第2章6話 風の聖女

 集落の防衛をするため、最低三人は集落に残ることになり、俺は現在セレナの狩の護衛として同行していた。

 セレナはボウガンと風魔法の使い手で一定範囲内であればあらゆる生物まで位置を常に感知できる風魔法風脈感知フェンプルセンシオが使えるため、基本は安全だ。


 彼女の能力なら本当に同行はいらなかったかもしれないが、念のためだ。それに俺がいる事で狩の獲物を多く持って帰れるしな。

 そして今現在、俺とセレナは森を進んでいたのだが特に魔獣との遭遇はなく順調な道のりだ。

 しかし油断はできない。この森には危険な生物が数多く生息しているからだ。例えばオークやオーガなどの亜人系モンスターもそうだが、一番厄介な存在はやはり魔獣だろう。

 奴らは基本的に群れで行動しており連携して襲ってくるため非常に厄介だ。特に今回は…………同族以外で連携をとりかねない。


 セレナは猪を狩り使える部位をはぎ取っている最中だ。他のことに集中している時こそ周囲を警戒する必要があるな。

 そうしているとセレナが急に真上を確認すると頭上にはオレンジ色の鷹の魔獣 オレンジプテリス!?

 奴は高速で飛行し、上空から一気に獲物を狙う魔獣だ。橙色鷹オレンジプテリスならセレナの感知魔法に感知した瞬間にここまで一気に来て逃げる暇もないだろう。


「セレナ! 撃てるか!?」


 空中の敵となるとどうしても俺には対処不可能だ。せめて狩の瞬間であれば対応できるが。


「やってみる!! 風よ、我がボウガンの矢に加わり、疾風となれ。疾風矢付与ラピデウス・フラクトゥス


 セレナのボウガンに風が纏い、彼女はそれを放つ。その矢は橙色鷹オレンジプテリスの羽根に当たり地面に落とすことに成功した。


「やった!」


 喜ぶセレナ。だが、まだ終わっていない。地面に落とされた橙色鷹オレンジプテリスの羽根は燃え上がる。俺も全身を燃やしさないと触れないなあれは。


「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧エンフレクス・アルマ!」


 炎同士ダメージはないが、物理なら通る!!


「くらえ!」


 俺は拳に炎を纏わせ橙色鷹オレンジプテリスの胴体をぶち抜く。橙色鷹オレンジプテリスはそのまま絶命し地面に転がった。


「おお! やるねえ!」


 セレナは感嘆したように褒めてくれる。俺は少し照れくさくなりながらも答えた。


「まあな、これくらいはな」


 とは言ったものの、魔獣の中でも橙色鷹オレンジプテリスは炎でその身を護っている分、身体が柔らかいおかげだ。セレナの感知魔法は速い魔獣相手では機能しないみたいだな。


 そしてセレナは橙色鷹オレンジプテリスの素材を剥ぎとり、残りの肉を焼き始めた。香ばしい匂いが辺りに広がる。ちゃっかり料理を始めていた。


「うん! 良い感じに焼けたよ!」


 俺は遠慮なくその肉を口にする。これは美味いな。しっかりと歯ごたえがあるが程よい柔らかさもありとても食べやすいのだ。味付けが無い分、純粋に肉の旨みを感じることができる。


「美味いな!」


 俺が素直に感想を言うとセレナは嬉しそうに笑った。


「良かった! じゃあ、どんどん焼いちゃうよ」


 それからしばらく俺たちは肉を食べた後、再び歩き始めた。そしてまたしばらくすると今度は猪の魔獣が現れた。こいつは確か、アエオススウィヌスという魔獣で風属性の魔法を使い突進や凄まじい鼻息で攻撃してくる。


「今度は私がやるね!」


 セレナはそう言うとボウガンをアエオススウィヌスに向けて構える。そして風属性の魔法を発動したようだ。


「風よ、我がボウガンの矢に加わり、疾風となれ。疾風矢付与ラピデウス・フラクトゥス


 先ほどと同じ魔法でボウガンの矢に風の魔力を付与し、貫通力の高い矢で攻撃したり、交わされたら追尾までしていた。雑魚魔獣相手ならセレナ一人で無双できるな。俺は明らかな強敵以外は出番がなさそうだ。


 そうして昼も過ぎ、一定の成果を上げたセレナと二人で集落に向かうと、集落の方も襲撃にあっていたらしい。ルーナとリーシャさんとエリスの三人から襲撃に来た魔獣の話を聞くことにした。


 まず、襲撃してきた魔獣はオークとオーガだそうだ。どちらも人型の亜人で知能が高く、集団で行動することが多い。その数は20体ほどで、集落を襲ってきたらしい。だが、ルーナは水属性の魔法を使って敵を翻弄し、エリスは弓で援護しリーシャさんは槍で串刺しにしたらしい。


 そして今現在、集落は復興作業中であり、俺たちは手伝いをすることにした。

 終わった頃には夕暮れだ。俺は仮眠をとるため、民家のベッドに倒れこむと、何者かが潜り込んできた。


「アクイラさん、私も寝る」


 ルーナだ。なるべく他の人間に慣れてもらうため、彼女とは別行動を心掛けていた。しかしもう疲れているし、無理に拒絶する必要もないだろう。それにベッドに潜り込んできただけで何かされる訳でもない。


 俺はルーナを抱き寄せると、彼女は嬉しそうにスリスリと頭をこすりつけた。


「アクイラさん、あったかい。それにいい匂い」


 ルーナの柔らかい肌と体温を感じる。俺はそのまま眠りにつくことにした。夕飯までには誰かが起こしてくれるだろうし、このまま仮眠するか。

 身体を揺らされる感じがして目を覚ますとエリスが俺を起こしてくれていた。


「ん? ああ」


 ルーナはもう起きているみたいだったが、俺にべったりくっついているだけだった。俺は起き上がるとルーナも一回だけ離れてくっつきなおす。前までは一緒に横になってると中々離れてくれなくて起き上がれなかったが、最近はルーナも理解があり、起き上がるアシストまでしてくれる。

 食事をする際、俺の隣にルーナが座り、対面にリーシャさんが座る。その隣にエリスだ。ルーナが俺にくっつくたびにリーシャさんが何か言いたそうな表情をしていた。昨晩リーシャさんと俺は色々あったからな。

 お互い付き合ってる訳でもなければ、そういう関係を求められた訳でもない。ただ、意識はされるようになってしまったようだ。食事を終えてまた野営。魔獣の襲撃を防衛する毎日を五日ほど続けたタイミングで集落に来客が現れたのだ。


 俺は山道をたどって集落に現れた一行の先頭にいた女性。彼女は華やかな容姿をしていた。金髪が風になびき、灰色の瞳が優雅な雰囲気を放っている。


 その女性はライトブルーのシルク製のブラウスを着ており、柔らかな風に揺れるような素材感が優雅さを演出している。金色の刺繍や装飾が施されたブラウスは、彼女の優雅さを際立たせている。エメラルドグリーンのロングスカートは風になびくような軽やかなデザインをしている。スカートの裾には金色の模様が施され、彼女の華やかさを引き立てている。


 彼女の足元にはエメラルドグリーンのハイヒールシューズがあり、エメラルドの色合いで統一されている。


「はじめまして。私は風の聖女ゼフィラです。一応この集落出身ですので里帰りみたいなものですね。増援申請もありましたので伺いました」

「はじめまして。俺はアクイラと申します」


 俺が挨拶すると、風の聖女は俺をじっと見つめる。そして何か納得したように頷いた後、俺に話しかけてきた。


「なるほど、あなたが噂のベラの夫ね? 話は聞いてるわ」

「違います」


 間髪入れずに否定する。すると聖女ゼフィラはいたずらっぽい笑みを浮かべると俺に耳打ちしてきた。


「違うのね、ごめんなさい」


 どうやらからかわれたみたいだ。俺はため息をつくと彼女の後ろにいた二人に目を向ける。右側にいた彼女は華やかな容姿をしており、黒髪に紫色の瞳が印象的だった。

 彼女は紫色のシルク製のブラウスを着ている。柔らかな素材で、活動中でも快適に動けるようにデザインされている。彼女のスカートはライトパープルのフレアスカートで、優雅な花のイメージを反映している。動きやすさと美しさを兼ね備えており、彼女の優雅さを引き立てている。

 彼女の足元にはピンクの花をモチーフにしたフラットシューズがあり、作業に適した履き心地と、華やかな外観を兼ね備えている。


「あらあら、わたくしが何か?」

「あ、いえ貴女は聖女様の御付の方ですか?」

「ええ。ええ。その通りでございます私は紫花のマーレア。お初にお目にかかりますわ」


 マーレア!? マーレアといえば特級傭兵ランクダイヤモンドの中でも最強候補の一人、紫花のマーレアのことか?

 リーシャさんとエリスも名前くらいは聞いたことがあるようで、驚きを隠せないようだ。


「あら? もしかして私の事ご存じなの?」


 マーレアさんは口元を手で隠し、上品に笑っている。唯一ルーナだけは彼女がすごい人とわかっていないようだ。セレナは傭兵でもないし、集落の人間でもないから知らないかと思ったが、普通に久しぶりと言って手を振っていた。

 どうやら風の聖女が里帰りを頻繁にするせいで御付きの方々と集落の方々は顔見知りの様だ。

 そしてもう一人の風の聖女の左側にいた男。赤い髪に黒い瞳の男はがっちりとした筋肉質の肉体で赤いジャケットを羽織った剣士だった。持っている剣は片刃の曲刀のようだ。


「…………」

「貴方も名乗りなさいレグルス」

「…………ん? 名乗る流れだったか。俺はレグルス。獅子の戦士と呼ばれている。次の流れは?」


 獅子の戦士レグルス。赤い炎を剣と拳に纏って戦う俺の上位互換のような男だ。さらには炎の盾を広範囲で展開したり、火炎弾も放てると聞く。あまりにも上位互換でギルドではよく比較されていた相手だ。あったことなかったけどな。


「俺はもう名乗りましたね、一応、隣の銀髪の子はルーナです」「ん。よろしく」

「私は突撃のリーシャだ」「華の射手のエリスです」


 自己紹介を済ませて、風の聖女は俺たちを見回した。すると彼女が提案する。


「私は一度自宅に帰るわ。マーレアとレグルスは現状把握をお願い」

「ええ、わかりましたわ」「ああ、そういう流れね」


 風の聖女はその場を後にする。状況説明のため、里長の家に俺とリーシャさん、マーレアさんとレグルスさんが集まり、ルーナとエリスに周辺の見張りをお願いした。


 集落への魔獣被害の頻度の事と他種族の魔獣が群れになって一緒に行動していることを二人に話し、襲撃頻度や群れの位置などを伝える。


「? えっと? んー? …………わかったかマーレア?」

「ええ、問題ありません」

「よぉし! 大船に乗れたな!」


 とりあえずこのレグルスさんいらねーんじゃねーの?

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