第2章8話 紫花のマーレア
俺たちの喧嘩を強引に止めるマーレアさん。なるほど、この人ならこんな男と一緒にいても安全なのだろう。
「お二方とも、私は争いは好みませんの。ですからそのようなことは止めて下さいまし」
俺はレグルスの方を見たが、彼は舌打ちをしながら立ち上がり服についた砂を払っていた。
「ちっ、わかったよ。悪かったな」
レグルスはそれだけ言ってその場から離れて行ったのだ。残された俺とマーレアさんだけがその場に残ることになった。すると彼女は俺に話しかけてきたのだ。
「アクイラさん。お怪我はございませんか?」
「はい、大丈夫です」
俺はそう答えるが、彼女は心配そうな顔をする。そして俺の体に触れようとしたので慌てて止める。すると彼女は不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔になったのだ。
「では私はこれで失礼いたしますわ。また後程お会い致しましょう」
翌朝、朝食の準備をしているとエリスがやってきた。彼女は俺の顔を見るなり駆け寄ってきて抱き着いてきたのだ。そして俺の胸に顔を埋めてくる。どうやら寂しかったようだ。
「アクイラさん、私も調査班に連れて行ってください」
そう言うと今度は唇を重ねてきたのである。舌を入れられ絡められる濃厚なキスだ。しばらくすると満足したのか解放してくれたのだが、その際に糸を引いていたのがエロかった。
「…………悪い、話し合いの結果なんだ」
その後朝食を一緒に食べてからエリスは防衛班へと戻って行ったのだった。
食事を終えた俺たち調査班は魔獣の群れがなぜ発生したのか解明するため、こないだ発見したエリアより更に向こうに行くことになった。
俺が先頭を歩き、すぐ後ろにルーナ。その後ろにセレナがいて最後尾はマーレアさんだ。ルーナは俺の服の裾を掴んでいるが、俺は特に気にせず歩き続けた。
しばらく進むと開けた場所に出た。そこで一旦休憩をすることにする。
マーレアさんが飲み物を配ってくれたのでありがたく頂いていると、後ろから声をかけられた。
「アクイラさん。良い?」
声をかけてきたのはルーナだった。彼女の顔を見ると頬が赤くなっているように見えるが気のせいだろうか?
「どうかしたのか?」
俺がそう聞くと、彼女はモジモジしながら答えたのである。
「その……ただ最近蔑ろにされている気がして」
「そ、そんなことないぞ?」
確かに最近ルーナを構っていなかったかもしれない。そもそも今回も他の女性傭兵を同行させたのもルーナが心を開ける人間を増やすため。だが、実際は俺と彼女たちの親密度が上がっている気がする。
「だからその、甘えさせてほしいかなって」
そう言って俺の胸に顔を埋めてくるルーナ。俺は彼女を優しく抱きしめてやった。すると彼女は嬉しそうな表情を浮かべているのがわかる。そしてそのまま数分が経過した頃だろうか、不意に背後から視線を感じたので振り返るとセレナが羨ましそうにこちらを見ていたのだった!
「あ、いや違うの!」
セレナは慌てて否定している。あいつもこないだ抱きかかえて走った時から様子がおかしい。その状況が微笑ましかったのかマーレアさんは上品に笑っていた。
その後、休憩を終えた俺たちは再び歩き出すことになった。そして数時間ほど進んだ頃だろうか?
魔獣の群れを倒した場所にたどり着いた。こないだの戦闘跡もあるので間違いないだろう。しかし、このあたりには何もいない。
「もう少し奥に行ってみよう?」
セレナがそういうと感知魔法を発動する。
「風よ、我が周囲の脈動を感知せよ。
セレナの周囲に風が舞い上がり、その風が走りまたセレナの周囲に戻る。その速さはおよそ1秒間に50回程度だろうか?
「見つけたよ!」
セレナが指差す方向を見ると何かが動いているのが見えた。だが、距離が遠いためハッキリとは見えない。するとルーナがロッドを構える。俺も拳を構えて戦闘態勢に入る。
セレナもボウガンを構え、マーレアさんはそのまま立っている。カイラさんもそうだが、
相手がどんな魔獣か分からない以上、慎重に行動する必要があるからだ。
「アクイラさん、ここは私にやらせてほしいです」
ルーナが真剣な表情でそう言った。俺は少し考えた後許可を出すことにする。ルーナはやる気の様だが、相手がわからない以上、個人に任せるわけにはいかない。俺が止めに入ろうとしたが、マーレアさんが俺の前に手を出して静止する。
「マーレアさん!」
「問題ありません、私もサポートしますので彼女にやらせてあげましょう」
そういったマーレアさんは手持ち鋏をチョキチョキと鳴らしていた。俺は仕方なく引き下がる。
ルーナはゆっくりと魔獣に近づいていく。魔獣の姿はハッキリと分かるようになった。体長およそ2mほどだろうか、四足歩行で鋭い牙や爪を持っていることから肉食獣型魔獣フェロクアクトスだ。
ルーナはロッドの先端に水の刃を作りフェロクアクトスに斬りかかる。しかし、その攻撃は簡単に避けられてしまう。フェロクアクトスは素早く走りながら爪でルーナを切り裂こうとするが、彼女はそれをギリギリで避けた。しかし、その攻撃は彼女の肩をかすめる。
ルーナは痛みに耐えながらも魔法を使用する。
「澄み渡る水よ、癒しの泉となりて我が仲間を包め。
聖水の膜がルーナを包み込み、肩の傷が治っていく。ルーナの回復魔法だ。彼女は敵の攻撃を回避しつつ、今度は逆にこちらから攻撃を仕掛ける。
「流れよ、清らかな水の泉よ。我が杖に力を与え、水珠を創り出さん。
ルーナのロッドの先から水の塊が現れてハンマーになる。
「ガオォオオオ!」
フェロクアクトスが雄叫びをあげながら、ルーナに向かって突進してくる。しかし、その攻撃は読んでいたようで余裕を持って避けることに成功した。
「流れよ、清らかな水の塊よ。相手に落ち注ぎ、その力を示さん。
ルーナはロッドを振り下ろし魔法を唱えるとフェロクアクトスの上に大きな水の球体が現れた! その球体は徐々に小さくなりながら地面に落下していく。そしてそのままフェロクアクトスの体を押し潰していくのだ!
「ガァアアア!!」
フェロクアクトスが苦しそうな叫び声を上げる。
「これでもダメなの?」
ルーナは驚きの表情を浮かべていた。おそらく魔法の威力が足りないのだろう。その証拠にフェロクアクトスはまだ生きているようだ。
すると、マーレアさんが俺の前に出ると手持ち鋏で何かを斬り裂くように振るった。
「鋏よ、魔力を断ち切り、我が道を開け。
チョキンと音が鳴れば、フェロクアクトスは絶命した。俺はその様子を見て唖然としていた。
「マーレアさん、その鋏は?」
「ああ、これは私の武器ですよ。まあ、ただの鋏です」
そんなやり取りをしているとルーナが俺の元へやってきた。彼女は少し不満そうな顔をしているように見える。俺はそんな彼女の頭を優しく撫でながら言ったのだ。
「お疲れ様」
その後俺たちは森の奥にある湖の中央。そこには遺跡があった。そして遺跡には無数の魔獣。様々な魔獣が協力し合い生活していたのだ。魔獣たちは俺たちを見ると襲いかかってきた。気づかれたか!?
「仕方ありませんね。半分持っていきます。鋏よ、広大な領域を断ち切り、我が道を切り開け。
チョキンと鋏を鳴らすと、数十体いた魔獣たちが一気に一刀両断されて倒れていく。驚いたが、そんな余裕はない。俺の正面には翼のある変異体ウルシウスだ。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。
ウルシウスの顔面に炎の拳をお見舞いしてやった。空中の鳥型魔獣たちはセレナがボウガンを連射し、撃ち落としていく。中距離の雑魚はルーナがロッドを水属性の魔法で槍に変えて切り刻んでいく。
俺たちの陣営で取りこぼす魔獣は、いきなり一刀両断されていく。さすがに魔獣たちも逃げ始め、遺跡の奥へと逃げられてしまった。
「まあまあ本当に複数種類の魔獣が同時に人だけを襲っているみたいですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます