第3章3話 テミスの街

 それから進展があったのは数日後だった。その日は俺、ルーナ、セレナの三人でギルドに訪れていた時だ。

 最近見かける事の少なかった彼女が、ようやくギルドに現れたのだ。

 俺の視線は一際目立つ美しさを持ち、赤い髪が燃えるような輝きを放つ女性が、ギルドの一角で窓の外を見ていた。彼女の黄色い瞳は、まるで炎の中にあるような輝きを放ち、俺の心を引き寄せた。

 彼女は赤のブラウスを着用し、その姿はまるで炎の舞い踊るようだった。黒のスリムフィットパンツが彼女の華奢な体を引き立て、赤いハイヒールブーツは彼女の歩みをさらに優雅に見せた。彼女こそ火の聖女ヴァルキリーだ。


「聖女様」


 俺が声をかけると、彼女は振り返る。


「アクイラ殿。お久しぶりでございます」


 聖女と呼ばれるだけあり、彼女は礼儀正しくお辞儀をした。


「今日はどのようなご用件で?」


 俺が尋ねると、彼女は少し間を置いてから答えた。


「アクイラ殿とそのご一行ですか。ギルドの奥の部屋をお借りしましょう。内密なお話になりますが、貴方がたはもう部外者ではございませんですからね」


 そういうと火の聖女は受付嬢のリズさんのとこに向かい、早速部屋を借りていた。そして俺たちについてくるように促す。

奥の部屋に入り、ソファに座る彼女の対面に俺たち三人は座る。セレナは結構近い位置だが、ルーナは相変わらず密着していた。


「さて、まずは改めて自己紹介をいたしましょう。私は火の聖女ヴァルキリーです。以後お見知り置きを」


 そう言って頭を下げる彼女につられて俺たちも頭を下げる。


「アクイラ殿、中央教会のあるテミスまで向かっていただけますか?」

「なぜです?」


 そういうと聖女様はこちらをじっと見つめていた。彼女は左右のルーナとセレナの距離感を気にしている様子だ。


「いえ、ベラトリックスとゼフィラが認めた男です。きっと不純なのは言動だけでしょう。なんでもありません。とにかく貴方は教会から呼び出しを受けています。向かわなければ焼きます。聖火で焼きます」


 なんか物騒な単語が聞こえたが気のせいだろう。とりあえず行くしかないようだし、テミスまで行ってみようかな。俺は火の聖女ヴァルキリーに礼を言うとその場を後にしたのだった。


 彼女からは旅費として大銀貨を一枚ずつ、計三枚ももらってしまった。


「大銀貨なんて人生で初めて触ったぞ」


 俺は受け取った大銀貨が本物か確かめていると聖女様は首をかしげる。


「そんなに珍しいならもっと渡しますよ?」

「あ、いえ結構です。あとでなんて言われるかわかりませんので」


 俺は丁重にお断りした。聖女様は不思議そうな顔をしていたが、すぐに笑顔に戻ると言った。


「ではまたお会いしましょう」


 こうして俺たちはテミスに向かうことになったのである。


 リーシャとエリスにテミスへ出発することを話すと、二人は今回はルナリスに残るそうだ。しばらく会えそうにないということでリーシャとエリスの頭を撫でる。 リーシャは珍しく頭を撫でられるし、エリスはちょっと嬉しそうだ。俺はルーナとセレナに声をかけ、テミスへ向かうことにした。


 テミスの街といえば、地の聖女ベラトリックス様が在中している中央教会のある大きな街だ。久しぶりに会うのも悪くないだろう。

 なお、彼女からはいまだにラブレターが届いているが、必要な情報以外すべて無視している。あ、だんだん会うのが怖くなってきたな。


 道中は難なく進んでいけている。前衛の俺に後衛のセレナ。回復支援のルーナの三人パーティは割とバランスが良い。本音をいうと前衛を二人にしてルーナを完全後衛にしたいところだよな。

 割と以前の前衛に俺とリーシャ、後衛にルーナとエリスという布陣は悪くなかったし、前衛ができる奴がもう一人いると安定しそうだ。

 魔獣たちを安定して討伐し、素材を回収する俺たちは、数日ほどでテミスの街が見えてきた。


「さて、久しぶりに会うわけだが」


 俺はちょっと緊張していた。何せ相手はあのベラトリックス様だ。どういう対応をされるのやら……。

 街の入り口には大きな門があり、その両脇に門番が立っていた。彼らは槍を持ち、鎧に身を包んでいる。厳つい顔で俺たちを睨んできたため少しビビったが、ランク証を提示したら特に問題なく通してくれたので安心したよ。

