第2章16話 聖水癒受
アウレリウスの剣がセレナに振り下ろされる。手が届かない。拳の炎の鎧を一直線に噴き出させる。さっき似たようなことが出来た。今度は意識してやるんだ。
「貫け!
蒼い焔をまとった拳は炎を一直線に伸ばし、アウレリウスを貫通した。それと同じく、蒼い焔の鎧も砕けるように霧散する。これは俺が出せる技じゃなさそうだな。やっぱりこの力は俺のものじゃないらしいが、今だけは感謝しよう。おかげでみんなを守ることができた。俺は倒れたアウレリウスに背を向けて歩き出すと、後ろから声が聞こえる。
「
アウレリウスの身体はどんどん蒸発していく。アウレリウスが最後の力を振り絞り、セレナを斬ろうとする。今なら間に合う!
「喰らいやがれ!!!!!」
いつもの紅い
「無事か? セレナ?」
「え…………うん、ありがとぉ」
俺はセレナをおんぶし、ルーナの方に向かおうとした。そこにカイラさんが現れた。
「さすがだアクイラ。蒼い炎、綺麗だったよ」
「俺だけの力じゃありません、セレナのおかげです」
俺はそう答えると、カイラさんは「そうか、そうかもな」と笑っていた。
「まさかこのような形で計画が頓挫するとはな……
アウレリウスはそう言い残して完全に蒸発した。これで終わった。赤い獅子のレグルスさんについては回復した全員に説明した。そして魔獣化した人間が人を襲う衝動に襲われることを含めてだ。
「ではこれからレグルスを殺すか生かすか決めよう」
カイラさんの言葉にみんな暗い表情をし、マーレアさんはレグルスさんに抱き着いたままだ。本人の意思とは関係なく魔獣にされた傭兵。人間の意識を残し意思疎通もできる。
「私は殺したくないです」
セレナがそう言うと、リーシャも頷く。エリスとルーナはどうなんだろうと思い、俺は二人を見る。すると二人は同時に言った。
「私も同じ意見よ」「私もです」
エルフの戦士たちはカイラさんの意思に従うそうで、あとはマーレアさんだ。
「生きてもらいます。貴方にはまだお願いしたいことばかりですから」
どうやら全員一致で決まったようだ。だがレグルスさんだけは違った。
「殺せ。俺は今もお前たちを殺したいと感じているんだ。俺は誰も殺したくない。だから、俺を殺して終わらせてくれ。後生だ」
レグルスさんの表情は穏やかなものだった。その言葉を聞き、マーレアさんは泣き崩れる。
「私は……貴方を殺せません」
「そうか、では俺はどうすればいい? 魔獣にされたまま生きながらえろと? 俺は君の手で終わらせてほしい。残酷なことを言ってすまない」
「…………レグルス、愛しています。だから…………貴方を戦士のまま、英雄のまま。生を終わらせてあげます」
そしてマーレアさんは手持ち鋏を掲げる。
「鋏よ、感情を断ち切り、心を解き放て。「ダメです!!!!!!!!!!」
マーレアさんの魔法を遮ったのはルーナだった。
「ルーナ様? ですが彼の気持ちを尊重したい。彼を魔獣として生かしたくない。人を襲う存在で人生を終わらせたくないんです。どうか、私の感情を捨てさせて介錯させてくださいませんか?」
マーレアさんはいつもの上品な雰囲気とは違い、ボロボロと泣きながら懇願する。しかし、ルーナはいつもより強い表情でマーレアさんを見つめた。
「私が何とかする。絶対何とかする。何とかできる。私は…………見てて。清らかなる水よ、我が仲間に癒しをもたらし、あらゆる状態を回復せしめよ。
煌びやかに輝く聖水が、レグルスを俺たち全員を包み込む。あらゆる異常が回復していく。
「貴女はいえ貴女様は……ルーナ様、貴女様はいったい……いえ、貴女様はそうなのですね」
マーレアさんは驚いた表情を見せる。その理由は俺もすぐにわかった。カイラさんの方を見ると彼女も気づいたようだ。もしかしたら
「レグルスさん」
「ああ、すまないな。助かった」
レグルスさんは、元の人間の姿に戻ったのだ。全員が全員驚いた。そしてルーナはあまりの魔力消費にこの場に倒れこみ、俺はルーナを抱えて集落まで戻ることにした。
「ルーナ様、ありがとうございます」
マーレアさんは涙を流しながらルーナに礼を言い続けた。そして俺たちは集落まで戻り、風の聖女様の元に行く。襲撃にあっていたみたいだが、聖女様一人で完全防衛が完成していたようだ。フレイルを持った聖女様が俺たちの方に歩いてきた。
「おかえりなさい皆様、それからアクイラさんもご無事でしたか」
「はい、俺は大丈夫でした。それにみんな無事です」
その日は集落で全員一休みすることになった。ルーナは消耗しきって目を覚ます気配はないが、生きていることはわかる。
そして翌日、俺たちは集落の人たちから祭りに誘われる。どうやら襲撃を防いだということで、感謝の意を込めて宴を開きたいそうだ。俺たちは承諾し、集落の人たちが準備している間にルーナの様子を看ていた。
「んぅ……」
「目覚めたか? まだ寝てていいんだぞ」
俺はそう言いながら彼女の頭を撫でると彼女は嬉しそうに笑う。可愛いなと思いつつも彼女を介抱するのだった。そしてしばらくすると、マーレアさんがやってきた。
「アクイラ様、ルーナ様の
「ええ、この魔法は…………わかっています」
