第2章15話 蒼
マーレアさんの言い方がどうしても引っかかったが答え合わせをするかのように赤い獅子がこちらに歩み寄る。するとマーレアさんは赤い獅子に近づき頭を撫でた。それはもう愛おしそうに。
「おかえりなさい、
そう言われた赤い獅子は嬉しそうに喉を鳴らす。
「ああ、久しいなマーレア。君とこうして再び会えて嬉しかったよ。もう会えないと思っていた。マーレア」
「やはり、私達と一緒にいたあの痴れ者は偽物でしたか。元から汚らわしいと思っていましたが、少し前から過激になってきてまして聖女様と監視の名目で傍に置き続けていたのですよ」
「そうだ。君のおかげで俺は今まで生きてきた。もう一度君と、マーレアと会いたくて生きてきたんだ。あの野郎、姿を奪ってまさか君と一緒に生活を続けていたとはな。苦労をかけたな。もう俺の偽物のことなんて気にしないでいいんだぞ」
二人は再会を喜ぶように話をしているが、それを黙って聞いているほど俺たちはお人よしではない。
「なんだどういうことだ??」
そう聞かれた赤い獅子は首を横に振った。
「俺が本物のレグルスだ。半年前、ここに捕まり魔獣に改造された哀れな傭兵だよ」
「ええ、本当に哀れ。哀れですよ貴方は」
マーレアさんはそう言うと抱き着きレグルスの鬣を撫でる。するとレグルスは喉を鳴らしてマーレアさんにすり寄った。
「やめろ、気持ち悪りぃんだよ!! お前はもっとこう俺のことは蔑ろに…………いや、半年ぶりに仲間にあった人間ならこうなるよな」
ウザそうにしているレグルスさんは、どこか嬉しそうだった。そういえば一方的に愛した女がいたって言ってたな。おそらく、彼女の事なんだろうな。俺は一人と一匹の姿を見て、再会できてよかったなと思えた。
二人はしばらくぶりの再会。それにレグルスは魔獣に改造されて…………だ。もしかしたら俺も…………あんな未来になっている可能性があったんだな。
勝手にその時、俺を抱きしめてくれる人を想像してしまった。
「それより、さっきのはどういう事だ? なんでレグルスに化けたんだ?」
俺がそう聞くとレグルスが答える。
「俺が聖女の付き人だったからもしれんな。つまりあの化け物は魔族側からのスパイだ。鏡が割れたように砕け散ったが本体は倒せていないだろう」
「ええ、断ち切った時に倒せたというよりは、魔力の元からあれを切り離したような感触でした。おそらくは遠隔操作でしょう。つまり魔族には人間の姿を真似て遠隔操作できる者がいます」
リーシャがそういうとレグルスも頷いた。そしてマーレアさんは俺たちに言う。
「さて、森姫にばかり負担をかけるわけにはいきませんね。あちらの魔族にはレグルスさんの分のお返しが必要ですね。レグルスさんは魔族同士の戦闘は可能ですか?」
「アウレリウスの制約によって家族と定められている者の攻撃はできん。野生の魔族なら戦えるがここで魔族にされた人間と主アウレリウスはダメだな」
「では休んでてください」
「うむ、よろしく頼む」
そういうとレグルスさんはマーレアさんの後ろに移動する。
そうだ、こちらが気になりすぎてアウレリウスの方はどうなっているんだ? カイラさんたちの方を見ると、エルフの戦士たちは善戦しているものの、アウレリウスの速さについていけているのは、いや追い越しているのはカイラさんだけだった。
詠唱をしたらキャンセルさせられる速度での攻撃。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。
俺は一度詠唱してしまえばもう詠唱の必要はない。俺は駆け出すとマーレアさんが鋏を取り出す。
「飛ばしますアクイラさん。正面を殴ってください! 鋏よ、空間を断ち切り、道を開けよ。
俺とアウレリウスとの間にあった空間が一瞬で斬り取られる。そして俺は右腕にすべての鎧を集める。
「喰らいやがれえええええ!!」
「
アウレリウスは俺の拳を腕で受け止めるが、俺の右腕の方が強いようで吹き飛ばす事に成功した。するとカイラさんが俺に声をかける。
「アクイラ! 会いたかったぞ」
「戦闘に集中してください! あと俺も会いたかったです」
「ああ、わかった」
カイラさんは最高の笑顔を向けて次の瞬間、アウレリウスがまた吹き飛んだ。カイラさんの蹴りだろう。
「まだだ、まだ俺は立ち上がれる。そもそも、俺はまだ魔法を使っていないんだからな。光よ、我が身を照らし、光速の力を与えよ。
アウレリウスは光に包まれると、無差別に蹴り飛ばされる。エルフの皆さんや前の方にいたリーシャとエリスにマーレアさん。カイラさんは余裕で回避しているが、光が俺の所に来たのだろう。彼女はなぜか俺の盾になった。
「カイラさん!?」
「いやぁなんでだろうな。つい君だけは守ってしまったみたいだ。勝てるか?」
「勝って見せます」
今まで魔法を使っていなかったアウレリウスは魔法を使うと今まで以上に速い。だがこいつは制御が上手くできていないのか、まだルーナとセレナが立っている。ルーナはみんなの治療をお願いするなら、セレナだ。
「セレナ! 俺に風を送って速くすることはできるか?」
「そこまでの突風できるかわからないけど追い風程度なら。風よ、我が呼び声に応えて、突風を巻き起こせ。
「今更追い風ごときで俺に勝てると思ったか!?」
アウレリウスは再度俺に突進する。俺は突風を受け、全身の紅い炎が蒼くなる。熱い。今までも熱いと感じることはあったが、ここまで熱を感じただろうか。
「蒼い!? 何をした
「知らねぇえよお!!!」
いつもよりも火力を感じる炎は手から噴き出すように伸び、拳がアウレリウスを貫通する。アウレリウスは大量の血を吐き出すがそれらは一気に蒸発した。
「お、俺の」
アウレリウスが何かを言いかけると今度は俺が奴を殴り飛ばす。なぜか手ごたえがあった。
「
俺はまた拳を構えるが、アウレリウスは俺ではなくセレナの方に向かっていった。
「
「おい、どこ行くんだよ」
俺はすぐに奴を追いかけた。蒼い炎は未だに全身から溢れ出ており、その速度は今までよりも速い。だが追いつくことはできなかった。追いついたのはアウレリウスがセレナを掴もうとした瞬間だった。
「セレナァ!!!」
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