第1章15話 打ち上げ
俺たちはそれぞれ帰りの支度をしていた。ルーナと地の聖女の二人でシルヴィアさんたちの回復をしてあげていた。
「助かりました。カイラ様とその仲間たち」
どうやら俺たちはカイラさんを中心とするパーティと認識されているようだ。別に組んだ訳ではないが、仲間じゃない訳ではないし、わざわざ否定する必要はないだろう。地の聖女がカイラさんに握手しているときに、シルヴィアさんはルーナに、リーシャさんが俺に手を差し出した。
俺がリーシャさんの握手に応えようと手を指し伸ばした時だった。
「そういえばアクイラは気絶させたリーシャ君のスカートの中を見ようとしていたな」
「え? カイラさん? それ、今言うんですか?」
驚いた俺は横にいたカイラさんの方に向いてツッコミを入れる。そして俺は恐る恐るリーシャさんの方に視線を戻すと、リーシャさんの頬はみるみる赤くなり、こちらを凄い形相で睨んでいた。
「へ?」
次の瞬間には俺の股間に激痛が走り、俺は地面に倒れた。
「あ……が……」
俺は言葉にならない声を出す。シルヴィアさんやカイラさんもこれには驚き、ルーナと地の聖女もこちらを見ている。
「お気の毒ですアクイラ様」
そう言って地面に倒れた俺を見下す地の聖女。せめてそういうのは…………こういういい雰囲気の時にはやめてくれよな。
俺の横で笑い転げるカイラさんと、ジト目で俺を睨むルーナ。
帰り道、負傷者もいた為、ゆっくり帰ることとなり、道中野営をする際は俺は拘束されていた。
ルーナは拘束された俺をずっと世話してくれたまるで天使だな。それに比べてカイラさんは俺を椅子にしたりするし、リーシャさんは少しでもセクハラと感じたら平気で槍で殴ってくるものだ。暴力反対。
でもカイラさん座るとき普通にパンツ丸見えだしお尻柔らかくてすごくよかった。座られる趣味はないけど、すごくよかったんだ。
そして俺たちは無事ルナリスの街に帰り着きギルドに報告を済ませた。ギルドではレアさんが俺たちを待っていてくれた。
「よくやったなお前ら! よし、報酬は弾んでおくよ。聖女様ご一行も旅の疲れを癒してから元の街に戻るとよい」
レアさんは豪快に笑って俺たちの労をねぎらった。そして聖女がそれに応じる。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
地の聖女は深々と頭を下げてレアさんにお礼を言っていた。地の聖女の密命や失踪は公にしていないめ、今日のことは一部の人間だけで打ち上げをすることになった。
メンバーは俺とルーナとカイラさん。地の聖女様とそのご一行、ギルドマスターのレアさんに受付嬢のリズさんだけで行われている。
俺の両隣は当然ルーナとカイラさんだ。ルーナは完全に密着しているし、カイラさんも肩がぶつかる距離でかなり近い。
「しかし、これではまるでアクイラのハーレムだな」
カイラさんが笑いながら言うと、ルーナは不機嫌そうな顔になり、レアさんや地の聖女様は笑っていた。リーシャさんとエリスは顔を紅くして俯いている。
「私は嫌ですよ? こんな変態のハーレムだなんて」
ついにリーシャさんが起こり気味で怒鳴っていて、みんな笑っていた。ルーナは凄い形相で俺を睨んだ。でもその表情もすごく可愛い。俺はルーナの頭を撫でる。
するとリーシャさんが口を開けた。
「そ、そういえばお二人は恋人同士なのですか?」
リーシャさんは、顔を紅くしながら、じーっと俺を睨むように見つめて質問する。
突然の言葉に驚く俺とルーナだったが、否定する前にカイラさんが俺の腰に手を回してきた。
「いいやルーナ君ではない彼女は私だ、私たちは将来を誓い合った仲なのだよ」
自信満々に答えるカイラさんだ。おかげでルーナがついにフォークで俺の腕をグリグリし始めた。
「まぁ! そんな素敵なお相手がいるなんて羨ましいですわ!」
どうやら地の聖女は恋愛には疎いらしく、すぐに信じたようだ。
そしてレアさんもそれに乗っかり、俺に質問する。
「アクイラ、お前はその気があるのか?」
「いや、いつ誓ったのか全然わかりませんし、この人の言葉を信じないでください」
俺はカイラさんの言葉に反論した。しかし、レアさんは俺の言葉を聞かずに話を続ける。
「そうか……ではアクイラはルーナ君とそういう仲なのか?」
「え? いや」
俺が否定しようとすると、ルーナはフォークで俺の腕をさらに強くグリグリする。
「い、痛い! あだだだ!」
そんな俺の様子をみんな笑いながら見ていた。すると、リズさんが料理を運んできてテーブルに並べた。どうやら俺たちがいない間に準備していてくれたらしい。特にリーシャさんがいい気味だといわんばかりの表情をしてやがった。酔いが回ったころに強引に隣に座ってきて鬱陶しいほど密着してやる。
「では乾杯をしようではないか」
レアさんの言葉で、俺たちはグラスを持つ。
「聖女様の帰還に! カンパーイ!」
『カンパーイ!』
みんなは一斉に酒を飲み始めた。
「ぷはぁ~やっぱり酒はうまいな!」
