第2章5話 見張り台の上
もし今襲われれば二人だけだと心配だ。急いで俺とリーシャさんはすぐに走り出した。山の傾斜は強いが、俺たちが全力疾走すれば着くのにそこまで時間はかからないだろう。走りだすとセレナが遅れそうになったことに気付き、俺はセレナの腕を引っ張った。
「来いセレナ!」
「ちょっと何するの!?」
俺はセレナを横抱きしてリーシャさんと顔を見合わせる。そして二人同時に魔法の詠唱を始めた。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。
「速さよ、我が足に宿りて迅速となれ。
俺とリーシャさんはそれぞれ魔法を使う。リーシャさんのは単純に足を速くする魔法でスピードが上がり、俺は炎の鎧を背中にと足に形成し、背中と足の裏から炎を噴射して加速した。
そして俺とリーシャさんは山奥にある集落に戻った。高速で戻ってきたおかげか、集落はまだ襲撃にあっていない様子。すごい速さで戻ってきた俺たちにルーナとエリスは驚いて駆け寄ってきた。
そしたら、ルーナは突然俺を見て不機嫌そうな表情に変わった。
「アクイラさん。その娘は誰? また新しい女?」
ルーナの視線の先には、俺に横抱きされたセレナの姿だった。セレナはセレナで顔真っ赤で硬直している。確かにこれは勘違いされる。いや、俺彼女いないけどね?
「ルーナ、落ち着け。この方が速く移動できてだな」
「アクイラさん。言い訳は見苦しいよ?」
真顔のルーナの一言で俺は何も言えなくなった。その後、リーシャさんが代わりに説明する。
「さきほど実際に異変を確認してきたから情報の共有をしたい。ルーナちゃん、エリス聞いてくれるか?」
「はい、リーシャさん」「ん。わかった」
ルーナさん、もう少し俺の話も聞いてもらえますか?
「あ、あの?」
急に横抱きしていたセレナが俺に話しかけてきた。顔が紅く目を反らされる。さすがに気付いた俺はセレナを下ろしてやった。
「わ、悪かった」
「い、いいよ。アタシも状況は理解してっから」
セレナは照れてルーナはどんどん表情に闇を感じてきた。
なんかぎこちない雰囲気をどうにかしようとしたのか、リーシャさんがぱんっと手を叩く。
「さて! 一度状況を整理しよう」
俺たちは集まって話し合いを始めた。まず今回の異変について話しはじめると、やはり皆がそのことについて不安を抱いており、情報を求めてきた。なので俺とリーシャさんは見た事と説明した。
するとエリスがぽつりと呟く。
「その魔獣たちは連携して襲ってきましたよね?」
「そうだな」
俺が答えると今度はセレナが言う。
「ごめん。こっちとして異変はいろんな魔獣が集落に来る頻度が上がったことばかり気にしてて魔獣たちが連携していたなんてそこまで重大だと感じてなかったんだ」
狩中心で素人のセレナに魔獣の知識なんてなくても仕方ないだろう。むしろこんな環境下の中で狩をしていて集落までよく帰ってこれたものだ。
「でも、連携して襲ってくる魔獣なんて聞いたことありません」
エリスもそう言う。しかし、ルーナだけはピンと来ていなかった。ルーナはまだ
「本来、魔獣は同族以外は全部敵なんだ。つまり魔獣同士が出会えば襲い合うのが普通なんだ。それなのに他種族の魔獣がいても争わないのは殆どあり得ない」
少なくとも俺の経験にはない事態だ。しかし、この異変の根本はそこではない気がする。俺はそのことについて話そうと思った。
「一度、状況を聖女様に報告する手紙を出そう。そして可能なら増援だな。それまで俺たちは集落の防衛だけしていこう。調査再開は増援が来てからでいいか? またセレナの狩だが魔獣の少ないエリアなら護衛一人で大丈夫か?」
「うん。普段アタシが狩ってるエリアは魔獣が少ないから大丈夫」
「よし、じゃあ決まりだな」
俺たちはその後、それぞれ準備をして行動した。リーシャさんが報告として地の聖女に手紙を送っている。俺が送った方が喜ばれるといわれたが、俺はリーシャさんにお願いした。
大きな見張り台の上、俺はそこにいて魔獣の襲来がないか待機していた。
夜になり俺は一人で見張りをしていた。しばらくして俺の元にリーシャさんがやってきた。
「アクイラ。少しいいか?」
「はい? どうしましたか?」
するとリーシャさんは俺の隣に座り話始めた。すぐ横に座られたせいかリーシャさんの身体がぶつかり、彼女の体温が伝わってくる。
「怖いな、傭兵になって何度も危険な目にあったが、こないだの異変や今回の件。何より、
リーシャさんの話からして、彼女も今回の異変がかなり危険だと感じているようだ。そして俺たちはこれから魔族との対決があるだろう。名前の通りであればヴァルガスのような魔族があと八人もいる。不安に思っても仕方ない。
特に俺はあの時はカイラさんという切り札ありきの勝利だ。
ここはもう男らしく行こう。俺は不安そうにしているリーシャさんの肩を抱き寄せた。
「大丈夫です」
俺なりに安心させようと言葉をかけたつもりだったが、リーシャさんは俺の方にもたれかかってきた。
「そうか、そうだよな。お前は強いもんな」
リーシャさんはそう言うと更に体重を俺に預けてきた。少し照れくさくなるが、俺もリーシャさんにもたれかかるように抱きしめた。そしてそのまま俺たちは見つめ合うと自然と顔が近づき、唇と唇が触れ合った。俺はそのままリーシャさんの小さな唇を舌で舐める。すると彼女は口と目を開き驚きの表情を浮かべるが、すぐに静かに閉じた。それを許しと判断し俺も舌を入れて彼女の口腔内を堪能した。
あぁ、気持ち良いな……もっとしたくなる。彼女の顔を見たら真っ赤になっていた。
「あぅ……」
可愛い声だな。俺はそのまま彼女の舌に自分の舌を絡める。そして唇を離した。
リーシャさんの口元からよだれが垂れていたが、彼女はそれを拭こうとせずに惚けていた。
「リーシャさん……」
俺は彼女の耳元で囁くと、彼女はぴくんと反応した。そして彼女もまた俺の名前を呼んだ。
夜遅くとはいえ集落の中では皆の眠りを妨げないように音は立てないが、俺たちは交代の時間までお互いを求め続けた。
翌朝、夜は適度に魔獣の襲来があったがその都度起きていた見張り番で対処できる規模だったため、特に夜の状況の共有はなく一日を迎えた。
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