第2章7話 衝突

 話し合いの末、調査班は俺とルーナ、セレナにマーレアさん。防衛班はリーシャさんにエリス、風の聖女様とレグルスさんで決まった。

 後に全員で集まり、宿泊先について話し合いになった。宿泊は俺たちは今まで通りで風の聖女の家に聖女様とマーレアさん、レグルスさんの三人で宿泊することになった。はじめは風の聖女が男女で別れたらと申し出てくれたが、男が二人しかいないのとルーナが俺にしがみ付いた様子を見た彼女は何かを察したように「ああ、なるほど」と言って一人で納得していた。

 そしてレグルスさんだが、彼は一人の女性を見て、ニヤニヤとしていた。その視線の先にはエリスがいた。彼女はそのレグルスさんの視線に気付き、「ひっ」と言ってリーシャさんの陰に隠れてしまった。


「おい! なんで隠れるんだよ!」

「だ、だって……」


 どうやらエリスはレグルスさんが苦手なようだ。まあ、確かに彼は強面だしな。俺はそんな二人を見て苦笑するしかなかった。マーレアさんはそんな俺たちを見て微笑ましそうにしている。

 話し合いも続き時間もつぶれてしまった為、今日は全員で防衛。明日の朝から調査開始という方針になった。俺は集落の西側の見張り台に行くと、誰かがやってきた。


「あ、いた!」


 それはエリスだった。彼女は急いできたのか少し息を切らしており、その姿が可愛くて俺は思わず笑ってしまった。


「どうした? 何かあったのか?」


 俺が聞くと彼女は首をこくりと縦にうなずかせる。


「あのレグルスさん? ちょっとしつこいというか…………その……」

「ああ、まあレグルスさん。強面だしな」


 エリスの言いたい事はわかる。彼は確かに強面で、ちょっと怖い印象がある。それに、エリスの方をニヤニヤしながら見ていたもんな。不快だったのだろう。


「でも、私は……あの」


 彼女は少し言いにくそうにしている。俺は彼女の言葉を待つがなかなか続きが出てこないようだ。すると彼女が意を決したように俺を見つめると口を開く。


「アクイラさんはあの人より…………好ましいです」

「……ん?」


 俺は思わず間抜けな声を出してしまう。そして彼女はそのまま言葉を続ける。


「でも、あの人には……ちょっとその」


 彼女は顔を真っ赤にしてもじもじしている。俺はそんなエリスを見て微笑むと彼女の頭に手を置き優しく撫でる。


「ありがとな。俺もエリスは可愛いと思うし、好きだよ」


 俺がそう言うと彼女はさらに顔を赤くしてしまうが嬉しそうに微笑んだ後俺の腕に抱きついてきたのだった。そしてさらに腕に力を込める。


「あの……もう少しこうしててもいいですか?」


 俺は少し考えてから答える。


「……ああ」


 彼女は俺の腕に抱きつきながら嬉しそうに笑っていた。


「さっき、レグルスさんがその抱かせろって…………だからちょっとアクイラさんの傍なら安心かなって」

「俺は怖くないのか?」


 そういって俺は彼女の身体をジロジロ見た。


「え? 平気です。それにもうお忘れかもですが隷属の刻印がついてた時にあんな姿まで見せたじゃないですか」


 彼女は俺の身体を見つめ返す。そしてまた俺の顔を見る。


「アクイラさんなら、私……」


 俺は彼女の言葉を聞き終える前に唇を奪ったのだった。エリスは驚いて目を見開くがすぐに目を閉じて受け入れてくれる。しばらくそのままでいたが、やがて彼女が口を離すと名残惜しそうに見つめてくるのでもう一度軽く口づけをする。すると今度は彼女の方から積極的に求めてきた。俺たちは何度も唇を重ねた後、ゆっくりと顔を離すとお互い見つめ合ったまま固まってしまった。


「あの……今のって」

「……気にするな」


 俺は彼女の頭に手を置きポンポンと優しく叩く。すると彼女は気持ち良さそうに目を細めていた。

 しばらくそのままでいたが、やがて彼女が口を開いた。


「あの私……」


 エリスが何かを言いかけた時、マーレアさんが間に割って入ってきたのだ。


「はいはい! お二人ともそこまでにして下さいまし!」


 俺とエリスは慌てて離れるとお互い距離を取る。そしてマーレアさんは俺たちを見てため息をつくのだった


「お盛んなことはいいのですが…………アクイラさんは仮眠の時間ですよ? ここは私が変わります。エリスさんはどうされます?」

「す、すみません!」


 エリスは顔を赤くしながら慌てて謝罪する。俺も頭を下げて謝ることにした。その後、マーレアさんと交代し、民家に戻ってベッドに向かおうとすると、鐘の音が鳴る。襲撃を知らせる鐘の音だ。俺はすぐに民家を飛び出し、集落の入り口に向かう。するとそこにはすでにリーシャさんとエリスが到着していた。そしてレグルスさんもいた。

「襲撃か!」


 俺が頷くと彼女は槍を構える。俺も剣を抜き構える。


「来たぞ!」


 レグルスさんが叫ぶと森から魔獣たちが飛び出してきた。やはり数が多いな、ざっと見て20体以上はいるだろうか? しかしここで逃げるわけにもいかない、俺たちは戦闘態勢に入る。まずはリーシャさんの槍が魔獣たちに向かって投げられる。槍は勢いよく飛んでいき、魔獣たちの頭部を貫通して絶命させる。エリスも銃を構え、魔獣たちを撃つ。一体ずつ確実に仕留めていく。

 俺も拳に炎を灯し、魔獣たちに殴りかかる。俺の拳は炎を纏い、魔獣たちを焼き尽くすように倒していく。

 そして俺の上位互換といわれる男、上級傭兵ランクルビー獅子の戦士レグルス。


「炎よ、我が刀に宿りて煌めき、敵を焼き尽くさん。炎刃煌エンブレイズ・グローリー


 レグルスの曲刀に炎が集まり、その炎の刃で魔獣たちを斬り裂く。彼の曲刀はまるで太陽の光のように輝いていた。彼を中心に燃え上がる焔は周囲の敵を焼き尽くす。彼が通った後は草の一本も残らないだろう。それほどの威力がある技だ。俺は彼の攻撃を見ながら思ったのだった、やはりこの男の強さは本物だ。俺の上位互換というのも頷ける。そして数分ほどの戦闘の後、20体いた魔獣たちは全滅したようだ。俺たちが一息つくとレグルスさんが話しかけてきたのだ。


「…………アクイラ。強くなりたいか?」

「強くですか?」


 レグルスさんはニヤリと笑う。俺は彼の真意を掴めず、困惑してしまう。

 彼はそんな俺を見てまた笑った。


「俺が鍛えてやるよ」

「いいんですか?」

「ああ、その代わり条件がある」

「条件?」


 俺は首を傾げる。すると彼は俺の耳元で囁いたのだ。それはとんでもない内容だった。


「お前さ、女三人も連れてるじゃねーか。俺にも分けてくれよ?」


 俺は彼の言葉の意味を理解するまで数秒かかった。そして理解すると同時に顔が引きつったのを感じたのだ。彼はそんな俺を見てまた笑うのだった。


「返事は?」

「…………」

「おい?」

「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧エンフレクス・アルマ!」


 俺は手足に炎を灯し、レグルスさんに殴りかかる。


炎盾創造エンシールド・イグニス


 レグルスさんは詠唱破棄で炎の盾を作り俺の攻撃を簡単に防いだ。


「殺気が高いじゃねーか」


 彼は笑いながら言うが俺はまだ警戒を解かない。


「炎よ、我が手から放たれん炎弾、烈しく飛べ」


 レグルスが右手に炎の弾を作り、それを俺に向ける。

 俺はそれを防ごうと炎の鎧を前面に集中するが、相手の魔力量がどんどん増していく。 そのタイミングだった。


魔力断斬マジカ・セヴェリオ


 チョキンという金属音。そのあとすぐの女性の声が聞こえたと同時に、俺とレグルスさんの魔法が解除され、一気に脱力感に襲われる。俺たちはその場に倒れこむと、手持ち鋏を持ったマーレアさんがにっこりと笑っていた。

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