レアさんとカイラさんは豪快に酒を一気飲みしていた。対してリーシャさんは顔を赤くして俯き気味にチビチビ飲んでいる。エリスとシルヴィアさんとネレイドさんは上品に飲んでいる。俺はルーナと乾杯をして食事を開始した。すると地の聖女が話しかけてきた。
「あのアクイラ様」
「はい? なんですか?」
「今日は本当にありがとうございました。道中、私達を最初に発見してくださったのはアクイラ様とエリスからお聞きしております。貴方に見つけていただけなければ私たちはまだあの洞窟の中にいたでしょう」
彼女は俺に向かって丁寧に頭を下げた。そんな聖女を見て、俺は素直に思ったことを口にする。
「依頼の道中ですからね。俺じゃなくても早いうちに別の傭兵が見つけてくれてましたよ」
すると地の聖女は何故かもじもじしながら俺に質問してきた。
「それだけではございません。ギルドマスター様は私の捜索をアクイラ様に直接依頼されたそうではありませんか。聞けばカイラ様がいなくても貴方様に依頼するとおしゃっていました。そして貴方は実際に私を救ってくださりました」
なるほど、それで礼を言いたくて話しかけてきたのか。わざわざ律儀な人だな。そんなことを考えていると地の聖女は顔を赤らめながらモジモジしている。
「あのアクイラ様、もしよろしかったら私とおつき合いしていただけませんか?」
俺は思わず飲んでいた酒を吹き出すところだった。ルーナはフォークで俺を指しまくるし、カイラさんは笑いながら俺の肩をたたき始めた。
シルヴィアさんは噴き出してネレイドさんはフォークから肉を落とす。リーシャさんは声を荒げて「聖女様!?」と叫ぶし、エリスは方針していた。
レアさんはカイラさん同様笑っていて、リズさんは注いでいたお酒を注ぎっぱなしにして零していた。
「い、いやちょっと待ってくれ。どうしてそういう話になったんだ?」
俺は慌てて地の聖女に質問した。すると彼女は満面の笑顔で俺に口を開く。
「あの魔族に打ち勝った姿が忘れることができないのです」
「えっと…………」
そう言って彼女は俺のことをじーっと見つめる。さてなんて答えよう。とにかくルーナが怒っていることだけはわかる。しかし、聖女様をふっていいのか? 答えに詰まっていると、地の聖女は突然立ち上がり俺の側にやってきて跪く。
「どうかお願いします。私の身も心も貴方様に捧げとうございます」
そう言って俺の右腕を掴み聖女様は抱きしめてきた。俺は助けを求めて周りを見るが誰も助けてくれないどころかむしろ興味津々でこっちを見ている。エリスはどうなるんだとハラハラしているし、シルヴィアさんは嬉しそうに見ている。リーシャさんは顔を紅くして震えていた。カイラさんとレアさんに至っては大爆笑だ。笑い上戸共め。
俺はとりあえずせっかく押し付けて貰った胸の感触を楽しみながら、困っているフリをすることにした。
「聖女様、顔を上げてください。俺なんかじゃ釣り合いませんよ」
そういいながら、手はしっかりと彼女の胸に押し当てる。しかし地の聖女も引かない。俺の腕を更に強く抱きしめてしゃべった。
「いいえ、私は貴方様に心を奪われてしまったのです。どうか私の想いを受け入れてはくださいませんか?」
彼女は潤んだ目で俺を見つめる。俺はそんな地の聖女を見て思わずドキッとする。
しかしルーナはそんな俺の様子を見てさらに不機嫌になり始めた。まずいなこれは、なんとかしないと。そろそろ胸の感触を楽しむのはやめよう。
「えっと…………俺はまだ聖女様のことはよく知らないし、聖女様も使命があるでしょ? 交際はもう少しお互いのことを知っていってからでも遅くないですよ」
そう言って俺は地の聖女を納得させようとする。しかし彼女はさらに力を込めて、俺に密着してきた。柔らかい感触が腕全体に伝わる。
「いいえ! 貴方様の周りには魅力的な女性が多すぎます! とにかく! 絶対に恋人にして頂きますので! 覚悟していてください!」
そう言って彼女は俺の腕から手を離した。俺は思わずため息をつく。すると、地の聖女は立ち上がり俺を見つめると再び口を開いた。
「それでは、これからよろしくお願いしますね? アクイラ様」
そう言って彼女は微笑んだのだった。俺は苦笑いしながら頷くしかなかった。そして、その後すぐに宴は終わりを迎えたのだった。
翌朝、俺たちは街の宿で朝食を食べていたのだが……何故か目の前には地の聖女がいる。しかも、昨日とは打って変わってニコニコしているし距離が近い気がする。ルーナがまた不機嫌そうに俺を睨んでいるしカイラさんはそんな俺たちを見て楽しそうにしていたりする。
地の聖女はシルヴィアさんとネレイドさんに連れていかれたおかげでテミスの街に戻ることになったらしいが、リーシャさんとエリスは元々は聖女様の付き人ではなく臨時の護衛傭兵だったらしく、しばらくルナリスの街に滞在するらしい。
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