あえて口にしなかった言葉。それを口にして誰かに聞かれれでもしたら、俺たちはルーナはきっと不自由を強いられる。
「私は、ルーナ様の意思を尊重したいですわ。ルーナ様がお望みなら、口外するつもりはございません」
マーレアさんはそう言ってくれたが俺は頷いた。
「ありがとうございます」
ルーナが意識を取り戻したことで、祭りの準備が整ったようだ。俺たちは集落の人たちに案内されていくと、そこにはたくさんの料理や飲み物があった。
「それでは皆さん! 傭兵様方が我々を救ってくださったことへの感謝の意を込めて宴を開きたいと思います!」
里長の言葉を皮切りに皆が拍手をする。俺たちは席に着くと早速料理を勧められる。料理はとても美味しかったが、酒も結構強いものだったのでエリスとリーシャは少し酔ったのか顔を赤くしている。
「アクイラ! ちゅー!」
エリスは酔うとキス魔になるみたいだ。エリスがいつになく積極的で可愛いが、ルーナが不満そうにしていたので軽くキスして引きはがす。俺の周りにはルーナ、カイラさん、リーシャ、エリスが集まっていた。エルフの戦士たちはカイラ様の意思に尊重するとのことで俺の元にいることを止められることはなかった。
風の聖女様とマーレアさんとレグルスさんは一緒に集まっている。積もる話もあるだろうし、あそこは適当にあいさつしたらすぐ離れることにしよう。俺はルーナの腰に手を回し、カイラさんは腕を絡ませてくる。
リーシャやエリスもすぐ近くで一緒に食事をしていた。
「アクイラ、もっと私を抱き締めてほしい」
ルーナはそう言って俺の膝の上に座ってくる。彼女の柔らかいお尻の感触を楽しみながら頭を撫でると彼女は嬉しそうに目を細める。エリスやリーシャも羨ましそうに見ているがここは我慢してもらうしかない。
するとカイラさんが耳元で囁いた。
「私もたまにはそうしてほしいな」
その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず吹き出しそうになった。しかしなんとか耐えて彼女を抱きしめる。女の子たちに酔いが回ってきたところで寝かせに民家まで連れて行く。カイラさんはエルフの戦士様方に預けて残り三人を連れて行った。
民家を出るとそこにはセレナがいた。
「アクイラさん、ちょっといいですか?」
「ん? ああ、いいけど」
俺はセレナの案内で集落の中央に向かう。そこには大きな木があった。
「この木は?」
「これは風花樹です。春になると綺麗な花を咲かせるんですが今は季節じゃないから花は咲いていませんね」
そう言いながら彼女は近くの切り株に座る。俺も同じように隣に座ると彼女は少し恥ずかしそうな顔をしながらこちらを見た。そして意を決したように口を開く。
「あのっ! ……アクイラさんて年上派ですか?」
「え? いやそういうわけじゃないけど……急にどうしたんだ?」
俺がそう聞くと彼女は顔を赤くしながら答えた。
「あのっ! アタシ、やっぱり傭兵は嫌いです! 粗暴で! エッチで! 暴力的で!」
「……はぁ? 一体どうしたんだよ急に」
俺はわけがわからず困惑する。そんな俺の反応を見て、セレナは更にまくし立てるように話す。
「だってそうじゃないですか! いつも野蛮なことばかりするし、女と見れば見境なく襲ってきますし!!」
「いや、まぁ確かにそういう奴は多いけど」
それを傭兵の俺に伝えて何がしたいのだろうか。
「でも、アクイラさんは…………好きなんです。粗暴でエッチだけど、アクイラさんは好きです」
彼女は真っ直ぐ俺を見て言う。俺はその言葉を聞き、嬉しくなった。そして俺も自分の気持ちを伝えることにした。
「ありがとな、セレナ」
そう言って彼女の手を握ると彼女も握り返してきた。俺はそのまま顔を近づけると彼女は目を閉じてくれる。そしてその唇に口づけをした。柔らかい感触に酔いしれながら舌を入れようとすると彼女が受け入れてくれるように口を開く。
宴が終わり、翌朝、俺たちは集落から帰る準備をしていた。俺とルーナ、リーシャ、エリスの四人はルナリスの街へ向かう。
風の聖女様ご一行はもうしばらく集落に残るらしい。聖女様自身の故郷ということがあり、せっかくなのでここに残り、生活をしたいらしく、マーレアさんとレグルスはそれを了承していた。
カイラさんたちはまた単独で周辺調査に向かわれた。なんでもここは偶然通り道だったらしく、彼女が救出作戦に参加したのは、本当に運が良かったと言える。
セレナは…………昨晩から見かけていない。昨晩、彼女とあった後に別れたきりだ。もう彼女を見る事はないのだろう。俺はそう思っていた。
「ちょっと待って! アタシも連れて行ってよ! アタシも傭兵になる!」
俺たちの元に大荷物のセレナが駆け寄ってきた。
「…………傭兵、嫌いなんだろ?」
「アタシが傭兵になって! 少しでも傭兵って良い人だって増やしてやるんだから! だからアクイラさんの街にアタシも連れてって」
こうして俺たちは五人でルナリスの街に帰るのであった。
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