第3章2話 新生活➁
「セレナ。ボウガンの扱いも上手くなってきたな」
「ありがとねアクイラ」
彼女は笑顔で言った。確かにセレナの飲み込みは早いし、センスもあると思う。それに彼女の成長はとても喜ばしいことだ。俺は素直に褒めることにした。すると彼女は照れたように笑う。
「えへへ。アタシね、アクイラに褒められると嬉しいんだ。だからさ、これからもいっぱい褒めて欲しいな」
セレナはそう言って抱きついてくる。そんな彼女のことを俺は優しく受け止めるのだった。
それから俺たちは報酬受け取りのために傭兵ギルドに向かった。今回の依頼はブロコラーモンス討伐だったのでおおよそ銀貨一枚といったところだろうか。
「セレナちゃん、お疲れ様。セレナちゃんのおかげで危なく無く終わったね」
「ありがとルーナ!」
ある程度一緒の生活が続き、ルーナもセレナとよく話すようになった。そして俺たちは受付嬢のリズさんの元へと向かったのだ。ある程度一緒の生活が続き、ルーナもセレナとよく話すようになった。
「皆さん、お疲れ様です! お怪我はありませんでしたか?」
彼女はそう言って俺たちを見回すと安心したように息を吐いた。それから手続きを済ませると俺たちは報酬を受け取った。銀貨一枚となればランチ十食分くらいだろう。三人で食事しても三回は外食ができる。たまには外食も悪くないだろう。
三人で街の食堂に向かうと、そこで食事を取った。昼時ということもあり、店内は賑わっていたが何とか席を確保することができたのだ。料理を食べ始めるとすぐにセレナが口を開いた。
「ねえねえ! 次は何するの?」
「え? 何をすると言われてもな」
異変調査について俺たちは専任ではない。偶然二度巻き込まれただけだ。もちろん、今後ギルド本部からどういう指令がくるかわからないがな。俺が知る範囲では地の聖女と風の聖女が異変について知っていたことから、協会側で聖女には知りえているのだろう。その御付き方もかな。
と、なるとルナリスに常駐している火の聖女は知っている可能性はあるな。意外と意見交換とかできたりするのだろうか。まあ、機会があれば聞いてみよう。
「アクイラ! 聞いてる?」
セレナは頬を膨らませて少し不満そうに言う。確かに考え事をしていたが、無視していたわけではない。俺は慌てて返事をすることにした。
「すまないな。正直街に留まってる限りはお手上げだな。リーシャたちと情報交換してるし、カイラさんからも提供してもらってるけど、各地でおかしな魔獣が増えてるってのはわかるけど、発生源が分からない以上どうしよもないな」
俺がそう言うとセレナは不満そうな表情を浮かべた。まあ、実際そうだからな。それにおかしな魔獣が出現した場所にしらみつぶしなんてそれこそ無駄足だ。
「そもそも
倒すなら誰でもいい。もちろん、居場所さえわかれば俺も参加しないこともない。ヴァルガスの野郎もそうだが、アウレリウスの奴みてぇのは放置できねえ。人間を魔獣に変えるなんて残酷な行いだ。
それにレグルスさんの姿をコピーしたあれ。多分、アウレリウスの奴とは無関係だ。なぜなら、遠隔で繋がっているのに、アウレリウスの奴は近くに集落があることを知らなかった。つまり魔族には人間をコピーした何かを遠隔操作する魔族がいる。それとルーナの両親の敵もいたな。しいて言うなら、そいつは俺たちで倒してやりたいものだ。
「ま、アタシもワクワクする冒険とかヒリヒリする戦いがしたくて傭兵になった訳じゃないんだけどね」
そういうセレナの顔は少し紅く俺の方をちらちら見ている。ここまで黙って会話を聞いていたルーナがこのタイミングで俺の服をぎゅっと握る。なんだお前俺専用の脈ありセンサーか?
食事を終えた俺たちは一旦、小屋に帰ることにした。三人で小屋に帰ると、小屋には久しぶりにカイラさんが帰ってきていた。
「アクイラではないか! 改築が終わったようだな、私の部屋はそのままか?」
「ええ、一応」
カイラさんの問いに俺は答える。ちなみに俺の寝室とカイラさんの部屋は隣になっていて、着替えを覗く用の小さな窓は作った。内緒だ。カイラさんは俺の答えを聞くと満足気に微笑んでいた。
それから俺たちは四人でお茶をすることになったのだ。俺はお茶の支度をして、カイラさんとルーナはお菓子を持ってくることになった。セレナは食事担当だそうだ。
「カイラさん、今日は何を持ってきたんですか?」
「普通のクッキーだ」
カイラさんが持ってきたのはチョコチップやナッツ入りのクッキー。ルーナはお店で買ってきたアップルパイの様だ。
一応俺用に甘くない菓子もいくつかあるみたいだ。ありがたい。
「ありがとうございます」
カイラさんは微笑みながら紅茶を一口飲んだ。
「ふむ、良い香りだ」
俺は人数分の紅茶と菓子をテーブルに置いた後、自分の席に座ると四人同時に食べ始めた。
「それでカイラさんの方はどうでした? 何か面白い情報はありましたか?」
俺が尋ねるとカイラさんは顎に手を置いて難しい顔をする。
「いや、特にはないな。平和そのものだ。だが、何かの下準備中かもしれん。油断はするな?」
カイラさんはそういうとお菓子をぱくりと一口食べる。彼女もかなり強い傭兵だが、何があるかわからないのが戦場だ。俺たちが一番よく知っているだろう。油断はできないな。
「ところでアクイラよ。私にも構え! 最近構ってくれないではないか!」
最近色々ありすぎてカイラさんとは必要最低限の会話していなかった。どうやら放置されていたことにご立腹の様だ。仕方のない人だ。ご希望なら後で後悔するくらい可愛がってあげるか。
「カイラさん。そんなに拗ねないで下さいよ」
「別に拗ねてなどいない!」
「今晩は泊まりますか?」
「無論だ…………構ってくれるのだろう?」
カイラさんがそう言うとセレナとルーナが羨ましそうに見ていた。俺が咳払いをすると二人は慌ててそっぽを向くのだった。全く可愛い奴らだ。俺はそう思いながら嫌いな甘いお菓子を口に運んだ。
夕食の時間にはリーシャとエリスも帰ってきた。彼女たちはカイラさんが大好きなのでなのでカイラさんがいることに大喜びだ。やはり洞窟の件もあり、隷属の刻印から解放してくれた一番の功労者だと思われているのだろう。
一応、
「どうしたんですか?」
俺が尋ねるとカイラさんは少し照れた様な顔をした後、とんでもないことを言い始めたのだ。
「アクイラよ。あーん」
そう言って彼女はフォークに刺さった肉を俺の目の前に差し出してきたのだ。
「あ、あの……」
俺が動揺しているとフォークを口に突っ込まれ、肉を無理やり食べさせられた。
「どうだ? 美味しいか?」
カイラさんは嬉しそうに微笑む。俺はもくもくと肉を咀嚼した。すると彼女は俺の頬についたソースを手で拭い取り、そのままぺろりと舐めたのだ。
「うむ、美味だな!」
カイラさんは満足そうな表情を浮かべていた。全く困った人だ。でもまあ悪い気はしなかったので良しとしよう。この場にいる誰もがカイラさんには対抗しようとしない。絶対王者である。唯一ルーナが俺にがっちりとしがみ付き、俺は自分の物だと意思表示しているみたいだ。セレナはジーっと見つめているし、リーシャは何か言いたそうだ。エリスはニコニコしている。
あいつだけは俺よりカイラさんことが好きなのだろう。カイラさんが幸せそうで嬉しそうだ。
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