第3章13話 大地と調和の指輪

 目が覚めると俺は広いベッドの上にいた。宿屋でなさそうだ。隣にはルーナとセレナが寝ていて、壁にはテラが持たれながら座って寝ている。


「おはようアクイラ君」


 起き上がって声がした方向を見ると、ネレイドさんがそこにいた。彼女は広い豪華な部屋の扉の近くに立っていた。


「おはようございます。…………勝ったんですね」

「ああ、君があの半人魔将フェリシアスを倒したんだよ」


 ネレイドさんが教えてくれた。どうやら俺は気を失っていて、その後俺が倒したらしい。


「……いや、俺だけじゃないですよ。イオンもいましたし……ネレイドさんとテラがいなければ勝てませんでしたから」


 俺は三人の魔将を偶然討伐しているだけの中級傭兵ランクエメラルドに過ぎない。俺一人では勝てるはずもない。


「そういえば俺はどれくらい寝てました?」


 俺がそう聞くと、ネレイドさんは顎に手を当てて考える素振りをした。


「二日だな」


 そんなに経っていたのか? それともそれぐらい長い間気絶していたのか。


「腹減ったな」

「アクイラ君、君はもう二日も寝ていたんだ。何か食べてきた方がいい」


 ネレイドさんがそう促すが、俺はそれに対して答える。


「ここに食事を運んでもらえますか? ルーナが目覚めた時に、俺がいた方がいいので」


 そういって俺は隣で眠るルーナの頭を撫でてやる。ネレイドさんは食事の手配とベラトリックス様に俺が目覚めたことを伝えてくると言って部屋から出る。

 そうか、ここは地の聖女の館か。


 ドアがノックされて運ばれてきたのは、食事と地の聖女だった。運んできたのでなく、文字通り運ばれてきたのである。ここの給仕の娘たち止めてよね。


「何してんですかアンタ」

「食べて…………頂けるとお聞きしまして」


 地の聖女は頬を染めて恥ずかしそうに声に出す。俺はその言葉を無視して食事を始めるのだった。しばらくしないうちにテラが目を覚ます。


「目覚めたのか…………アクイラ」


 テラが心配そうな表情でこちらを見る。俺は少し気恥ずかしくなった。


「ああ、心配かけたな。俺は大丈夫だ」


 テラは安心したのか胸をなでおろす。


 「アクイラ……僕ね、アクイラが死んじゃったらどうしようかと思ったの」


 テラがそうつぶやく。確かに俺もそう思ったし、実際に死んだと思っていた。しかし、こうして生きているのだ。


「いつもより口数が多いな…………」


「うるさい…………でもさ……アクイラが生きててよかったよ」


 テラはそう言って笑った。その笑顔に少しドキッとするが、すぐに頭を切り替えた。そして俺は食事を終える頃にルーナとセレナも目覚める。


「アクイラさん!」「アクイラ!」


 二人は当然のようにとびつく。起きたばかりの身体を揺らされるが、柔らかいおっぱいたちに免じて許してやることにした。


「目覚めないかと思った!」「アクイラ死んじゃったのかと思ったよ!

「ああ、悪かったな。でもこうやって生きて帰ってきただろ?」


 そういって二人を安心させるように笑顔を向ける。すると二人は少し照れながら返事をする。


「ん、生きてる」

「ほんと、無事でよかった……」


 そんな俺たちの姿を見て、ネレイドさんとベラトリックス様は微笑んでいる。そして食事を終えた俺たちは地の聖女に礼を言う。


「悪いな部屋を借りちまって」

「いえ、このお返しはプロポーズで返していただければ」

「…………? そういえばイオンはどこに行ったんだ?」


 俺は地の聖女の言葉を無視してテラに質問するとテラは答えてくれた。


「イオンはしばらく声を出さない生活をするために休暇」

「そ、そうか。そういう休暇もあるんだな」


 イオンは休暇か。まあ、あの人なら姿を消す魔法だけで俺より強いと思うんだけどな。そしたらテラは…………いやそもそもずっと疑問だったことが…………


 その日、俺たちは地の聖女の館に泊まることになり、日中はルーナが一切離れてくれなかった。夜、食事を終えて浴場に向かおうとすると、脱衣所ではベラトリックス様がタオル一枚で待機していた。…………ちなみにルーナはまだ腰装備なので離れていない。


「聖女様、御戯れはここまでにしてください」

「なぜです? 嬉しくないのですか?」


 まあ、正直一緒に入りたい。もっと言えばセレナやテラ、シルヴィアさんやネレイドさんとも入りたい。メイドちゃんたちともだ。

 だが聖女様と風呂に入って百害あって…………まあ利はあるな。

 そんなくだらないことを考えていると脱衣所には別の人たちも入ってきた。


「あれ? アクイラまだ入ってなかったの? って聖女様早過ぎでしょ」


 そこにはセレナとテラ、それからシルヴィアさんとネレイドさんまでいた。セレナとテラは俺の前で普通に脱ぎ始め、ルーナも俺の服を脱がし始める。まあ、みんないるなら間違いは起こらないか。…………いや現状が間違いなことは置いといて。シルヴィアさんとネレイドさんはさすがに俺の前で脱ぐのは恥ずかしいと言われ、仕方なく俺もルーナを脱がしてやり、先に大浴場に向かう。


 …………もう突っ込むのはやめよう。正直、得しているのは俺なんだし。


 入浴後、俺はシルヴィアさんから衝撃の事実を告げられる。


「それではアクイラ様、貴方様は聖女様の素肌を我々承認の上で目撃されましたね?」

「え? なんですか? その恐ろしい言い回し」


「つまり、聖王しか許されない聖女様の素肌を見た貴方はもう戻れないということです」


 え? それどういうこと? と俺はシルヴィアさんに問い詰めようとしたのだが彼女は踵を返して立ち去ってしまった。代わりにネレイドさんが答える。


「アクイラ様、ご安心下さい。聖王国では貴方様を次期聖王候補として迎え入れます。そして聖女様の素肌を拝見した貴方様がすべきことは全ての聖女に認められ、聖王になることです」

「もし聖王になれなかったらどうなるんだ?」

「聖女様の素肌を見た貴方は…………処刑ですね」


 処刑かぁ…………そういう事先に教えて欲しかったなぁ。聖王になったらなったで自由がなさそうな上にもうそのレール歩かされてるんだもんな。


 俺は引っ付いているルーナの頭を撫でながら考える。仕方ない、処刑は嫌だし…………ゆっくり目指しますか。


 聞くところによると現在聖王は空席で、聖王国はそもそも聖王の存在を公にしない為、それらは周辺諸国に認知されていなかったらしい。現状、聖王国のトップは火の聖女、風の聖女、地の聖女の三名で、水の聖女は空席らしい。

 そのため、暫定として火の聖女、風の聖女、地の聖女の三名から認められれば聖王にはなれないが、処刑もされないとか。


 水の聖女さえ現れなければ、とりあえず死なないし、聖王にもならない感じか。まあだったら仕方ない。まずはルナリスに常駐している火の聖女からだな。


 そして俺は、ベラからの祝福の証である大地と調和の指輪アヌルス・コンコルディエ・テッラエを受け取った。緑色の宝石は大自然を思わせる力強さを感じさせる。

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