第3章14話 幸か不幸か
テミスの街での依頼を終えて、ルナリスの街に帰ることになった俺たち三人は、馬車の待合広場にいた。
地の聖女、ベラトリックスに認められた俺は、祝福の証を指にはめることになった。彼女の恩恵なのか何か力を感じるがまあ、ありがたく貰っておこう。あと、これ失くしたら処刑されそうだし。俺が一人で今後のことについて考えていると、ルーナがすり寄ってくる。小動物に甘えられていると考えれば可愛いものだが、大きさは成人女性だ。
「どうした?」
俺が尋ねるとルーナは答えずただ抱きついてきた。そのまま俺から離れようとしないので仕方なく頭を撫でていると、そこに遅れて一人やってきた。
「アクイラ!」
「テラ…………」
そこにいたのはテラだった。どうやら大荷物の様子を見ると、彼女もテミスの街から出ていくらしい。
「テラ、お前もこの街から出るのか?」
「うん…………僕も…………ルナリスに行く。パーティに入っても…………良いかな?」
俺は少し考えてから、テラの申し出を受け入れることにした。彼女は以前俺とパーティを組んでいたし、信頼できる。
戦力としても昔以上に強くなっていた。ちょうど俺たちのパーティは前衛の俺に後衛のセレナ、回復職で近中距離のルーナの三人だったし、もう一人前衛が欲しかった所だ。テラがいれば申し分ない。
ちょうど馬車がやってきた。俺たち四人は馬車に乗り、ルナリスの街へと帰るのだった。道中は特に何も起こらず、俺たちは無事にルナリスの街に到着した。
「そういえばテラはどこに住むんだ?」
「……………………決めてなかった」
行き当たりばったりだな。でもまあいいか。ちょうど俺の家にはルーナ用に用意したのに、俺の部屋をルーナが使うせいで空き部屋が一つある。
「俺たちは数人で一緒に住んでてな。空き部屋もあるから、お前さえよければ来いよ」
「うん……ありがと」
俺たちは四人で家へと帰る。そして俺はルーナとテラを家に案内するのだった。家に着くと、リーシャとエリスが出迎えてくれた。リーシャはエメラルドグリーンのブラウスに深緑色のスカートを履いていた。エリスはライトブルーのブラウスに白いフレアスカートだ。二人とも私服のようで可愛らしい。エリスは俺の顔を見るなり抱きついてくる。
「おかえりなさいアクイラさん! もう帰ってこないのかと思いました!」
「大袈裟だな」
俺が苦笑しながら言うと、エリスは頬を膨らませた。
「だってアクイラさん全然連絡してくれないんですもん! 心配しましたよ!」
「悪かったって」
俺は謝りながらエリスの頭を撫でた。すると彼女は嬉しそうに笑う。そんな俺たちの様子をルーナが羨ましそうに見ていることに気が付いた。
「ルーナ、どうした?」
俺が聞くと彼女は恥ずかしそうにしながら言う。
「私も……撫でて欲しい」
俺は苦笑しながらもルーナの頭も撫でることにした。すると彼女はとても嬉しそうな表情を浮かべた。そんな俺たちのやり取りを懐かしいと思ったのかリーシャとエリスは微笑みながら見ていたのだった。それから俺たちはリビングに行くと、ソファーに座りリーシャたちにテラを紹介した。
「リーシャ、エリス。こいつはテラ。俺の昔の仲間で今日から一緒に住むことになった」
「地剣のテラ…………よろしくお願いいたします」
テラが手を差し伸べると最初にリーシャが手を差し出した。
「私は突撃のリーシャだ。アクイラとは友人でね。パーティは組んでいないがルナリスの街にいる間はこちらの部屋を借りている予定だ」
「私は華の射手エリスです! リーシャと一緒にパーティを組んでいます」
お互い握手を交わし合う三人。テラは二人の顔を覚えると再度小声で「よろしく」といった。そしてテラは俺の方に向いて質問した。
「それで…………誰がアクイラの奥さん?」
「ああ、リーシャだ」
「いや…………君の奥さんにはなってないが?」
リーシャが困惑した様子で言う。
「じゃあエリス?」
「違いますよ! 私はアクイラさんの友人です!」
エリスも慌てて否定する。テラは首を傾げながら俺を見た。
「じゃあ誰?」
「私」「アタシ!」
ルーナとセレナが手を挙げる。嫁二人か…………ここまで来たらリーシャさんとエリスさんもどうですか? なんて言えないよなぁ。俺は思わず苦笑いしてしまったのだった。するとテラは呆れたようにため息を吐く。
「アクイラ……お前とんでもない女誑しだな」
そうだね、俺も本当にそう思うよ。だから俺はテラに言った。
「お前はどうする?」
「僕は…………」
テラはその先を口にしなかった。その夜はみんなで食事をして風呂などに入っていく。俺は夜も修練場にいた。仲間が増えるということは、何かあった時に失うものも増えるということだ。強くなることを止めてはいけない。
セレナとの合体魔法とテラとの合体魔法のおかげで俺は二つの新しい力を手に入れた。しかし、俺の力ではない。もっと強くなれるはずだ。
俺が修練をしていると、誰かが近づいてくる。
「アクイラ」
俺を呼んだのは、テラだった。俺はテラの方に近寄ると、テラはどこか申し訳なさそうに俺に近づいてくる。
「どうした?」
「一年前のことを話したい」
「お前がしゃべりたがるとはな。聞くよ」
俺はテラに修練場にあるベンチに座るように言うと、二人で並んで座った。すると彼女はゆっくりと語り始める。一年前、俺とテラがパーティを解散した時の話だろう。
「アクイラは気付いてたよね。僕がアクイラの事がずっと好き」
彼女は俺の目を見つめながら言う。彼女の瞳は潤んでいた。俺はそんな彼女の頬に手を伸ばすと、彼女はその手に自分の手を重ねた。その手は温かかった。
「まあ嫌われていないとは思ったさ」
あの頃から、テラの行動はよくわからなかったが、好かれている。それはなぜか確信できた。
「僕は……アクイラが好き。あの時も今も…………でも、アクイラが好きなのは僕じゃなかった」
「…………そうだな」
テラの言っていることはわかる。俺は特定の誰かを愛して関係を持ったことはない。別に誰も愛せない訳じゃないんだ。
「誰から聞いた?」
「…………リズさん」
あの人は…………まあいいか。俺は一呼吸置いてから話を続ける。
「それで? 俺が誰も愛していないのに女誑しでうんざりしたって?」
「それも…………あるかな。でも、僕じゃ代わりになれなかったから…………それがちょっと辛かったかな」
テラは寂しそうにそう伝える。だが少なくとも、一年前俺にもっとも近かった女性は間違いなくお前だったんだけどな。
「今回ついてきた理由は?」
「…………今の君は…………誰かを愛そうとしてる。昔と変わらないところもあるけど…………変わろうとしてる。だから一緒にいたい。僕を…………愛して欲しいと思った」
テラは切なげに言う。彼女はそう言うと、俺の手をより強く握った。俺は彼女の瞳を見つめ返すと、微笑んで言った。
「俺はさ…………人並みに女性を愛してるつもりだぜ? 失うことが怖いんだ。失わないようにする方法が分からねぇんだ。弱かったから失った。学がないから失った。富がないから失った。でも、運があったから…………出会えたんだろうな。お前さ、俺と出会えたのは幸運か不運か答えは出てるか?」
「そうだね…………不運かな?」
そういって俺と彼女は唇を重ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます