第2章4話 集落近辺の異変調査

 翌朝、俺が目を覚ますと既に他の3人は起きていたようで朝食の準備をしていた。

「おい、早く起きろ。飯ができたぞ」


 リーシャさんのその声に起こされた俺は起き上がると伸びをする。するとリーシャさんがこちらを見ながら尋ねてきた。


「昨夜は私達に何かしなかっただろうな?」


 その言葉に思わずドキッとするが平静を装って答えた。


「なんにもしていないさ」


 俺がそういうとリーシャさんは疑いの目を向けてくるがそれ以上追及してこなかった。その後、俺たちは朝食を食べ終えるとすぐに出発することになった。集落の防衛にルーナとエリスを残して、俺とリーシャさんは森の中を進むことにした。

 そして集落の外を調査しようと外に出ると里長のおじさんとセレナがいた。


「傭兵! ……おはよう」


 セレナは一瞬、ボウガンを構えそうになったが、すぐに下ろした。そして俺たちも挨拶をすると、里長が声をかけてきた。


「ああ傭兵様方、これから山に行かれるのだろう? であればウチのセレナを連れて行くとよい。山に慣れている故、迷うこともない。それに異常を知るには里の者と行動する方が早かろう」


 なるほど確かにそうかもしれない。山に詳しいものが同行してくれるなら安心できるだろう。そう思っていた矢先にセレナが声を上げた。


「い、嫌よ! なんでアタシがそんなめんどくさいことをしなきゃいけないのよ!」


 どうやら彼女はあまり乗り気ではないようだ。すると里長はため息をつきながら言った。


「よいか? これも里の為だ。それになセレナ、主もどうせ山に行って狩をせねばだろう」


 諭すように言うと彼女は渋々ながら了承したようだった。そしてそのまま俺たちは出発したのだが、道中での会話は皆無だった……というより俺が話しかけようとしたら睨まれたからだ。結局一言も交わすことなく目的地に到着したのだった。

 そこは切り立った崖のような場所で、見上げるほどの高さがあった。そして俺たちは山の中腹まで登り始めたのだった。

 しばらく進んだ後のことだった。突然セレナが立ち止まり言った。


「魔獣よ。猪型ね」


 どうやら近くに魔獣の気配を感じたらしい。俺も周囲を警戒しつつリーシャさんの方へと近づいていくと彼女は槍を構える。すると目の前の茂みから何かが飛び出してきた! それは大型の猪の様な魔獣で牙が大きく発達していた!


「下がれ!」


 そう叫びながら俺は前に出ると拳に火を灯す。そしてそのまま魔獣に向かって殴りかかった。


「はあっ!」


 俺の拳が魔獣の顔面に直撃すると、その衝撃で魔獣は大きく吹き飛び地面に倒れた。俺はすかさず追撃を加えようとするがその前にリーシャさんが動いた!  彼女は槍を構えて突進する。そしてその勢いのまま突きを放つと見事に心臓を貫いた!


「やったな!」


 俺がそう言うと彼女は少し照れくさそうにしながら答えた。


「まあこの程度なら楽勝だな」


 そう言って笑う彼女の姿はとても頼もしく見えた。その後、俺たちはさらに山の中を進んで行ったのだった。後ろには一応ボウガンを構えていたセレナ。セレナは俺たち二人の動きを見ていて小さく「やるじゃん」とつぶやいた。こうして俺たちは山の奥へと進んで行ったのだった。

 それからしばらく進むと、また魔獣が現れた。今度は魔熊ウルシウスだ。しかもかなり気性が荒いようで唸り声を上げながらこちらに向かってくる。その迫力に一瞬怯んでしまったが、すぐに立ち直ると俺は構えた! そして魔獣が飛びかかってきた瞬間に拳を繰り出す! しかし俺の攻撃は避けられてしまった。そしてそのまま爪で攻撃を仕掛けてくる!


「うおっ!」


 間一髪で避けることができたが、体勢を崩してしまった。そこにすかさず追撃が来る!


「貫け!!!」


 リーシャさんが横からウルシウスの脇腹に槍を突き刺すが、まだウルシウスは元気だ。しかし、槍が刺さって動きが鈍ればこっちのものだ。俺は紅く燃える腕をウルシウスの首元に叩き込む。ウルシウスは大ダメージを受けたのかよろけ、引き抜かれた槍の傷跡から一気に大量の血が噴き出した。俺はその傷に腕を突っ込み体内からウルシウスを焼き尽くした。


「助かったリーシャさん」

「当然よ。むしろ槍の威力だけだったらもう少し時間がかかってこっちも助かったわ」


 俺とリーシャさんの連携はそこそこ上手くできていた。セレナも魔獣の察知と案内だけでボウガンの出番は狩の時だけになりそうだな。その後何度か魔獣との戦闘があったが、特に問題なく倒すことができた。こうして俺たちは順調に山奥へと進んでいくとセレナがある場所で止まる。


「この先、ちょっとやばいのかも」


 そういわれ俺とリーシャさんが茂みから様子を見ると、そこには魔獣たちが集まっていた。しかもかなり多くいるようで、ざっと見ただけでも10体以上はいた。


「これはまずいわね」


 リーシャさんがつぶやく。確かにあの数だと厳しいかもしれない。しかし、ここで逃げるわけにはいかない。気になるのは、同じタイプの魔獣でなく群れをなしていることだ。


「これだようちの集落の近辺の異変。集落を襲う魔獣も種類が一種類じゃないんだ」

「……多種多様な魔獣の群れか」


 もしそれが本当ならば厄介だな。


「よし! まずは俺とリーシャさんで突っ込むぞ。セレナは可能なら援護を頼む」


 すると二人は黙って頷いたので俺たちは一斉に飛びかかった!


「行くぞ!」


 まず最初に俺が突っ込み攻撃を繰り出す! 俺の拳はウルシウスに命中するが、あまり効いている様子がない。くそッ……こうなったらもっと火力を上げるしかないか! そう思った瞬間だった! 突然、俺の体に衝撃が走ったかと思うと吹き飛ばされる!? 一体何が起こったのかわからないまま俺は地面を転がった!


「大丈夫か!!」


 リーシャさんが駆けつけてくれた。どうやら紫色の蛇魔獣パープラセルペンス の尻尾により叩きつけられたようだ。すると今度は俺の横を何かが通り過ぎていくのが見えた。それはボウガンの矢だった。矢は俺の身体を綺麗に避けてウルシウスに命中したのだ。

 セレナは的確に俺たち二人のサポートをしてくれてるようで援護射撃としてボウガンを使っているらしい。しかしそれでも魔獣たちは怯まずに襲い掛かってくる!


「くそッ!」


 俺とリーシャさんは再び魔獣の群れに向かって行く!  そして俺は脚に炎を集めながら飛び上がり、一気にかかと落としを決める。ウルシウスは燃え上がり、討伐に成功。


 リーシャさんもオーレアタイガーと呼ばれる虎の魔獣を貫いて討伐していた。セレナのボウガンは自在に動き、確実に敵の急所を狙って狙撃していた。


「風魔法か」


 どうやらセレナは風魔法の使い手でボウガンの矢を自在に動かせるくらいにはコントロールできているらしい。もし傭兵なら初級傭兵ランクサファイアを名乗れるくらいにはすでに実力が備わっている。


「これで最後だ!!」


 俺は残った魔獣に炎を纏ったパンチを繰り出した。その拳は魔獣たちを焼き尽くし、完全に息の根を止めた。


「ふぅ……終わったな」


 俺たちは一息つく。倒した魔獣たちはそのまま放置するわけにもいかないので、全て回収し山奥に埋葬することにしたのだ。しかし、この数だとかなりの時間がかかってしまいそうだ。セレナは矢を回収していた。


「それにしてもこれはまずいな」

「ああ、はやくエリス達に伝えなければ」


 俺がつぶやくとリーシャさんがすぐに同意をする。通常、魔獣は同じ種類の魔獣と群れをなして共闘することはあるが、今みたいに複数種類の魔獣が同じ場所に集まっているのは異常である。


 現状の戦力だけで戦えないこともなさそうだ。しかし、むしろ集落の方が不安なレベルになってきた。ルーナもエリスも魔獣に後れを取るほどではない。しかし、それは一種類ごとであればだ。状況に応じて対応ができるのかわからない。


「セレナ、集落で戦える人間はどのくらいいるんだ?」

「えっと……数人いるかな。でもあなたたちみたいに対応できるとは思えないわ」


 セレナの表情は曇っている。だが、戦えない訳じゃないことが分かれば大丈夫だ。


「よし! そうと決まれば急ぐぞ!」


 俺たちは一度集落に戻り、ルーナやエリスに情報共有することにした。

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