 街の中は賑わっており、人通りも多い。店には様々な商品が並び、見ているだけでも楽しめそうだ。俺たちは大通りを歩きながら中央教会に向かって歩く。しばらく歩くと、大きな建物が見えてきた。あれが中央教会だろう。俺は扉を開き中に入ることにした。建物の中は広く、椅子やテーブルが大量に並べられていた。

 大きな教会なのだろう。俺の元に向かってきたのは、蒼い髪に海色エメラルドブルーの瞳のしなやかな体つきを持つ女性だった。彼女は海色のシルク製のタンクトップを着用し、その胸元には波の模様があしらわれていた。深い青色のストレッチ素材のレギンスが彼女のしなやかな体を美しく包み、動きやすさ重視の教会らしからぬボディラインのはっきりした服装だった。


「ネレイドさんじゃないですか!」

「ああ、久しぶりだなアクイラ君」


 彼女はニコリと微笑む。彼女は上級傭兵ランクルビーの波濤の影忍ネレイドさんだ。以地の聖女様の付き人なのでここにいてもおかしくはないだろう。そして俺の元にやって来ると俺の両手を握りながら話す。俺はドキドキしながら彼女の笑顔を見つめていたが、不意に後ろから衝撃があった。振り返るとルーナが頬を膨らませて俺を睨んでいた。


「アクイラ、浮気?」

「いや違うぞ!? これはただの友人としての挨拶だろ? てゆうか、俺には特定の相手はいない」

「むう……」


 ルーナは不満そうな様子だがそれ以上何も言ってこなかった。

 ネレイドさんに案内されたのは、教会内部にある応接室だった。そこで待つように言われたので待っていると扉が開き一人の女性が待っていた。

 扉を開けた瞬間、俺の視界に美しい女性が映る。彼女は20歳ほどで、華奢な体つきをしていた。その黒髪は煌めき、緑色の瞳は深い神秘を秘めていた。

 彼女は緑と黒を基調としたシルクのブラウスを身に纏っており、何かの模様が描かれていた。そのブラウスは彼女の華やかさと優美さを引き立て、地の聖女らしさを際立たせていた。黒のスカートが彼女の美しい足元を彩り、動きやすさを重視したデザインが彼女の優雅さを一層際立たせていた。

 緑の宝石があしらわれた金のネックレスやイヤリングが彼女の身に着けられており、彼女の美しさを一層際立たせていた。俺はその美しさに目を奪われ、彼女を見つめながら再会を喜びに胸を躍らせた。


「久しぶりだな聖女様!」


 俺は挨拶する。聖女様は笑顔で返してくれた。彼女は相変わらず美しく、どこか儚げな印象を受けたが、その美しさには芯があり、気高い精神を感じさせてくれた。


「お久しぶりです、アクイラ様。何度も申し上げますがベラとお呼びください」


 俺たちは握手を交わすとソファに腰掛ける。ネレイドさんが紅茶を持ってきてくれたのでそれを口に含む。俺が一息ついたところで聖女様が口を開く。


「それでは本題です。この資料をご確認ください」

「何々? 貴方のことをお慕いしており…………別の資料もらえる?」

「…………こちらが正しい資料です」


 俺は聖女様から資料を受け取ると内容に目を通す。どうやらテミスの街の近くで傭兵の遺体が発見されたらしい。遺体の持ち主の名前は静寂のイオンと呼ばれる上級傭兵ランクルビーの様だ。第一発見者は反撃のフェリシアスという傭兵らしい。問題は遺体が発見されたことではないらしい。

 内容の続きを見ると、遺体で見つかったはずのイオンが今もなお、傭兵として活動しているのだ。


「なるほどな、人間の姿をコピーする能力か。確かに俺はこれを知っている。この能力の厄介な所は本人の記憶を持っていることと、実力も本人と変わらないとこだ。遺体を見つけない限りは偽物と判断が難しい」


 そしておそらく魔族の力であることを考えると魔の九将マギス・ノナ関連だろう。いずれ第一発見者のフェリシアスにも現場の状況を聞いてみたいものだ。どうやって殺したかわかれば、魔族の戦い方が分かるかもしれないしな。


「とにかく、貴方がたには彼、偽イオンを監視してもらいたいのです。まだ彼が偽物と知っているのは教会の一部の人間だけですので公にはできません」


 なるほどな、そして俺たち三人はまんまと一部の人間の仲間入りだ。教会側の人間ではないが、教会から直接依頼される程度には頼られているみたいだな。


「わかった、協力する。わざわざテミスに来たわけだし」

「ありがとうございます。私たちは他に情報を集めるので、アクイラ様は偽イオンの調査をお願いします」


 聖女様から依頼された内容はわかった。ネレイドさんから追加資料を頂き、イオンの行動パターンを貰った。イオンは二人パーティのようで、相方の情報ももらった。相方の名前は地剣のテラ、初級傭兵ランクサファイアで過去に俺とパーティを組んでいた女だ。

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