第2章9話 光風魔将アウレリウス

 遺跡に乗り込むことになった俺たちは遺跡内部の奥地へと向かった。本来セレナは傭兵ではないので、ここに置いていこうと俺が提案したが、入り口に置いていくよりも、マーレアさんが「私の傍の方が安全ですよ」と、その一言に納得した俺はセレナも同行させることにした。


 遺跡内部では魔獣たちは連携を取って攻撃してくる。

 俺が炎の拳をぶちかますと、蝙蝠型の魔獣とワーム型の魔獣を焼き払う。セレナの感知のおかげで敵の位置の把握は難しくない。


 最悪危なくなればマーレアさんが補助してくれるからどうとでもなる。

 狼型の魔獣に亜人系魔獣の群れにクモの魔獣まで現れた。亜人型魔獣が投石をすると同時にクモが足元にべたつく糸をまき散らす。俺は糸を焼き払い、石は真っ二つに切れたらそのまま真下にこつんと落ちた。


 どうやらマーレアさんの鋏は石を斬ってこちらに向かってくる力まで斬れるらしい。遺跡内部はどうやら生活拠点のようだ。ゴブリンの巣との違いは週種類の魔獣の生活を考えられた構成であることだ。

 鳥型魔獣用に巣が用意されていたり、狼型魔獣用に寝床と水飲み場まで作られている。


「ずいぶんとまぁ文化的です事」

「これ…………武器工場?」


 ルーナが指さした場所は多少つたないが、竈や工具らしきもの作業台のような大岩があり、ボロボロだがいくつか武器が作成されている。


「まるで人間だな」


 亜人系モンスターが作れる武器なんてせいぜい棍棒くらいだったというのに、ずいぶんとまあ発展したものだ。進んでいくと今度は調理場のような場所まであった。生活感があり、今も誰かが利用しているような状態だ。しかし魔獣が作る武器なんて悪い予感しかしない。

 他種族の魔獣同士で争わずに、武器まで用意している。人間だけ襲うというほかで見られない異常行動をする異変。


「しかし、ここは明確に何か知能を感じるな。少し前までも敵味方の判別が出来ていたからまさかと思っていたが文明を発展させようとしているのか?」


 俺がそう呟くとマーレアさんは関心したような表情をしていた。


「さすがアクイラさんですね。さすが魔族との戦闘経験のある方は違いますわ。私も魔獣たちが文明を発展させている。そう思いましたわ」


 マーレアさんはそう言いながら作業台の上に散乱しているものを眺めていた。人ではない生物が使うサイズのいびつな工具たち。俺は試しに近くの作業台を調べてみる。どれもまだ不出来なものばかりであり、完全な道具とは言えない。だがこの遺跡で生活するだけなら十分だ。ここに紛れ込んでいる魔獣がどうやって使いやすい工具を作り出しているのか?


「アクイラさん。魔の九将マギス・ノナの一人と戦闘した際、地の聖女様が捕まって魔力炉にされていたのですよね? つまり魔族は人間を利用して異変を起こして魔獣たちを活性化させていました。では今回は、いえ今回もと考えるべきでしょうか。本拠点まで行ければ誰かが捕らえられていて利用されていると思いませんか?」


 マーレアさんはそう言いながら更に奥まで進んでいく。俺とマーレアさんが進んでいく中、ついていくことだけしかできていないルーナとセレナ。それでもセレナは感知魔法を使ってもらってるし、ルーナにも回復魔法で支援してもらっているので、足手まといなんてことはない。


「確かに、魔族が魔獣を操って人間を襲うようにしているならいるはずだよな魔族。この規模の遺跡だともうすぐ探索は終わるし、魔獣を操るための力もここには感じない」


 俺たちは進み続ける。そうしている間にも魔獣の襲撃は続いていた。黒騎士、魔熊、氷狐、オークなど様々な種類の魔獣が現れるがどれも魔族の存在は感じない。だがこれ以上奥に進むと何かいるような感覚があった。そして突然、マーレアさんは立ち止まったのだ。その視線の先には不思議な空間が広がっている。


「ここは……一体」


 そこはまるで神殿のような場所だった。壁や床は白い石でできており、天井からは巨大な宝石のようなものが吊り下げられていた。しかしそれはただの宝石ではないことがすぐにわかる。なぜならその宝石から魔力を感じることができるからだ。


「ん…………あっれぇ? 素材にんげんじゃないか。んんここまで来れるのが来ちゃったかぁ~」


 奥から大量の魔力と声が響いた。間違いない、この魔力量はヴァルガスの時と同じだ。俺はいつでも戦闘に移れるように警戒していた。

 目の前に現れたのは黒い髪を緑の目をした魔人だ。間違いない。ヴァルガスほどではないが筋肉質な肉体をしている魔人は俺たちの方にゆったりと歩いてくる。


 マーレアさんが手持ち鋏を開いた。


「鋏よ、命を断ち切り、終焉を示さっ」


 その瞬間、詠唱中のマーレアさんが思いっきり斬りかかられる。高速で接近する魔人に俺は詠唱破棄した炎の鎧で間一髪ガードに成功するが、俺がマーレアさんとぶつかり、彼女の魔法は中断される。


 セレナが接近してきた魔人に向かって風の矢を放ち、ルーナは水球で殴りかかる。が、魔人は両手に持った剣でどちらも弾き、俺は蹴り上げられた。とっさに炎の鎧を腹部に形成しかけたが、間に合わず、俺は天井まで吹き飛ばされて、天井でバウンドし、床に叩きつけられる。セレナがもう一度攻撃するために飛び出そうとしていたが、マーレアさんに止められる。


「セレナさん、危険ですのでお下がりください。アクイラさん、お立ちなさい」


 俺は何とか立ち上がるが、まだダメージは抜けきっていないようだ。しかしマーレアさんはそんな俺の心配をせず、魔人に向き合った。


「あなたは何者ですか? なぜここに?」


 すると魔人は笑い出した。その不気味な笑い声は神殿内に響き渡る。そしてひとしきり笑った後、口を開いた。


「俺は魔の九将マギス・ノナの一人、光風魔将アウレリウスだ。急に攻撃されたからビックリしたよもぉ。まあ仲良くしようぜ素材にんげん!」

「私の魔法を攻撃と認知できたのですね」


 マーレアさんが言う。確かに、彼女の魔法を攻撃と認知するのは難しいだろう。


「ああ、空間を裂くとは恐れ入った。手元と俺の心臓の空間を繋げて直接心臓を斬る技は初めて見たよ」


 マーレアさんは顔を青ざめる。自らの手の内が割れた上に完全に防がれたのだ。


「しかし、俺の心臓を斬るのは無理だったな。タネが割れれば簡単だ、鋏を閉じる前にお前を倒せばいいんだから」


 アウレリウスはそう言うと、マーレアさんに向かって駆け出す。


「鋏よ、命を切りっ!!!!」


しかし、その詠唱は途中で中断された。あまりの強さの差に俺たちは手も足も出ない。


「速度不足ですか…………」


 マーレアさんが壁にたたきつけられた。


「マーレアさん!」


 彼女が先頭不能になればいよいよ勝ち目がない。ならば俺が取るべき行動は一つだ。


「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧エンフレクス・アルマ


 俺の全身が真っ赤に燃える。足元も燃え広がる勢いだ。


「ルーーーーー―ナッ!!!!」

「え? はい!」


 俺は大きな声でルーナの名前を叫んだ。


「マーレアさんとセレナを連れて集落まで戻るんだ!!!! 彼女を失うのが一番勝ち目が低くなる!! 俺を! 置いていけ!!!」


 俺は、ルーナにとって最も残酷な指示を出した。

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