほどがある。
未知のモンスターがうごめくダンジョン内では近代火器はなぜか無効化される。
そのかわり、人類にとってまったく不可知である『スキル』というものがダンジョン内限定で人間に付加される。
さきほど光希が使った刀身を作り出すスキルもそのひとつだった。
「ふ、私たちモンスターはダンジョンが生成される以前からこの地球上にいたんだ。でも、地上では存在が不安定だった……特に太陽光の下ではな」
ワーラビットであるミシェルがコッヘル――キャンプや登山でよく使われる、金属製の調理器具兼食器だ――で湯を沸かしている。
水はダンジョンの壁から漏れ出している得体のしれない地下水だ。
これをろ過機でろ過し、よく煮沸するのだ。
一度の探索で何か月もかかるダンジョン探索では、燃料も食料も貴重なものだった。
しかし、皮肉なことに、パーティメンバーのほとんどを失ってしまった光希とミシェルには、十分な量のそれらが残されていた。
「そういえば、今まで話してくれなかったな。ミシェル、お前はダンジョン以前からこの地球に存在していたのか?」
「まさか。われわれワーラビットはそんなに長命じゃないよ。十数年前に母親から生まれた。そしてマスターと出会ったあのダンジョンで育ったんだ」
「あのダンジョンか。俺はともかく、
ダンジョンの順応。
原因はわかっていないが、並みの人間ではダンジョンに潜ると高山病に似た症状を発症し、ときには死に至ることもある。
一般に、ダンジョン病と呼ばれている。
そのダンジョン病を克服するために、探索者を目指す人間はダンジョンに何度も潜るのを繰り返して身体を慣れさせるのだ。
それでも、才能のない者はどれだけの順応訓練を繰り返したとしても、ダンジョン病から逃れることはできない。
才能のある者だけが厳しい訓練の果てに探索できる、それがダンジョンなのだ。
「マスター、紅茶が湧いたぞ。ミルクと砂糖をたっぷりいれている。まずは一息ついてくれ。とにかく、マスターには休息が必要だと思う」
「だけど、急がないとあの女の子が……」
「共倒れになったら本末転倒だ。ほら、ラーメンも煮えた。食べるんだ、マスター。食べてくれ。頼む」
光希は差し出されたコッヘルを受け取り、熱い即席ラーメンをすする。
最近は倒したモンスターの肉ばかりを食べていたので、久しぶりの文明の味に、身体が喜んでいるのを感じる。
光希が食べる姿を、かすかな笑みで眺めるミシェル。
「ふふ……マスターが物を食べているところ、いつみてもかわいいな……」
「よせ、俺をペットとかみたいに言うな」
「ふふふ、私がマスターのペットなんだぞ? 私を抱きたくなったらいつでも言ってくれ、私はマスターの遺伝子を欲している……」
そこまで言ってから、ミシェルはもう一度くすりと笑う。
だが直後、ミシェルの目に涙があふれ、頬を伝っていく。
「リンネ……。もうマスターをとりあってケンカもできないのか……寂しいよ……」
:コロッケ台風〈たしかに
:ハンマーカール〈いやあんなのじゃれあいだろ、ほほえましいもんだった〉
:青葉賞〈なんならこの配信で光希のファンって日本中にいたからな〉
:リャンペコちゃん〈日本中の女が光希をとりあってレスバしてたぞ〉
:Q10〈地下十階に到達したころから光希の人気やばかったもんな〉
:♰momotaro♰〈一流の探索者だからそりゃモテる〉
:由香〈私から見てもいい男だと思う〉
:みかか〈遺伝子を欲している……? ちょっとエロすぎんか?〉
:ビビー〈まあ二人とも大人なんだしやりたければやってもいいけどちゃんとカメラは切っておけよw〉
:音速の閃光〈それはきっと
:ルクレくん〈人のうわさかよ草 それをいうなら四十九日とかだろw〉
コメント欄のアホなやりとりが光希の心を少し軽くしてくれている。
「私たちは二人になってしまったが……。マスターは世界一の探索者だと私は確信している。ここから、あの聖剣士を見事救い出して地上に戻れるだろう……」
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます