第２章
第２章１話 新たな依頼
聖女様失踪事件から数日後。あれから俺たちはそれぞれの日常に戻りながらも、魔獣活性化という本来の調査にあたるのだった。
カイラさんは相変わらず俺の家で生活をしているが、前回のゴブリンの巣のような魔族側の拠点がまだあると考えていて、個人で近辺を動き回って調査をしてくれている。最低でも三日に一回は帰ってきていて、もし帰りがなかった場合は私に何かあったと思えと言われた。一応、前日にはカイラさんの捜索予定エリアも頂いているので、何かあればそこを探れば良いのだろう。
地の聖女と付き人であるシルヴィアさんとネレイドさんはテミスの街に戻り、ルナリス側以外でも異変が起きているらしく、そちらの地域の調査に向かわれたらしい。進展はわからないが、地の聖女からは、ほぼ毎日のように手紙が届いている。手紙が届いているのに進展が分からないのは手紙の内容がほぼラブレターだからだ。手紙にはベラとお呼びくださいと書かれていたが、しばらくは聖女様とお呼びしよう。
リーシャさんとエリスの二人はルナリスのギルドで依頼を受けながら、たまに情報交換をする仲になった。エリスは警戒されつつも友好的だが、リーシャさんはもう槍で殴ることに遠慮がなくなっている。なのでこっちも遠慮なくお触りしている。おかげで最近は出会い頭に殴られる。
それから最後にルーナだが…………相変わらず俺にべったりだ。ほとんど彼女は家に帰らない。正確には帰宅は毎日しているが、眠るのは家だ。カイラさんが泊まる日は絶対にいる。俺とカイラさんを二人きりにしないという強い執念を感じる。そんなこんなで、ここ数日は平和な日々を過ごしていた。
依頼もあえて倒しなれた魔獣か雑魚を選んでいた。なぜなら活性化が分かりやすいからだ。しかし、異変の解明が遅れている現状では魔獣討伐の任務をこなすしかなかった。
そんなある日のことだった。いつも通りギルドで依頼を受けようとした俺たちは、受付嬢のリズさんに呼び止められた。
「アクイラさん！」
「何ですか？」
「ベラトリックス様から指名依頼ですよ灼熱の拳様？」
「俺がその二つ名嫌いって知っててわざと声に出してますよね？」
しかし、地の聖女からの依頼とは何だろうか。そう思い、手紙を受け取ると、なんでも森の奥にある集落からの依頼を回されたらしい。内容は、魔獣に襲われている集落の救援だ。問題なさそうだし俺は引き受けることにした。
集落は遠いので一度家に帰ってカイラさん向けの書置きでも残していこう。そう思い、俺はギルドを出ようとしたら依頼掲示板の前に最近、見慣れるようになった二人組を見かける。
長い金髪に大槍を背負った女性と黒髪の女性の二人組だ。金髪の方は青いマントを羽織った後ろ姿で黒髪の方は茶色いジャケットを羽織っている。
俺は金髪の方を後ろから思いっきり抱きしめてやった。
「ハローマイハニー！」
「うぎゃああああああああああ！？！！？！？！？！」
金髪の女性は奇声を上げた。俺は満足しながら彼女から離れると、今度は黒髪の女性の前に立つ。彼女は俺の顔を見た後、目を反らされながら挨拶された。
「おはようございますアクイラさん。その…………リーシャさんも困っているので……そんなに女性に困っているなら相談に、相談に乗りますからやめてあげてください」
エリスは良い子だ。この二人とはいつもこんな挨拶をしている。
「ちょっとエリス！ こんな男の相談に乗ったら妊娠しますよ！？」
「相談だけで妊娠するなら、先に妊娠するのはお前だな」
「わっ！？ 私をは、孕ませるというのか！？」
俺とリーシャさんのやり取りを見ていたエリスは苦笑いをしている。
「その挨拶、ルーナちゃんの前ではやめてくださいね？ 本当に怖いんで」
エリスに言われて周りを見渡すと真顔で俺を見ているルーナの姿。しかし、リーシャさんとエリスは気づいていないようだ。俺はルーナに近づくと彼女に声をかけた。
「おまたせルーナ」
「アクイラさん？ 浮気？」
まずルーナと恋人でもないんですが…………。
「挨拶だ挨拶！ 過敏になりすぎるなルーナ」
俺はルーナの頭を撫でてやると、ルーナはもぞもぞと俺のことを抱きしめて安心したような表情になっていく。やはり彼女は俺から離れるとどこか不安を感じているところがある。少しでも慣れ親しんだ人が増えると良いのだが、ここまでスキンシップ過剰なら男はダメだな。そう思い顔をあげると、そこにはリーシャさんとエリスの二人。
「そうだ、リーシャさんにエリス！ 今何か依頼って受けているのか？」
俺はあることを思いつき、二人に質問を投げる。それにリーシャさんが答えてくれた。
「依頼ならこれから受けようと探していたところです」
「私も！」
エリスは元気よく手を上げて答えた。二人の答えを聞いて俺は思わずニヤけてしまう。
「それはちょうどよかった！ 今から森の奥にある集落を救援に行くんだが、聖女様経由の依頼だ。調査関連かもしれないし、戦力が欲しい。よかったら手伝ってくれないか？ 報酬も払うけどどうだ？」
リーシャさんとエリスは驚いたような顔で俺の顔を見ている。依頼を受けないかと誘っただけなのに、表情はどんどん青ざめていく。いや、視線も俺の脇を見ていると、そこにはちょうどルーナが…………。
「アクイラさん。やっぱり浮気なんですね？」
怖い笑顔で俺の手を握るルーナがそこにはいた。俺は急いで彼女の手を握り返すとルーナは少しだけ機嫌を取り戻したようにいつもの無表情に戻る。それを見たリーシャさんがすぐに口を開いた。
「依頼は構わん。手伝うべきなのはわかるが、カイラ様はどうされた？ それとアクイラ。お前は就寝時拘束で良いのか？」
「カイラさんは別件の調査中だ。あと俺の拘束はリーシャさんの密着で大丈夫だ。それでエリスは守られる」
「私が守られていないだろう！？ そしてそう思うなら君が手を出すのを止めるんだ！」
「アクイラさん、それは私がやる」
リーシャさんの問いに俺が答え、ルーナが別の提案をする。
色々くだらない話し合いが続いた結果、二人の同行が決まった。リーシャさんたちにもルーナの依存の件や、ルーナの心を開ける人間をもっと増やしていきたいことを伝えると、二人はそういうことならと納得してくれた。てゆうか、あれだけ過剰なスキンシップしてるのについてきてくれるのリーシャさん俺のこと好きなんじゃない？
そのあと、俺たちはルナリスの街を出る準備をし、集落までの道のりを確認する。集合時間まで時間があるので俺とルーナはギルドの酒場で食事をして待っていた。するといつものイグニス、ヴァルカン、ゼファーの三人に話しかけられた。
「ようアクイラ。今日も色男だな」
「その挨拶、ルーナの前でするなよ？」
俺はイグニスに忠告する。しかし彼は笑いながら俺の肩をバンバン叩くと、今度はヴァルカンが口を開いた。
「それで？ 今日は何しに行くんだ？」
俺は今日の依頼について話せる範囲で話した。魔獣の活性化の異変調査について口外範囲が狭い。理由までは俺も知らないが、混乱を防ぐことが目的なのだろう。もっとも、混乱を防ぐことを目的にして強化された魔獣と戦わされるのは混乱を生まないのだろうか。上の考えることはわからん。
とにかく、こいつらが異変調査の事情を知っているかどうかわからないなら、言わないが正解だ。
「なるほどな。俺たちも暇だから着いて行っていいか？」
「過剰戦力だ。
もし、
ヴァルカンの提案に俺は断り、三人は納得してどこかに行った。最後の最後でゼファーがこっちを見て一言だけ呟く。
「お前んとこ、相変わらず男はアクイラだけだな。いつの間にモテ始めたんだ？」
「嫌味か？」
「たまには言わせてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます