第2章10話 灼熱の拳アクイラ

 ルーナは俺に依存している。そのルーナに俺をおいて逃げろと伝えたんだ。これ以上残酷な命令はないのだろう。ルーナは何を言われてたのか理解するのに時間がかかり遅れて返事をする。


「私も残る! 絶対! アクイラさんと帰る!」


 ルーナは混乱している。俺はその混乱ごと彼女を突き放した。彼女に、生きて欲しいから。


「ルッゥゥナァッ! お前が残っても足止めできないんだ! いいから言うことを聞いてくれ! 俺たちじゃ! ダメなんだ!!!」

「アクイラさんのいない世界なら! 私! 死んでもいい!」


 ルーナは目に涙を浮かべながら叫ぶ。俺は、歯を食いしばりながらも首を振る。ルーナの依存を治せなかった俺のせいだ。

 俺はどうにかアウレリウスと攻防を繰り広げ、みんなのところに近づかせなかった。その時セレナが叫ぶ。


「アクイラさん! マーレアさんはアタシが連れて行くよ! ルーナちゃんも逃げるよ! そして、絶対にアクイラさんを助けに戻ろう?」


 俺はその言葉に頷く。しかしそれでもルーナは首を横に振った。


「私は…………私は…………アクイラさんと一緒にいたいの! だって……だって…………アクイラさんがいないと私…………アクイラさん、私」


 ルーナが何かを言いかけた時、セレナはマーレアさんを抱える。マーレアさんは鋏を持っている手を上にあげて、その鋏を閉じ、チョキンと音が鳴る。その瞬間、ルーナは俺の方を見ないで振り返り、セレナたちと一緒に逃げ出してくれた。


「…………ありがとうございますマーレアさん」


 何をしてくれたかわからないけど、ルーナが生き残る選択肢を作ってくれてありがとうございますマーレアさん。貴女が増援に来てくれて救われました。


 俺はアウレリウスの方に向きなおすと、アウレリウスはにやりと笑った。


「あぁ終わったか? たくさんの素材にんげんが逃げるも逃げないもどっちでもよかったけどさぁ、とりあえず一つは残ってくれるんだろ素材にんげん。ならまあ問題ないさ。一人ずつ進めてくのは時間かかるし一人でいいよ面倒だしな」


 アウレリウスは笑いながら俺に剣を振り下ろした。俺は後方に下がりながら攻撃をかわす。しかし、剣の攻撃が速すぎるため、回避が間に合わない。炎の鎧で相手の攻撃を受け止めると、なんとか受け流すことが出来たが、背後にある壁まで衝撃破で飛ばされる。俺は壁に激突し、壁が崩れた。崩れた壁の石材が砂となり、俺に降りかかる。口の中に砂が含まれ、じゃりっと気持ち悪い感覚がわかる。


「あぁ壁の修理かぁ。遺跡の技術は学ばせるのが難しいんだよなぁ。やっぱ近代的な家屋が欲しいなぁ。なあ素材にんげん。この辺に人里かなんかってねーの?」


 アウレリウスはそう言いながら俺に近づいてくる。そして、俺の目の前にやってきた時だ。俺は全身の鎧を拳に纏わせる拳の鎧は肥大化し、大きな火球になる。これは使用者の俺でも熱さを感じるな。でも、体液全部蒸発しても、こいつは焼く。危険だ。カイラさんやマーレアさんのような特級傭兵ランクダイヤモンドなしで戦うなら俺程度はこれくらいする必要がある。


「さあな? それより、全力の一撃だ。灼熱の拳俺の異名の由来の技。せめて倒せなくても次の奴らがお前に勝てるようにダメージを残してやるよ」

「あぁ、そう。わかったそれを受けて俺は素材にんげんに勝とう!」


 俺は、アウレリウスに拳を向けると、その拳を振り下ろした。その瞬間、アウレリウスは剣で俺の拳を受けようとした。しかし、俺の拳が剣に触れた瞬間、剣は溶けるように蒸発し、そのままアウレリウスの顔面を焼き尽くした。

 アウレリウスの体は一メートル以上吹き飛び、壁に激突する。アウレリウスは顔面が燃えてしてしまい、しばらくこちらを見る事が出来なさそうだ。炎を振り払い、そして口から垂れる血を指先で拭うと、笑みを浮かべ立ち上がった。


「面白れぇ。面白れぇよ素材にんげん! 十分、強いじゃないか! 素材にんげんは良い魔獣かぞくになる!! 迎えよう! 素材にんげん魔獣かぞくになるんだ!」


 アウレリウスはゆっくりと歩み寄る。やはりこうなったな。最後まで俺は弱者のままだったんだ。俺の全力の一撃を食らってまだ意識があるみたいだ。


「いいなぁ素材にんげん! この俺が本気を出す価値があるよ! 終わりか? 続けるか? どっちでもいいぞ?」


 アウレリウスはそう言うと、蒸発しなかった法の剣を俺に向かって振り下ろした。俺は炎の鎧で攻撃を防ぐ。振り下ろされた剣で地面に亀裂が入り、周囲に剣圧が襲いかかる。俺は炎の鎧を全身に纏うと、アウレリウスに突っ込み、懐から頭に向かってアッパーを繰り出す。簡単に躱されてアウレリウスは笑いながら剣を振った。振った剣の勢いで俺の炎の鎧は簡単にかき消されてしまった。


「その剣は素材にんげんの体じゃ受け流せない! 素材にんげんもわかってんだろ? 今の素材にんげんでこの剣を受け流すのは不可能さ!」


 俺の拳はその剣によって切り裂かれた。血が噴き出て顔にかかり、視界の半分は赤くそれでも、最後までこいつに喰らい付こうと立とうとした。アウレリウスの剣は攻撃速度を速くする能力があるのか、身体の動きとは思えない速さだ。焼いて止血できるとはいえ、痛いものは痛いなぁ。でもこれでわかったことがある。こいつは俺より強い。


「おらぁ!」


 アウレリウスは剣を振り続ける。俺はその攻撃を全て受け流していく。しかし、俺の身体がどんどん切り裂かれていき、意識ももうはっきりしていない。このままでは何もできずに終わるんだな。最高の技はダメージを与えるで留まったが、十分だろう。

 できればこいつが回復しきる前に、こいつを倒しに来てくれ。俺は心の中でそう祈る。アウレリウスの剣が脇腹を切り裂き、鮮血が飛び散る。


「じゃあそろそろ終わろうかなぁ! 次は魔獣かぞくとして会おうぜぇええええええ!!!!」


 アウレリウスは笑いながら剣を振り上げた。その笑顔を見た瞬間。俺の意識はもうそこになかったのだろうか。

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