第2章11話 依存

 私はセレナちゃんと一緒に集落に戻ると、大好きなリーシャさんを見つけました。リーシャさんたちは襲撃を受けた後で後処理をしている様子ですね。私に気付いたリーシャさんが駆け寄ってきましたので、私はいつも通りリーシャさんの右腕に抱き着くと、どうしてでしょう。いつもなら優しく頭を撫でてくれるはずなのに、リーシャさんは私の行動を理解できていないみたいでした。


「ん? リーシャさん?」

「え? ああ、どうしたんだルーナ。私はアクイラじゃないぞ?」

「…………アクイラ?」


 アクイラさんとは誰のことでしょうか。私は記憶を探ってみますが、やっぱり記憶にありませんでした。


「アクイラさん? えっと……」


 さすがに私の様子がおかしいと思われたのでしょう。リーシャさんが周囲を見渡していますが、だんだん表情が青くなっていくことだけはわかりました。どうしたのでしょうか。具合が悪いのでしょうか。私の回復魔法の出番だったりするのではあれば私は大好きなリーシャさんの為でしたら粉骨砕身、働かせていただきましょう。


「なあルーナ、アクイラの奴は、どこに行ったんだ?」


 リーシャさんは私の知らない人を探していたみたいでした。私のリーシャさんなのに、リーシャさんはずっとそのアクイラさんという人を探している。私の中のモヤモヤとした感情がねっとりと私の心の中をかき混ぜて、気持ち悪さに襲われる。


「アクイラさんですか? 私、その人知らない」


 私がそういうとリーシャさんはセレナさんの方に視線を向けます。セレナさんも困惑をしているみたいで、何がおかしいのでしょうか。そして私たちの帰還に気付いたエリスちゃんが駆け寄ってきてくれました。


「あ! みんな、戻ってたのですね! えっと? あ、あれアクイラさんはどこにいるんですか?」


 エリスちゃんもだ。エリスちゃんもアクイラさんを探している。私は自分の知らない人を探すリーシャさんとエリスちゃんにモヤモヤした気持ちを抱きます。そして、リーシャさんが私たちに言うのです。


「セレナ…………アクイラはどうしたんだ?」


 リーシャさんはついに私と話すことを放棄してしまいます。私はぐいっとリーシャさんの服を引っ張ると、セレナさんは青い顔でお話を続けます。


「えっとアクイラさんは…………アクイラさんは…………遺跡に残して私たちは逃げてきました。マーレアさんまで負傷してしまいまして、まずはマーレアさんを回復して立て直したく…………」


 セレナさんの言葉がわからない。私たちは魔族から逃げてきたけど、全員無事。アクイラさんなんていなかった。


 マーレアさんは風の聖女様の回復魔法で治療されています。私の回復魔法とは治癒速度が段違いでした。私はリーシャさんに抱き着いたまま皆さんのお話を聞いていますが、皆さんが何の話をしているかわかりません。誰を助けるお話なのでしょうか。

 もしかして私が気付いていないだけでもう一人仲間がいらしたのでしょうか。聖女様ご一行の方かもですね。


「そ、そうなのか。アクイラの奴無事か?」


 リーシャさんはセレナさんにそう尋ねますが、セレナさんもわかりませんと首を振りました。私はもう皆さんが何をしているのか理解できません。私の知らないところでみんなが話をしている。その事実は私の心をゆっくりと蝕んでいきます。そして、体もだるくなってきてしまいましたね。私はこのまま大好きなリーシャさんの腕の中で眠ろうかな。


「ルーナちゃん?」


 エリスちゃんの声が聞こえますね。でもごめんなさい、私は今とても眠いのです。だから少し眠らせてください。起きたらきっとまたみんなとお話しできるから、おやすみなさい…………


 目が覚める。そこにいたのはセレナちゃんでした。どこにもいない。私の大好きな人はどこにもいなくて、私は大好きなあの人を探す。どこにいるかわからないあの人を探そうとしたら私の視界には風の聖女様ご一行ととリーシャさんとエリスが話し合っていました。


