第3章12話 翠

 大量に現れた偽フェリシアスはここに魔法を詠唱する前衛は炎の鎧を展開し、後衛は炎弾を連射してくる。魔力量も魔将並みだな。


「流れよ、清らかな水の塊よ。相手に落ち注ぎ、その力を示さん。水塊落下スプリペルカット

「水よ、我が呼び声に応えて波を起こせ。波紋生成ウェーヴ・クリエーティオ


 ルーナとネレイドさんが同時に大量の水を召喚できる魔法を詠唱し、炎弾を消火していく。


「大地よ、我が手に金属を集め、剣を創り出さん。金属創刀メタルクリエイティオ


 そして治療の終わったテラも詠唱し、剣を展開するとフェリシアスに斬りかかる。だがテラの攻撃は偽物のフェリシアスによってガードされた。そこに俺が飛び込み、鎧をまとった回し蹴りを放つがそれも偽物だ。


炎刃煌エンブレイズ・グローリー


 偽フェリシアスか本物のフェリシアスかわからないそれが炎に剣を灯し、俺に斬りかかる。慌ててその部位に鎧を展開するが、衝撃までは防げなかった。


 テラも俺に当たらないように剣を振るのだが、結局俺の手前のフェリシアスも偽物だった。


「くそ! また偽物か!!」


 俺は怒りに任せ、偽フェリシアスの残骸を殴り飛ばす。だがそれは偽フェリシアスの偽物。すぐに修復され、俺の前に大量の偽物が現れた。


「喰らえ! 炎よ、我が銃から放たれん炎弾、敵を焼き尽くせ。火炎弾発射イグニス・プロジェクト


 そして発射された炎の弾丸が俺を狙い続ける。


「くそ……面倒だな!」


 炎弾はルーナやネレイドさんが上手く防いでくれているが、それでも無限に復活する偽物の壁を超えるのは厳しい。それに、元となるフェリシアス自身も強いのか。そういえばフェリシアスが鏡の魔族を殺して肉を食ったんだっけか…………つまり鏡の能力は攻略してるってことか。


「鏡よ、我が剣を宙に広げ、敵を切り裂け。鏡剣展開ミラーブレード・エクスパンド


 フェリシアスの周囲に鏡製の剣が無数に展開され、それらが襲い掛かる。あの剣では水では防げない。仕方ない、取って置きだったが呼ぼう。


「今だ! 撃て!!!」


 俺が叫ぶと、宙の剣は全て撃ち抜かれた。そこには誰もいない。しかし、この戦法は一人しかいないだろう。


「まさか…………イオン?」


 テラがいち早くイオンの存在に気付く。俺は昨日ギルドでイオンに飯代を渡す際、多めに渡していた。その際、あえてイオンの手に置いた余分な小銀貨を叩いた。

 イオンはそこで頷き、その後、は公衆浴場まで来たところで再度合流。今日の計画を事前に伝えていたのだ。


 イオンは未だに声も姿も見せない。しかし、見えない相手がいるという情報はフェリシアスにとって不利だ。動きも鈍るはず。しかし、フェリシアスは今まで変わらずの特攻だ。数もまだ増えていく。


「アクイラァ もぉ、限界!」


 そういったセレナは魔力切れの様だ。俺へ向けられた送風が終わり始める。それが終わると、俺の炎は蒼から赤に戻ってしまった。


 蒼炎焔の鎧エンフレクス・アルマ・カエルレアだったからこそ、優勢になって戦えていた戦場は、一気に劣勢になっていた。前衛にいた俺も魔力消費を抑えるため、鎧を部分展開していたせいで二方向からの攻撃を防げなかったとき、テラが俺の盾になった。


「テラ!!!!」

「…………アクイラ…………無事?」


 テラは呼吸がままならない様子だ。ルーナが駆け寄り治療に専念すると、ついに炎弾を防げるのはネレイドさんだけになってしまう。


「ああ、大丈夫だ。それよりお前は……」

「平気…………僕…………頑丈。知ってるでしょ?」

「ああ、知ってるよ」


 広範囲の攻撃が必要だ。しかし、範囲攻撃ができるルーナとネレイドさんの魔法は蒸発させられてしまう。もっと爆発力が欲しい。


「…………せめて…………僕の魔法…………アクイラに…………大地の力よ、我が身を強固なものとならしめよ。土身硬化テラコープスハーデン


 テラの土身硬化テラコープスハーデンは本来テラ自身に纏う力だが、その対象を俺にすることでテラの身体を効果させていた金属の粒子たちが俺に集まっていく。

 粒子が集まり始めたところで、俺の炎の鎧に異変が生じた。


「これは…………翠?」


 なんと炎焔の鎧エンフレクス・アルマは赤から翠に変わったのだ。そして通常時と異なり、弾けている。


「…………テラ! そのまま俺にその魔法をかけ続けてくれ! 弾けろ翠炎焔の鎧エンフレクス・アルマ・ウィリディス!!!」


 噴射した拳の炎は直線ではなく爆散していく。偽フェリシアス達は爆破に巻き込まれどんどん破片になっていく。


「さあ第二ラウンドだ半人魔将フェリシアス!!!!」

「いいねぇ!! お前は鏡剣魔将以来の強敵だ! 認めてやるよ!!!」


 周囲に鏡の剣と炎弾。偽のフェリシアスが炎の剣を持って襲い掛かる。鏡の剣はイオンが、炎弾はネレイドさんに対処を続けてもらい、俺は周囲の偽イオンを次々と爆破していく。


 偽フェリシアスが左右から斬りかかるが、俺は脚の裏を爆破させ垂直にジャンプし、偽物同士が斬り合う。その鏡の破片を爆破で飛ばし、周囲の偽フェリシアスに突き刺してやった。


 今度の偽物は三体がかり。二体が炎弾を左斜め前と右斜め前から発射し、もう一体は剣を振りかぶる。両手に翠の炎を展開し、クロスして剣を受け止め、前方に押し出し、そのまま正面の偽フェリシアスを破壊すると爆破を利用して回し蹴りをして左右にいた炎弾を発射させた偽フェリシアスを蹴る。その瞬間に空中に展開された鏡の剣が俺の頭上から降り注ぐ。


 降ってきた鏡の剣をどうしようか躊躇う。どう対処する?


「声よ、我が意思に応えて弾丸となり、響き渡れ。声弾化ウォイス・バレット!」


 ほとんど聞きなれていないその声を聴いたのは、姿を消す詠唱以来だ。そこには姿を現したイオンから魔法が展開され、鏡の剣や偽フェリシアスを一掃していく。


 イオンが姿を現した時だ。セレナは何かに気付き魔法を再度実行する。


「風よ、我が周囲の脈動を感知せよ。風脈感知フェンプルセンシオ…………いた…………あそこだ」


 セレナは風を使い、一点に木枯らしを起こす。そこには誰もいないが、姿を消す能力は鏡にも合ったみたいだ。



「弾けろ!! 翠炎焔の鎧エンフレクス・アルマ・ウィリディス!!!」


 俺はその場まで炎を噴射して接近し、爆裂する飛び蹴りを指定地点に決めると、鏡が割れ、本物のフェリシアスが現れた、そのまま爆裂する蹴りで貫いてやった。


「…………ん…………あぁ…………終わったのか…………あ、ああ。今度こそ…………死ぬんだな」

「もう変なもん食うんじゃねーぞ」

「…………そ…………だな…………魔族の意思があっても…………人間…………やめらんかったわ…………」


 そのままフェリシアスは絶命した。俺はずっと魔法を展開していたため、意識がここで途絶える。

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