「…………リーシャさん。アクイラさんは…………どこ?」

「ルーナ、元に戻ったんだな」

「ええ、一度意識を失えば戻るようにしていましたので」


 リーシャさんは安堵し、マーレアさんは何か引っかかる言葉を言います。そして私は徐々に先ほどの遺跡の記憶を取り戻します。逃げ出したこと、魔族のこと。そして大好きなアクイラさんのことも…………


 私は自分がしたことを思い出し、ポロポロと涙をこぼします。


「アクイラさん、助けに行かなきゃ助けに行こう?」


 私がそういってリーシャさんの服を引っ張ると、リーシャさんも頷く。


「ああ、わかっている私もそのつもりだ、エリスは残ってもいいぞ」

「私も行きます、アクイラさんは仲間ですから」


 そういってる中、聖女様は私たちに残酷な言葉を伝えました。


「アクイラ様のことは諦めましょう。マーレアが一方的にやられた相手となれば我々総動員で勝てる相手ではないでしょう。集落の方々は街に避難して頂き、万全なメンバーで再度攻略すべきです」


 私は聖女様が何を言っているかわかりません。アクイラさんを諦めるとは、一体どういうことでしょうか。マーレアさんは聖女様に従いますといい、レグルスさんも仕方ないと言っていました。しかしレグルスさんだけはなぜかニヤニヤと笑っています。


「どうしてもっていうなら、俺はアクイラの救出ってやつを手伝ってやってもいいぜ?」

「…………どうしてもだ」


 リーシャさんが代表してその言葉を伝えると、レグルスさんは下卑た笑いを隠せない表情になりました。そして彼は言い放ったのです。


「よし、俺がアクイラの救出に行ったら、アクイラの生死問わずお前ら三人を抱かせろよ」

「なっ!?」「な、何言ってるんですか! 人の命をなんだと!」


 リーシャさんとエリスは顔を青ざめて叫ぶ。ですがレグルスさんは言葉を返します。


「おいおいおいおい、マーレアが無事じゃねえって依頼をされてるんだぜ? 俺はアクイラなんてどうでもいい。だから依頼人のてめーらが依頼料として身体を差し出すっていうなら救出を手伝ってやるって言ってるんだぜ? 本来なら大金が必要なとこ、身体でいいって言ってんだよ。どうなんだ? まずはここで脱いでみろよ」


 リーシャさんとエリスさんはだんまりです。私もアクイラさん以外に身体を許すなんてできない。でも、ここで脱がなければアクイラさんを救えない?

 そしてこの後私たちはアクイラさんの生死問わずこの男に…………考えるだけでも嫌でした。それでもアクイラさんを救える可能性が1パーセントでもあがるなら。


「そうだ、アクイラが生存したらよぉ、あいつの前でヤろうぜ? お前らがてめぇの弱さのせいで凌辱されてるところ見たら、あいつどんな顔するだろうな! あ、死んでたら墓前でもいいな! 楽しみが増えたぜ!」

「ふざけるな!」


 リーシャさんは怒鳴り、エリスちゃんは泣き出してしまいました。私は聖女様に視線を向けます。聖女様ならなんとかしてくれるんじゃ? しかし私の期待はすぐに裏切られることになりました。なぜなら聖女様がこういったからです。


「レグルス、貴方が向かったところで死人が増えるだけですよ? くだらない提案をしないでください。あなた方が無駄死にすればするほどアクイラ様の行為が無駄になるのです」

「そうですね、私を突き飛ばした魔族の方に対抗するには…………やはり増援が欲しいですね。せめて森姫でもいれば」


 マーレアさんがそう提案した際に、私にとって聞き覚えるのある声が響きました。


「なんだ? 私の話か?」


 とても強い安心感を得るその声に私は泣きながら振り返る。

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